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105話
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ぽとん、という音が外から聞こえてきた。先ほどから何度も聞いている。サファルは表へ出ると、その木々からしたたる雪解けの様子を眺めた。
最近、そろそろ春が近づいているようで、それにより深く積もっていた雪がじわじわと解け出している。また日の光や気温の上昇によってだけでなく、降る雪に水分が多く含まれるようになってきたため、余計に積もった雪が解けるのを促しているようだ。昨日はとうとう雨さえ降った。
「そろそろ俺、帰る頃ですね……」
雨を眺めながらサファルが言えば、武器の手入れをしていたカジャックが頷いてきた。
「もう少ししたら、そうだな」
「もう少し?」
「今は地面のコンディションが最悪だからな」
「……そんなこと言って、もしかして少しは俺のこと、引き留めてくれてます?」
そんなことはないんだろうなと思いつつもサファルが言えば「少し、な」とカジャックが口元を綻ばせてきた。
その後、夜にいつもより少しだけお互い激しく求め合ったかもしれない。今朝、目が覚めた時にサファルはそれを思い出して口が緩みつつも久しぶりに体が悲鳴を上げるのを感じた。おかげで朝食はベッドでとった。サファルは動けると言ったのだが、カジャックが申し訳なさそうに「横になっていてくれ」と甲斐甲斐しく作った食事を運んだりしてくれたからだ。
少ししてカジャックは狩りに出て行った。狩りというか「欲しい樹皮がある」とよく分からないことを言っていた。だがカジャックが妙なことをするはずがないとサファルは把握しているのでニコニコと見送った。一緒に行くと言っても多分「まだ体がきついだろう。休んでおけ」と言われるのが目に見えていたのでおとなしくしていた。
とはいえ別に病気でも怪我でもないので少ししてずいぶん体が慣れてきた頃に、こうして表へ出たという訳だ。
「……水の女神よ……」
腕輪を外したサファルは小声で簡単な呪文を唱えると、そっと手をかざした。すると今にもまたぽとん、と滴り落ちそうだった小さな氷柱の先は、楕円の形を少し歪ませながらもそのままそこに留まっている。
「……ん、ふ」
そっとかざした手が少し震えた。なんというか、体の芯がだるさを訴えてくる。
「っ、はぁ……」
堪えきれずに手を下ろすと同時に留まっていた雪解けの雫が弾けるように落ちていく。サファルは大きく息を吐いた。
雪や氷はまだ、サファルには扱い辛い。だが解けた水ならと魔力を使っていたのだが、やはりというか調整はまだまだ下手だ。ともすれば氷柱ごと砕いてしまいそうだった。
最近知ったことだが、指輪をしたままでも思い切り力を使うほうがまだ辛うじて簡単だ。今のようにかなり加減して抑えた力で留めるといったことのほうが難しかったりする。
一旦外していた腕輪をつけ直すと、サファルはため息を吐いてから伸びをした。そして腰にきてうずくまった。
しばらくしてカジャックは帰ってきた。
「お帰りなさい。欲しかった樹皮とやらはありましたか」
「ただいま、サファル。うん、見つけた。というか、もう動いて大丈夫なのか……」
「あは、大丈夫ですよ」
「ならよかった。本当にすまなかったな」
ほっとしたような様子のカジャックが愛しくて、サファルはきゅっと手を握った。
「謝る必要なんてないですよ。俺はむしろ嬉しかったくらい」
「何故」
「だって当たり前じゃないですか。俺だけじゃなくてカジャックも激しいくらい俺を求めてくれてんですよ? 大歓迎です」
「だが体がきつそうだ……」
「そんなもん、慣れますって。むしろ慣れるくらいいつも激しいの、やっちゃうとかどうですか」
半分以上本気で言ったのだが、カジャックは冗談と受け取ったのか小さく笑ってきただけだった。それを残念に思っていると、カジャックは取ってきたらしい樹皮を煮始める。
