銀色の魔物

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88話

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 凄い魔法とやらを使ったらしいくせに、自分の体をサファルは癒していなかったようだ。まだ少しだけ痛む背中をとりあえず無視しつつ、村の男たちが瓦礫などを移動させたり土台から作り直し始めたりしているのを眺めていた。ちなみにサファルの背中に負っている火傷は、カジャックがあまり得意ではないと言う水魔法でなんとかましにしてくれていたようだ。残念ながらサファルはその時完全に気絶したように眠っていてその様子は目の当たりにしていない。

「俺だとせいぜいこの程度しか出来ない。アルゴが戻ってきたら改めて癒してもらおう」

 サファルとしてはカジャックが本人曰く苦手らしい魔法を使ってくれたことが嬉しいため、正直このままでいいと思った。だいたい火属性だというのに水魔法を使える時点で既にすごいことなのだとカジャックはいまだにどうも分かっていないようだ。
 ただ、このままでいいと伝えると「このままだと治りは遅いだろうし痕が残るかもしれないから」と首を横に振られた。

「カジャックが癒してくれて残る痕ならそれでいいです」

 というか、むしろ残っていいとさえ思った。

「何を言ってるんだ。綺麗な背中なのに。駄目だ」
「き、綺麗って」

 顔が熱くなる。

「ああ。お前の体は何度も見ているから知ってる」

 傍から聞いたらとても深い関係に思われるようなことを言われたが、実際はほぼ川に落ちての結果であり、サファルはドキドキした後に微妙な顔になった。

「あ。な、なら俺の魔法とらやを……」

 そういえば魔法が使えるようになったらしいのだったとサファルが意気込むも、カジャックは少し考えるような顔になった。多分知らない人が見たら怖がられるんだろうなという目をしているが、サファルにとってはその目付きすら愛しい。

「……それは……そうだな、お前はまだ慣れていないのもあるし、もしかしたら余計傷が広がる可能性だってある。今は止めておいたほうがいい」
「そう、ですか……」

 少しがっかりしたが、カジャックに対しては基本的に素直であるサファルは簡単に引き下がった。竜の時に勝手をしたのは例外だ。
 そのため完全に癒えていない火傷のせいで、早くも始まっている村の復興にはまだ参加出来なかった。
 骨組みから始めないといけないところは樫を切ってこないといけないため後回しになっているようだが、それが無事なところは繋ぎに藁を混ぜた漆喰を使って壁を作っている。屋根には片岩などを使い、手際のよい修復が進んでいる。
 ところでクエンティ王国からの誘いに関してサファルはその場で断りを入れていた。せっかくの誘いでもあり、笑顔を作ってサファルなりに丁重に断ったのだが、相手には唖然とされた。それもそうだろう。大抵の男なら王国からの誘いなど、誉れでしかないだろうし、喜んで自分の力や運を試しに行くはずだ。サファルも昔なら喜び勇んで頷いていたかもしれない。
 だがこの村が好きだし、リゼのそばを少なくともリゼが──ルーカス本人はちっとも気づかないしその気になってくれるかすら怪しいところだが──ルーカスの元へ嫁に行くまでは離れたくない。村の皆も「もったいない」などと言いつつも、そんなサファルを知っているので驚きはしていないようだった。
 剣や魔力の強い者を集めているとはいえ、特にクエンティの王族に悪い噂はない。あるとすれば一部の貴族だろうか。あくまでも商人同士の噂に過ぎないが、自分の利益のためなら手段を選ばないような貴族もいると聞く。とにかく基本的にはいい政治が行われている国の使者といった感じで、サファルを誘ってきた男も「無理強いは出来ません。とても残念ですが引き下がります。でもまた改めてお誘いさせていただくかもしれません」と身分は高そうなのにあくまでも丁寧に一旦サファルの断りを受け入れてくれた。話し方一つを取ってもサファルにも分かるくらい気品が感じられた。ただ、その場にいた王国の人たちの中には、やたらサファルをじろじろと見てくる人もいて、貴族の話ではないがいい人ばかりでもなさそうだとは内心思っていた。

「よぉ、サファル」
「ブルーノ。お疲れ」

 少し休憩しようとしていた何人かの男たちの中から、自分に気づいてやって来た相手にサファルは笑いかける。

「背中、火傷酷いらしいな……」
「うん、でもカジャックが魔法で癒してくれたからずいぶんマシだよ」
「……そ、そうか。……。……あいつ、マジでお前の恋人なのか?」
「まじ、まじ! 本当に恋人! 俺もいまだにあんま信じられないけど」

 えへへ、と笑えば相手は妙な顔をしてきた。

「ブルーノ?」
「……いや。まぁ、よかったな。お前にも恋人が出来てよ」
「にも、って何だよ。でも、うん。ありがとうブルーノ」
「……はぁ」
「何だよ」
「何でもねーよ。これでも人のもんを無理やり取るほどたちは悪くねぇ」
「何の話だよ」
「……ほんとお前って頭いいのに馬鹿だよな」
「は?」
「別に。はー。……何なら背中の火傷、見てやろうか?」

 またため息を吐いた後、思い付いたかのように言いながらニヤリと笑われる。

「見……」

 見る? と言いかけたサファルの頭にルーカスやカジャックの顔が浮かんだ。何となく、こういう時に軽率なことをするなと言うことかもしれない、とサファルは言い直す。

「見てどーすんだよ」
「そうだなー。ああ、皮膚の怪我には尿がいいって前に村に出張してきた医者が言ってたからな。しっこ、かけてやってもいいぜ」

 ニヤリと笑いながら言ってくる相手をサファルは微妙な顔で見た。

「俺もそれは聞いたことあるけど、医者でもないお前がどうやって。そのままかけるつもりならごめんだからな」
「何だよ、残念だな」
「何が残念なんだよ。しっこ、いらない」
「まぁまぁ」
「何だよ」

 そんなやり取りをしていると、別の友人が「サファル……そういうとこだよ」とよく分からないことを呟いてきた。
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