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110話
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どこへ行く、というあてがある訳ではなかった。何なら三大王国のどこかへ行ってみるのもいいと二人は思っている。誰かがサファルを今すぐにでもどうこうしようと狙っているのであれば、この大陸自体からも逃れて遠い国を目指すべきかもしれないが、アルゴの話では警戒はしたほうがいいとはいえ身を完全に隠すほどでもないと言う。
「まあ、でもクエンティは避けるか」
「はい」
クエンティの使者からは一度誘われているし、諦めた訳ではない的なことをサファルはやんわりと言われている。近寄らないにこしたことはないだろう。
ラーザの村自体がルークの森のほんの入り口辺りにあるため、とりあえず二人はルークの森を歩いていた。どのみちイント王国やフィート王国へ行くにしてもここを抜けなければ向かえない。クラフォンに立ち寄るにしても森に沿ったほうがむしろ安全かもしれない。
ラーザからだとどちらの王国も、休むことなく延々と歩き続ければおそらく五日ほどで着く距離になる。とはいえ休まずは不可能なので実際は直接目指しても二週間は少なくともかかるだろう。ラーザ村から最も近いクラフォンの町ですら歩いて半日はかかる。同じルークの森にフィクトンという村があるが、そこへ行くにも二日と半日はかかると思われた。
「クラフォンへ立ち寄るとして、後は野宿だな。所々にも村はあるだろうが宿泊施設があるかどうかも分からないし」
「野宿どんと来いですよ。頑丈なとこが取り柄ですから!」
「あと、肉を焼くのが上手い、だな」
「はい!」
ルークの森も奥へ入れば危険も増すが出入口付近はさすがに魔物も出ない。それに獣道ではない人が歩ける道もある。念のため警戒はするが、二人ともわりと気楽に道を進めていた。
森を出てからも途中、盗賊らしき者やちょっとした魔物にも出くわしたが、特に問題はなかった。クラフォンでは顔見知りの商人や酒場の店主にサファルはしばらく旅に出るからと挨拶をしに行った。また来るからと言えば皆、いつでも待っていると答えてくれた。
「問題あるとしたらですねー」
今日もまた野宿となり、適度な場所を見つけると焚き火の火力をカジャックが調整し、狩った獣の肉を焼いているところだった。
「あるとしたら?」
「セックスです」
「……サファル、ちょうど肉、焼けたぞ」
「今、わざと無視しましたよね」
「肉は本当に焼けている」
「……ありがとうございます」
カジャックに差し出された肉を受けとると、サファルは欲望には抗えずといった様子で食いついた。カジャックも何事もなかったかのように焼けた肉にかぶりつく。
「うん、美味いな。俺は魚のほうが好きだが、それでもサファルが焼く肉は美味いと思う」
「ほんとですかっ? 嬉しいな」
そうして二人で更にかぶりついて少ししてからサファルはカジャックの服をつかんだ。
「流しましたよね」
「お前も乗っていたが」
「だって嬉しいじゃないですか、カジャックに褒められるのって」
「ならいくらでも褒めよう」
「ええー、それはめちゃくちゃ嬉しい反面、ご褒美感が──ってまた!」
「俺のせいか?」
「うぅ。そりゃ軽率に乗るのは俺ですけど。カジャック」
「……何」
カジャックは渋々といった風に返事をする。
「セックスです」
「……そういう言葉をあまりはっきり口にするな」
「ええ? でも性交とか言うほうが卑猥な響きしませんか。それとも交尾のほうがいいですか」
「動物じゃないんだから……あと、口にする必要がないだろうと言いたかった」
「ありますよ。ずっと一緒なのに、クラフォンを出てからもう何日してないと」
「不衛生だろ、こんな状況だと」
「そんなこと」
「じゃあサファルは洗えてない体を俺に触れられても平気なんだな。なら」
「そう言われちゃうと平気じゃないです……!」
汚れた自分の体に触れるカジャックを想像し、サファルは手で顔を覆った。
「じゃあ諦め……」
「明日」
「え?」
「明日は川を目指します」
森やラーザ付近を流れる川が分岐したものが、もう少し行けば確かあるはずだった。
「一応聞くが、何故……」
「体を清潔にして、セッ……愛し合うためですよ」
にっこりとサファルが答えるも、カジャックは片手で顔を覆いつつため息を吐いてきた。
「……もしかしてカジャック、もう俺とはしたくない、とか……?」
「そんなことは絶対にない。……あのな、サファル。ここは外だ」
「……? はい」
「外なんだよ。分かるか? 公共の場だ」
「え、いやでもこの辺は盗賊どころか獣だってようやく見つけたくらいですよ?」
「そういう問題じゃない。外でああいった行為をするというのが、俺には」
「駄目!」
「え?」
「駄目ですよカジャック。こればかりは駄目。普段ならあんたの言うことは何だって鵜呑みにしたい勢いだけど、こればっかは駄目!」
「な、何故」
「だって! 旅にどれほど野宿が多くなると思ってんです? その間ずっと何も出来ないなんて俺、無理です」