「カジャック、それ何に使うんですか?」
「煎じてお前に塗る」
「何で?」
ポカンとしていると「筋肉痛に効く」と返ってきた。
「わー、カジャックの愛を感じます」
「……それは良かった」
気持ちを伝えたのに苦笑された。その後に服を脱ぐよう言われ、サファルは素直に脱いだ。囲炉裏のおかげで肌を出しても寒くはない。
煎じ汁を塗られている間、正直少々くすぐったさと共につい性的な気分も感じさせられた。
「は……、ぁ。カジャック、俺、変な気分になりそうです」
「我慢して」
カジャックは笑いながらサファルの腰に触れてくる。触れるといっても煎じ汁を塗るためなのだが布や刷毛ではなく手で塗ってくるのがまたサファルにとっては堪らなかった。
「ん……」
「……すまん、子作り中だったか」
このままカジャックの手に集中して勝手に感じていようとサファルが思っているとアルゴの声がした。
「ひ?」
とてつもなく焦ったサファルに対し、カジャックはいつもと変わらずで「そんな訳ないだろう」と呆れて振り返っている。
「いや、明らかにおかしなことをしていたではないか」
「オークの樹皮を煎じて塗っていただけだ。あと、俺とサファルでは子どもは作れない」
そこはなんというか、とサファルは微妙な顔をしたが、アルゴは違った。
「男なのだからな。だからサファルを……というか、何だと? ……サファル、怪我でもしたのか?」
ニヤリとしていたアルゴが急に真面目な顔で近づいてきてサファルを見てきた。
「し、してません」
「なら何故」
「アルゴ、そんなことより何かあったのか?」
理由なんか言えるかとサファルが思っているとカジャックが話を切り返している。基本的に無口でもやっぱりその辺が大人だなとサファルは内心ついニヤニヤとしていた。だがアルゴの言葉にそれもなくなる。
「ああ、そういえば前にもこんなことがあったな。今回もサファルに話があったんだが」
「え。俺に何か……? っていうか何でそれでカジャックの家に来るんですか」
「現にここにいるだろうが。そんなことはそれにどうでもいい。サファル、お前どうやら少し狙われているらしい」
「は? え、誰に?」
最近、そろそろ春が近づいているようで、それにより深く積もっていた雪がじわじわと解け出している。また日の光や気温の上昇によってだけでなく、降る雪に水分が多く含まれるようになってきたため、余計に積もった雪が解けるのを促しているようだ。昨日はとうとう雨さえ降った。
「そろそろ俺、帰る頃ですね……」
雨を眺めながらサファルが言えば、武器の手入れをしていたカジャックが頷いてきた。
「もう少ししたら、そうだな」
「もう少し?」
「今は地面のコンディションが最悪だからな」
「……そんなこと言って、もしかして少しは俺のこと、引き留めてくれてます?」
そんなことはないんだろうなと思いつつもサファルが言えば「少し、な」とカジャックが口元を綻ばせてきた。
その後、夜にいつもより少しだけお互い激しく求め合ったかもしれない。今朝、目が覚めた時にサファルはそれを思い出して口が緩みつつも久しぶりに体が悲鳴を上げるのを感じた。おかげで朝食はベッドでとった。サファルは動けると言ったのだが、カジャックが申し訳なさそうに「横になっていてくれ」と甲斐甲斐しく作った食事を運んだりしてくれたからだ。
少ししてカジャックは狩りに出て行った。狩りというか「欲しい樹皮がある」とよく分からないことを言っていた。だがカジャックが妙なことをするはずがないとサファルは把握しているのでニコニコと見送った。一緒に行くと言っても多分「まだ体がきついだろう。休んでおけ」と言われるのが目に見えていたのでおとなしくしていた。
とはいえ別に病気でも怪我でもないので少ししてずいぶん体が慣れてきた頃に、こうして表へ出たという訳だ。
「……水の女神よ……」
腕輪を外したサファルは小声で簡単な呪文を唱えると、そっと手をかざした。すると今にもまたぽとん、と滴り落ちそうだった小さな氷柱の先は、楕円の形を少し歪ませながらもそのままそこに留まっている。
