銀色の魔物

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63話

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 以前、カジャックも本で読んだことがある。人は、特に貴族の間で多いらしいが、婚約に際し指輪を交換するようだ。共に指輪を取り、相手の左手薬指にはめるのらしい。
 これは左手薬指が心臓に直結しているとされているからだそうだ。そうしてそれぞれに相手の心を縛るのを意味したようだ。それを読んだ時は、今後も自分にまず当てはまることもないだろうし他人事としてまるで魔術の儀式みたいだと思っていた。
 余談だが、左手薬指以外の指だと「心ない仕業」となるらしい。
 装飾品を作ったことはないが、少し挑戦してみようとカジャックは思った。さすがに婚約などといった仰々しいことをするつもりはないが、きちんと形となるものをプレゼントすればサファルも実感してくれるかもしれない。いや実感は一応したのだろうが、未だにカジャックと付き合っているのは幻なのではとどこかで思っている節がある。
 もしかしたら手を出してしまえば簡単なのかもしれない。体の関係を持てば済む話なのかもしれない。ただ、そういう理由で関係を進めるのは気が進まないし、出来ればカジャックは今の感じでのサファルとのやり取りをもう少しだけ楽しみたい。人との付き合いに慣れていないからだろうか、性行為をしてしまえば関係性が変わりそうで、躊躇してしまうのもあるかもしれない。あとサファルが軽いキスだけでまだおかしな反応をしてくるのでどうにも、とカジャックは苦笑した。
 しかし今までアクセサリーなど作ったことがないため、いまいちピンとこない。とりあえず限られた知識でいくつか想像してみた。最初は金属や特殊な石で出来た繊細なデザインを思ってみたが、いまいちサファルのイメージでない気がした。サファルはもっと自然な素材のほうが似合う気がする。
 そして決まった。森の中にほんの一部しかない特殊な木がある。樹齢が相当古いのだろうと思われる。その木と、天然樹脂であるレジンを使おうとカジャックは小さく微笑んだ。
 デザインは、木と一体化させたレジンの中に、自然を閉じ込めたような色彩を埋め込むことにした。全体的に温かみのある丸みのあるフォルムにする。そしてその中に魔力を込めようとカジャックは満足したように頷いた。
 いざ作ってみるとしかし中々上手くいかない。不器用ではないつもりだが、慣れもあるのだろう。あと小さく丸く削っていくのが微妙に難しい。いきなり完成させるのは諦めて、その辺に落ちている枝などでカジャックは練習を積むことにした。

 ──別に急ぐことでもないだろう。

 サファルにはせめてもう少し甘やかしてみたら、指輪を渡すまでもなく今より少しは自覚してくれるかもしれない。せっかくの思いつきなのでいずれ指輪はきちんと作って渡したいとは思うが、今のところはこれでいくか、とカジャックは一人納得した。

「カジャック……もしかして俺に別れでも切り出そうと……?」

 だが甘やかそうとすれば、何故そう思ったのか謎でしかないがサファルが顔を青ざめながら恐る恐る聞いてくる。

「は……?」
「いえ……! その、俺もネガティブな言葉は極力発したくないんですが、でもあの、こればかりは正直に言ってください……!」
「正直も何も……むしろ話が見えないが……もしかして嫌がらせだとでも思ったのか?」
「まさか……! そうじゃなくてその、だってただでさえカジャックは前から俺に優しいのに、その上やたら甘やかしてくるとか……別れを切り出す罪悪感かと……!」

 何故そうなる。

 カジャックは微妙な顔でサファルを見た。いつだって前向きで楽しそうで、そして温かい笑みを浮かべているサファルだけに尚更驚きだ。

「お前でもマイナスに受け止めることがあるんだな」
「あ、ありますよ。普段はネガティブに考えないようにしてますが……カジャックのことになると別です」

 いつもニコニコとしているサファルが笑みを浮かべることなくカジャックを見てきた。真剣な表情をしている。

「俺、最初から軽い感じで好きだと言ってしまってるかもですが、気持ちは軽くないです。むしろ重いかも……本当に好きで……だからこそつい不安に襲われたりもしてしまって」

 ここでようやく少し笑みを見せてきた。

「まだカジャックが全然振り向いてくれてない時は、何て言うか、ただがんばろう! みたいに前向きになれたんですけど。あんたが俺を好きだと気持ちを返してくれてから逆に不安で。多分贅沢なわがままなんです。きっと。手にしたものを失いたくない、無くしたくないっていうような」

 今のはきた。

 カジャックは思った。普段から気軽に好きだと口にしてくるサファルの今の言葉は、心に染み込んできた後ぎゅっと締め付けてきた。

「お前から初めて本当に好きだと言われた気がする」
「っえ? 俺、そりゃ軽いかもですがいつも気持ちは本物ですって……! 本当に好きだとしか言ってませんよっ?」

 サファルが動揺したようにわたわたとしている。カジャックは少し笑った。

「お前に嘘がないのは分かっている。ただ、今の言葉はそれくらい真剣に聞こえた」
「し、真剣です」
「ありがとう、サファル。ならやっぱり俺のことも信用してくれ」
「……カジャック」
「俺は人が苦手だ。今でも変わってない。そんな俺が好きだと言うんだ。本当に本当だと思わないか? 別れるなんてとんでもない」

 説得力を持たせるため、静かに話すが、サファルは小さく首を降った。

「あんたが俺を好ましく思ってくれてるのは分かるんです。ありがたいことだと思う。ただ、ついその好きは俺の好きとは違うかもって思っちゃって……」

 少し俯いてきたサファルの頭を撫でたくなった。最初甘やかすつもりで、座った状態から自分より背のあるサファルを引き寄せ、背後から抱きしめるように座らせていたのだが、とうとうサファルが堪えきれないといったようにカジャックから離れて向き合い、「別れでも切り出そうと……?」などと聞いてきていた。身長差もあるので一見無理があるように見えるだろうし、その時はてっきり嫌がらせだと思われたのかと考えてしまったのだが。
 カジャックは少し離れていたサファルをまた引き寄せた。
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