とてつもなく真剣な様子でサファルが力を込めて言うと、カジャックは呆れたように苦笑してきた。
「……分かった」
「ほんと?」
「その代わり、少しずつ慣れる方向で頼む」
少しずつ慣れるってむしろ何をするのだとサファルは疑問に思いつつも、首がもげそうなほどに頷いた。
「まあ、でもクエンティは避けるか」
「はい」
クエンティの使者からは一度誘われているし、諦めた訳ではない的なことをサファルはやんわりと言われている。近寄らないにこしたことはないだろう。
ラーザの村自体がルークの森のほんの入り口辺りにあるため、とりあえず二人はルークの森を歩いていた。どのみちイント王国やフィート王国へ行くにしてもここを抜けなければ向かえない。クラフォンに立ち寄るにしても森に沿ったほうがむしろ安全かもしれない。
ラーザからだとどちらの王国も、休むことなく延々と歩き続ければおそらく五日ほどで着く距離になる。とはいえ休まずは不可能なので実際は直接目指しても二週間は少なくともかかるだろう。ラーザ村から最も近いクラフォンの町ですら歩いて半日はかかる。同じルークの森にフィクトンという村があるが、そこへ行くにも二日と半日はかかると思われた。
「クラフォンへ立ち寄るとして、後は野宿だな。所々にも村はあるだろうが宿泊施設があるかどうかも分からないし」
「野宿どんと来いですよ。頑丈なとこが取り柄ですから!」
「あと、肉を焼くのが上手い、だな」
「はい!」
ルークの森も奥へ入れば危険も増すが出入口付近はさすがに魔物も出ない。それに獣道ではない人が歩ける道もある。念のため警戒はするが、二人ともわりと気楽に道を進めていた。
森を出てからも途中、盗賊らしき者やちょっとした魔物にも出くわしたが、特に問題はなかった。クラフォンでは顔見知りの商人や酒場の店主にサファルはしばらく旅に出るからと挨拶をしに行った。また来るからと言えば皆、いつでも待っていると答えてくれた。
「問題あるとしたらですねー」
今日もまた野宿となり、適度な場所を見つけると焚き火の火力をカジャックが調整し、狩った獣の肉を焼いているところだった。
「あるとしたら?」
「セックスです」
「……サファル、ちょうど肉、焼けたぞ」
「今、わざと無視しましたよね」
「肉は本当に焼けている」
「……ありがとうございます」
カジャックに差し出された肉を受けとると、サファルは欲望には抗えずといった様子で食いついた。カジャックも何事もなかったかのように焼けた肉にかぶりつく。
「うん、美味いな。俺は魚のほうが好きだが、それでもサファルが焼く肉は美味いと思う」
「ほんとですかっ? 嬉しいな」
そうして二人で更にかぶりついて少ししてからサファルはカジャックの服をつかんだ。
「流しましたよね」
「お前も乗っていたが」
「だって嬉しいじゃないですか、カジャックに褒められるのって」
「ならいくらでも褒めよう」
「ええー、それはめちゃくちゃ嬉しい反面、ご褒美感が──ってまた!」
「俺のせいか?」
「うぅ。そりゃ軽率に乗るのは俺ですけど。カジャック」
「……何」
カジャックは渋々といった風に返事をする。
「セックスです」
「……そういう言葉をあまりはっきり口にするな」
「ええ? でも性交とか言うほうが卑猥な響きしませんか。それとも交尾のほうがいいですか」
「動物じゃないんだから……あと、口にする必要がないだろうと言いたかった」
「ありますよ。ずっと一緒なのに、クラフォンを出てからもう何日してないと」
「不衛生だろ、こんな状況だと」
「そんなこと」
「じゃあサファルは洗えてない体を俺に触れられても平気なんだな。なら」
「そう言われちゃうと平気じゃないです……!」
汚れた自分の体に触れるカジャックを想像し、サファルは手で顔を覆った。
「じゃあ諦め……」
「明日」
「え?」
「明日は川を目指します」
森やラーザ付近を流れる川が分岐したものが、もう少し行けば確かあるはずだった。
「一応聞くが、何故……」
「体を清潔にして、セッ……愛し合うためですよ」
にっこりとサファルが答えるも、カジャックは片手で顔を覆いつつため息を吐いてきた。
「……もしかしてカジャック、もう俺とはしたくない、とか……?」
「そんなことは絶対にない。……あのな、サファル。ここは外だ」
「……? はい」
「外なんだよ。分かるか? 公共の場だ」
「え、いやでもこの辺は盗賊どころか獣だってようやく見つけたくらいですよ?」
「そういう問題じゃない。外でああいった行為をするというのが、俺には」
「駄目!」
「え?」
「駄目ですよカジャック。こればかりは駄目。普段ならあんたの言うことは何だって鵜呑みにしたい勢いだけど、こればっかは駄目!」
「な、何故」
「だって! 旅にどれほど野宿が多くなると思ってんです? その間ずっと何も出来ないなんて俺、無理です」
とてつもなく真剣な様子でサファルが力を込めて言うと、カジャックは呆れたように苦笑してきた。
「……分かった」
「ほんと?」
「その代わり、少しずつ慣れる方向で頼む」
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