「……ん、ふ」
そっとかざした手が少し震えた。なんというか、体の芯がだるさを訴えてくる。
「っ、はぁ……」
堪えきれずに手を下ろすと同時に留まっていた雪解けの雫が弾けるように落ちていく。サファルは大きく息を吐いた。
雪や氷はまだ、サファルには扱い辛い。だが解けた水ならと魔力を使っていたのだが、やはりというか調整はまだまだ下手だ。ともすれば氷柱ごと砕いてしまいそうだった。
最近知ったことだが、指輪をしたままでも思い切り力を使うほうがまだ辛うじて簡単だ。今のようにかなり加減して抑えた力で留めるといったことのほうが難しかったりする。
一旦外していた腕輪をつけ直すと、サファルはため息を吐いてから伸びをした。そして腰にきてうずくまった。
しばらくしてカジャックは帰ってきた。
「お帰りなさい。欲しかった樹皮とやらはありましたか」
「ただいま、サファル。うん、見つけた。というか、もう動いて大丈夫なのか……」
「あは、大丈夫ですよ」
「ならよかった。本当にすまなかったな」
ほっとしたような様子のカジャックが愛しくて、サファルはきゅっと手を握った。
「謝る必要なんてないですよ。俺はむしろ嬉しかったくらい」
「何故」
「だって当たり前じゃないですか。俺だけじゃなくてカジャックも激しいくらい俺を求めてくれてんですよ? 大歓迎です」
「だが体がきつそうだ……」
「そんなもん、慣れますって。むしろ慣れるくらいいつも激しいの、やっちゃうとかどうですか」
半分以上本気で言ったのだが、カジャックは冗談と受け取ったのか小さく笑ってきただけだった。それを残念に思っていると、カジャックは取ってきたらしい樹皮を煮始める。
「カジャック、それ何に使うんですか?」
「煎じてお前に塗る」
「何で?」
ポカンとしていると「筋肉痛に効く」と返ってきた。
「わー、カジャックの愛を感じます」
「……それは良かった」
気持ちを伝えたのに苦笑された。その後に服を脱ぐよう言われ、サファルは素直に脱いだ。囲炉裏のおかげで肌を出しても寒くはない。
煎じ汁を塗られている間、正直少々くすぐったさと共につい性的な気分も感じさせられた。
「は……、ぁ。カジャック、俺、変な気分になりそうです」
「我慢して」
カジャックは笑いながらサファルの腰に触れてくる。触れるといっても煎じ汁を塗るためなのだが布や刷毛ではなく手で塗ってくるのがまたサファルにとっては堪らなかった。
「ん……」
「……すまん、子作り中だったか」
このままカジャックの手に集中して勝手に感じていようとサファルが思っているとアルゴの声がした。
「ひ?」
とてつもなく焦ったサファルに対し、カジャックはいつもと変わらずで「そんな訳ないだろう」と呆れて振り返っている。
「いや、明らかにおかしなことをしていたではないか」
「オークの樹皮を煎じて塗っていただけだ。あと、俺とサファルでは子どもは作れない」
そこはなんというか、とサファルは微妙な顔をしたが、アルゴは違った。
「男なのだからな。だからサファルを……というか、何だと? ……サファル、怪我でもしたのか?」
ニヤリとしていたアルゴが急に真面目な顔で近づいてきてサファルを見てきた。
「し、してません」
「なら何故」
「アルゴ、そんなことより何かあったのか?」
理由なんか言えるかとサファルが思っているとカジャックが話を切り返している。基本的に無口でもやっぱりその辺が大人だなとサファルは内心ついニヤニヤとしていた。だがアルゴの言葉にそれもなくなる。
「ああ、そういえば前にもこんなことがあったな。今回もサファルに話があったんだが」
「え。俺に何か……? っていうか何でそれでカジャックの家に来るんですか」
「現にここにいるだろうが。そんなことはそれにどうでもいい。サファル、お前どうやら少し狙われているらしい」
「は? え、誰に?」
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