銀色の魔物

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64話

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 引き寄せたサファルは身長のわりに軽いなと改めて思われた。とはいえ身長も相当高いという訳ではない。背の高いルーカスを見ていると、小さいとも思わないが多少小柄にも見える。体型のせいもあるのだろうが。
 以前サファルに聞いたことがあるが、村の男の身長はサファルと似たようなものらしい。サファルよりも高い者もいるし、もちろん小柄な男もいるが、大抵は似たようなものだと言っていた。要はサファルくらいがだいたい平均なのだろう。

 だが軽さを思うと平均とも言えないな。

 今、引き寄せながらふとそんなことを考えた。恐らく力がないことと関係しているのだろう。筋肉は一見それなりについていそうだが、実際は全く何の役にも立っていない。見た目だけだろう。

「……お前は軽いな」
「俺、軽い……っ?」

 サファルが焦ったように聞き返してきた。確かに今の今まで真剣に「好き」だということについて話していたというのに軽いと言われると戸惑うだろうとカジャックは納得した。

「すまない、性格ではなくて体重の話だ」
「えっと……それでも何でまた急に……」
「いや……。ところで本当に話が逸れて申し訳ないが、サファルは体を鍛えたりはしなかったのか?」
「ほんと何の話……っ? あー、うん、あまり……本当でしたら魔法が駄目な時点で本格的に鍛えて剣の使い手とか目指すのが格好いいんでしょうけど、俺、ほんと力ないみたいで。その上鍛え方とか分かんなくて」

 えへへ、と少し困ったようにサファルは笑ってきた。

「……困らせたならすまない」
「えっ? ぜ、全然! ただ努力してないなあって思って」
「いや、お前はしてる。前も言ったかもしれないが」
「……うん。弓はね、ちゃんと稽古もしてきました! それに体術なら多少出来るんですよ本当に」

 鍛え方が分からないのは仕方ないかもしれないとカジャックも思う。実際カジャックが体を鍛えようと思っても、参考になりそうな本ですら庶民が使えなさそうな内容ばかりだった。ジンがいたからこそ上手く鍛えてこられた。そうでなければカジャックもサファルのように力のない状態だったはずだ。初めからそこそこ力があるならまだやりようはあるが、ないところから始める場合どうしていいか分からなかったのだろうなと思われる。
 もしかしたら、お前はかなりの魔力を持っている可能性があると言ってやればいいのかもしれない。外したことのないらしいブレスレットを外せばいいのだ、と。
 だがその場合、使ったこともなく溜め込んできた魔力が暴走する可能性は高い。そんな危険に、必要もないのに晒すのはよしと思えない。

 ──高い魔力なんて……ないほうがいいようにも思うしな……。

 とにかく、もし伝えるにしてもせめて指輪が完成してからにしようとカジャックは思った。
その指輪に込める魔力はきっとサファルを多少なりとも守ってくれるはずだ。

「そうだな。お前の弓の腕はなかなかだと思うよ、俺も」
「ほんとに?」
「ああ。……体術は知らんが」
「それも一応出来るんですって!」

 あはは、とサファルが明るく笑ってきた。もし何か抱えるものを持っていても、それを出そうとしないよう努めるサファルをカジャックはこれでも尊敬している。いつでも明るくいるなんてことはきっと簡単ではない。
 引き寄せていたサファルの体をカジャックは抱きしめた。そろそろ夏が終わるとはいえ、サファルの体はほんのり汗ばんでいる。それすら愛しく思えた。

「カ、カジャック……?」
「お前の好きと俺の好きが違うなんて、何故思うんだ……?」
「また話変わった……! っていうか戻った……」
「なぁ、何故思うんだ」

 抱きしめた体がほんの少し震える。

「……カジャックが俺にとってカッコよくて優しくて強くて……とにかく凄い人だから……ですかね」
「?」
「そんなカジャックが何で俺を? ってどこかで思っちゃって」
「……馬鹿だな」
「かもしれません」
「それを言うなら、では俺にとってお前は明るくて可愛くて優しくて男らしくて強い。何で引きこもりの俺を、と思うが」
「カ、カジャックの持ってる俺の印象は間違ってますよ……っ?」
「ならお前の持つ俺の印象もな」
「俺は間違ってません」
「俺もだ」
「でも──」
「きりがないな……少し黙ったほうがいい」

 普段は素直なのに妙に強情なことがある。
 カジャックは苦笑しながら、また言い返そうとするサファルの口を自分の唇で塞いだ。唇を合わせているので表情はよく分からないが、抱きしめている体でサファルが動揺しているであろうと想像はつく。
いつもは軽いキスか、せいぜい頬や額に掠める程度だが、初めてしっかりと唇を合わせたかもしれない。舌こそ絡めていないが、しばらく重ねた上でカジャックは何度も啄んだ。
 少し進めるくらいなら大丈夫だろう。そしてサファルにも口下手なカジャックの気持ちは伝わるだろう。そう思ってのキスだった。
 ゆっくり唇を離すと、サファルが倒れるように寄りかかってきた。

「おい?」
「無理……死にそう……」
「は?」
「唇から溶けて無くなりそう……」
「大袈裟な……」

 苦笑しながらサファルを支えるようにして顔を見たら、血管でも切れたのかと思うくらいサファルが真っ赤になっていた。
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