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70話
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中に入ると、いつも通りの場所へまっしぐらに向かう。本来なら他の人同様、昼に一番しっかり食事をとりたいところだが、商売のために町へ来た時だけは違う。今日も昼前に軽くパンを食べた程度だった。
道中で多少は外に慣れたかと思えたカジャックは、中に入るとあまり周りを窺うこともなくフードを被ったまま黙ってサファルについてきた。カジャックが心配なサファルだが、何でもないような風を装って町の説明やこれから自分が行うことを話しながら移動した。
「よぉ、サファル。少し間が空いたからどうしてんのかと思ってたぞ。元気だったか」
「うん、ありがと。元気だよ。あんたは聞くまでもなく元気そうだな」
「何言ってやがる、お前に会えなくて寂しかったよ」
軽口だ。いつもの軽いやりとり。
だがカジャックがそばにいるため、サファルは少し焦る。焦る必要など何もないのだが、もしかしたら前にカジャックが「気をつけろ」的なことを言っていたからかもしれない。
「な、何言ってんだよ、よく言うよ」
「ん? 何だよ、調子悪そうだな。ちゃんと食ってるか?」
いつもの調子でないサファルを怪訝に思ったのか、相手がサファルの顎をもって顔を上げさせてきた。取引相手だけにさすがにこういった接触は普段ないが、これはこちらの様子を心配してのことだと、サファルは分かる。だがカジャックには微妙に見えたのかもしれない。
「あまり気安く触れないほうがいい……」
気づけばフードを被ったまま相手の手首を持ち、サファルから離させるとその腕を軽く捻っていた。
「い、ててっ、何だよこのちっさい兄ちゃん」
「ご、ごめん! えっと、カジャック……問題ないんで、その、手を……」
「……分かった。すまなかったな」
カジャックは静かに頷くと、つかんでいた手を離した。相手は離された手首を振っている。
「いいけどよ。ちいせぇくせに馬鹿力だし何か物騒だな。で、こいつは何だよサファル。用心棒でも雇ったのか」
「そ、そんな感じ、かな!」
あはは、とサファルは相手に笑いかけた。カジャックは寡黙なままサファルの後ろに控えている。
「用心棒が必要な、そんなキナくせぇ話出てたっけか? あーでも隣国のフィート辺りから盗賊か何かが流れてきたとか聞いたな、そういや」
「あーそれな。……って、それは知ってるけど……えっと、竜じゃなくて?」
以前、竜の話を聞いたのは別の店主からだったのもあるが、サファルはぽかんとして相手を見た。
「竜? あー。そいや聞いた気もするな……でも根も葉もない噂だろ、それこそ。ルド商会のやつは売れるならって魔法具も取り扱おうと考えてるらしいけどよ」
「んー……俺も竜の話に関してはまだピンと来てないけどさ、でも何人かに聞いたし、火のないとこにって言われたりもしたよ」
「まぁ、なぁ。でも現実的じゃねえよな」
「あは、それは分かる」
その後に以前竜の話をしてきた相手とも取引をしたが、「前に言った以上の情報は特にないんだよな」と言っていた。
「でもやっぱり扱えんなら気軽な防具や魔法具も置きたいと思ってるからよ、サフが仕入れてくれれば助かるんだけどな」
「うーん……今のところ特になぁ。でもせっかくだもんな。冬だと俺も在庫的に助かるかもだし、考えてみるよ」
「頼むぜ」
「うん。じゃあ、今後ともご贔屓にね! また」
「おう」
歩きながら、今日も何とか全部捌けたなとサファルが機嫌よく思っていると、カジャックが「凄いな」とようやく話しかけてきた。
「凄い? って、何がですか?」
「サファルが。見ていたら凄く仕事が出来る人みたいだった」
フードから覗く口元が柔らかく綻んでいる。言葉と共にそれが嬉しくて、サファルは顔が熱くなるのを感じながら思い切りカジャックに笑いかけた。
「ありがとうございます! でも俺はまだまだですよ」
「そんなことはない。誰に対しても人当たりがよくて話やすい雰囲気をいつもより出してたし、その上で言いなりじゃないしっかりしたやり取りをしていた」
「べ、別に普通ですよ」
「少なくとも俺には出来ない。だから誰にでも出来るなんてことはない。それに今こうしていい取引相手がいるにしても、最初からではなかっただろう。きっと大変なこともあったんだろうなと思う。もっと自分の腕を誇ってもいい」
仕事だし、やって当たり前だ。出来て当然だ。出来なければ食べていけない。
それだというのにカジャックの言葉にサファルは泣きそうな気持ちになった。親を亡くし、自分が頑張らねばと何とか仕事を始めた頃のことが浮かんだからかもしれない。
「……カジャック……好きです」
「……何故、今」
「……あ、は。よし、もう夕方ですし、酒場へ向かいましょう。そこで夕食と宿をいつも確保してるんです」
「分かった」
カジャックと共に酒場へ向かいながら、サファルは改めてどうにか確立していたんだなぁと自分の仕事を振り返った。
ふと日没の鐘が聞こえてくる。旅人だけでなくこの町に住む者も、この鐘と共に仕事を終え、軽い夕食をとりながら疲れを癒す。
ちなみに町の住民も村と同じように、皆夜明け前には起き出し、身支度を済ませる。そして日の出と共に商店が開き、町は早々に活気づく。
