銀色の魔物

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72話

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 その酒場の主人とやらは、背が高く体つきもしっかりした一見強面な男だった。だがよく見ると目鼻立ちのはっきりした男前でもある。

「カジャック、この人がマリ。いつも俺のこと適当にあしらってくるおっさんだよ」
「それこそそんな適当な紹介を次にしたら酒も食事も出さねえからな」

 店主は微妙な顔でサファルを睨んでいる。だがその表情はどこか優しげだとカジャックは思った。

「何でだよ。俺はお客だっつーの! そんでマリ、この人はえっと、俺の……用心棒のカジャック」

 言い淀みつつ用心棒だと口にするサファルの顔は少し赤くなっている。そんな表情を見れば「用心棒」とやらがただの用心棒ではないと宣言しているようにしか思えないだろう。現に店主は意味ありげな顔でサファルとカジャックを見てくる。

「な、何」
「いやぁ、別に? カジャック、初めまして。ここのマスターのマリだ。今後ともご贔屓に、ってことでこの一杯は俺のおごりだ」
「……ありがとう」
「えー、何でカジャックだけ? 俺には?」
「初めましてもクソもねえお前におごる義理はないな」
「ケチ」
「うるせえ、追い出すぞ」

 乱暴に言い放った後、店主は二人分の酒をカウンターに置いた。そして他の客の元にも酒を持って行く。

「しっかりした、いい人だな……」
「カジャックにそう言ってもらえて何だか俺も嬉しいです。マリ、一見適当で乱暴だけどほんといい人なんで」

 サファルは嬉しそうに笑いかけてきた。
 その後二人で食事をしていると、何人かに話しかけられた。皆、口は悪そうだが気のいい感じの者たちばかりだった。商売をしているというのもあるが、サファルの人柄なんだろうとカジャックはそっと口元を綻ばせる。
 さすがにカジャックはサファルのように誰かと気軽に話したりは出来ないが、自分で思っていた以上に平気だった。ほぼ黙っていたというのもあるが、怯えて体が震えるといったこともなかったし、突然魔法が暴走することもなかった。

「カジャックも朝は早いですが、村やこの町の人間も大抵朝は早いんです。村は主に農業の関係で早い人が多いけど、ここは商人や職人が主ですかねぇ。各種ギルドもあります」

 夕食の後、部屋へ移動しながらサファルがニコニコと説明してくれる。
 部屋はこじんまりとしているが、それなりに清潔そうだった。だが明らかに寝床が二人用ではない。

「こ、これはわざとじゃなくて、その、部屋、このタイプしか空いてなくて」

 ベッドを見ているカジャックに気づいたのか、サファルが顔を赤らめながら慌てたように説明してきた。

「別に咎めてないが……」
「そ、そうですか? よかったです。とにかく、俺が希望したんじゃない、です、ほんとに……」
「ふふ」

 サファルの様子がおかしくてつい笑ってしまった。サファルは複雑そうな顔をしている。

「あ、そういえばカジャックは俺のこと、寝汚いと思ってるでしょうけど、普段は意外にも朝、俺もちゃんと起きてるんですよ?」

 サファルが気を取り直すかのように、先ほどの話を蒸し返すかのごとく続けてきた。

「ああ、そうだろうな」

 仕事や生活態度が真面目であるサファルを思い、カジャックは静かに笑った。

「……信じてませんね?」
「信じてるよ」
「でもまた笑った」
「可愛いなと思っただけだ」
「……っ、カジャックはたまに百戦錬磨な人みたいになる……!」
「……何の話だ……?」
「な、何でもないです」

 その時、外から鐘の音が聞こえてきた。

「あれは?」
「消灯の鐘です。九時になったら鳴ります。家の灯りも消えますし、城門は閉ざされます。許可なしには一切出入り出来なくなりますよ」
「へぇ。というか、時間を鐘で知らせてくれるのか。そういえば他の時も鳴ってたな。親切だな」

 一人で生きているとまず知ることのなかった知識の一つだろうとカジャックは思った。むしろ当たり前のことなのか、時を知らせる鐘についての本は読んだことがない。

「そっか。森じゃ鐘、鳴らないですもんね。時間を知らせるだけじゃないんですよ」

 あはは、とサファルが楽しそうな顔をしてきた。

「というと?」
「他の連絡事項にも鐘、鳴らされます。住民全員に知らせたいような連絡の時ですかね。お祭りの時とか……あ、裁判が行われる時もかな」
「面白いな」
「俺は聞いたことないですけど、場所によればカリヨンっていう鐘の演奏もあるみたいですよ」
「カリヨン?」
「鐘なんですけど、楽器というか。鐘の音色で音楽を奏でるんです」
「へぇ、聴いてみたいな」

 サファルが変に緊張していたのもあるが、カジャックも初めて外へ出たからだろう。どこか張り詰めた気持ちがあった。だが気づけばお互い、いつものように寛いだ雰囲気になっていた。
 普段カジャックの家に二人で眠る時は別々の寝床で寝ていた。だがこの部屋ではそれは難しそうだ。消灯時間が過ぎてどこもかしこも暗く、部屋も小さなランプの灯りしかない。どのみち寝るしかないので二人で横になった。

「俺は小柄でよかったかも。お前を圧迫することもないし」
「カジャックになら圧迫死や轢死でも本望です」
「いや、轢死って……だいたい何で死ぬ前提なんだ」
「……今、嬉しさと緊張と恥ずかしさと嬉しさと嬉しさで既に死にそうなんです……」

 カジャックに背を向けているサファルが消え入りそうな声で言ってきた。きっと顔は真っ赤なのだろうなと思いつつ、今はあまりサファルのことを考えないようにしようとカジャックは思った。自分でも基本落ち着いた性格だとは思っているが、さすがにこれは意識してしまう。ともすれば抱き寄せてしまいそうだ。
 サファルの肩を優しくポンポンと叩いた後にカジャックは目を閉じた。
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