食事は朝と夜が軽くで昼がメインである。だがサファルたちはまだ今日はしっかりと食事をしていない。
「さて。じゃあ飲んで食べますか!」
酒場に着くと、サファルはまたカジャックに笑いかけた。
道中で多少は外に慣れたかと思えたカジャックは、中に入るとあまり周りを窺うこともなくフードを被ったまま黙ってサファルについてきた。カジャックが心配なサファルだが、何でもないような風を装って町の説明やこれから自分が行うことを話しながら移動した。
「よぉ、サファル。少し間が空いたからどうしてんのかと思ってたぞ。元気だったか」
「うん、ありがと。元気だよ。あんたは聞くまでもなく元気そうだな」
「何言ってやがる、お前に会えなくて寂しかったよ」
軽口だ。いつもの軽いやりとり。
だがカジャックがそばにいるため、サファルは少し焦る。焦る必要など何もないのだが、もしかしたら前にカジャックが「気をつけろ」的なことを言っていたからかもしれない。
「な、何言ってんだよ、よく言うよ」
「ん? 何だよ、調子悪そうだな。ちゃんと食ってるか?」
いつもの調子でないサファルを怪訝に思ったのか、相手がサファルの顎をもって顔を上げさせてきた。取引相手だけにさすがにこういった接触は普段ないが、これはこちらの様子を心配してのことだと、サファルは分かる。だがカジャックには微妙に見えたのかもしれない。
「あまり気安く触れないほうがいい……」
気づけばフードを被ったまま相手の手首を持ち、サファルから離させるとその腕を軽く捻っていた。
「い、ててっ、何だよこのちっさい兄ちゃん」
「ご、ごめん! えっと、カジャック……問題ないんで、その、手を……」
「……分かった。すまなかったな」
カジャックは静かに頷くと、つかんでいた手を離した。相手は離された手首を振っている。
「いいけどよ。ちいせぇくせに馬鹿力だし何か物騒だな。で、こいつは何だよサファル。用心棒でも雇ったのか」
「そ、そんな感じ、かな!」
あはは、とサファルは相手に笑いかけた。カジャックは寡黙なままサファルの後ろに控えている。
「用心棒が必要な、そんなキナくせぇ話出てたっけか? あーでも隣国のフィート辺りから盗賊か何かが流れてきたとか聞いたな、そういや」
「あーそれな。……って、それは知ってるけど……えっと、竜じゃなくて?」
以前、竜の話を聞いたのは別の店主からだったのもあるが、サファルはぽかんとして相手を見た。
「竜? あー。そいや聞いた気もするな……でも根も葉もない噂だろ、それこそ。ルド商会のやつは売れるならって魔法具も取り扱おうと考えてるらしいけどよ」
「んー……俺も竜の話に関してはまだピンと来てないけどさ、でも何人かに聞いたし、火のないとこにって言われたりもしたよ」
「まぁ、なぁ。でも現実的じゃねえよな」
「あは、それは分かる」
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「でもやっぱり扱えんなら気軽な防具や魔法具も置きたいと思ってるからよ、サフが仕入れてくれれば助かるんだけどな」
「うーん……今のところ特になぁ。でもせっかくだもんな。冬だと俺も在庫的に助かるかもだし、考えてみるよ」
「頼むぜ」
「うん。じゃあ、今後ともご贔屓にね! また」
「おう」
歩きながら、今日も何とか全部捌けたなとサファルが機嫌よく思っていると、カジャックが「凄いな」とようやく話しかけてきた。
「凄い? って、何がですか?」
「サファルが。見ていたら凄く仕事が出来る人みたいだった」
フードから覗く口元が柔らかく綻んでいる。言葉と共にそれが嬉しくて、サファルは顔が熱くなるのを感じながら思い切りカジャックに笑いかけた。
「ありがとうございます! でも俺はまだまだですよ」
「そんなことはない。誰に対しても人当たりがよくて話やすい雰囲気をいつもより出してたし、その上で言いなりじゃないしっかりしたやり取りをしていた」
「べ、別に普通ですよ」
「少なくとも俺には出来ない。だから誰にでも出来るなんてことはない。それに今こうしていい取引相手がいるにしても、最初からではなかっただろう。きっと大変なこともあったんだろうなと思う。もっと自分の腕を誇ってもいい」
仕事だし、やって当たり前だ。出来て当然だ。出来なければ食べていけない。
それだというのにカジャックの言葉にサファルは泣きそうな気持ちになった。親を亡くし、自分が頑張らねばと何とか仕事を始めた頃のことが浮かんだからかもしれない。
「……カジャック……好きです」
「……何故、今」
「……あ、は。よし、もう夕方ですし、酒場へ向かいましょう。そこで夕食と宿をいつも確保してるんです」
「分かった」
カジャックと共に酒場へ向かいながら、サファルは改めてどうにか確立していたんだなぁと自分の仕事を振り返った。
ふと日没の鐘が聞こえてくる。旅人だけでなくこの町に住む者も、この鐘と共に仕事を終え、軽い夕食をとりながら疲れを癒す。
ちなみに町の住民も村と同じように、皆夜明け前には起き出し、身支度を済ませる。そして日の出と共に商店が開き、町は早々に活気づく。
食事は朝と夜が軽くで昼がメインである。だがサファルたちはまだ今日はしっかりと食事をしていない。
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