123 / 137
122話
しおりを挟む
本当に迂闊だった。サファルは必死になって辺りを見渡しながら自分を殴りたい気持ちだった。
この場で一番、こういった街中で注意しなければいけないことを把握している大人は自分だというのにと下唇を噛み締める。とはいえ取り乱している場合ではない。自分反省会は後でゆっくりすべきで、今はとりあえずまだ四歳の小さな少女を探すべきだった。
……でもあの状況で自らいなくなる可能性よりは……考えたくないけど拐われたって考えるほうが……。
ここイントの治安は決して悪くはないと、まだ来て間もないながらにサファルは思っている。だがそれでもそういった者はどこにでもいる。それにマントのせいもあり一瞬しか見てはいなかったが、リーナという少女はとても可愛らしかった。売れば金になると考える輩はいるだろう。
「サファル、あそこだ」
カジャックの声にハッとなる。指された方向に目を凝らし、ようやく何とかそれらしき影が見えた。とはいえはっきり見えなくともカジャックが言うなら間違いない。
「君たちは絶対お互い目を離さないよう固まってここにいて」
サファルは子どもたちにそう告げるとカジャックと共に走った。力もないしカジャックの身体能力にも及ばないが、これでも身軽さには自信がある。
相手は子どもを抱えているのもあり、あっという間に追い付きそうだった。だが捕まえられるかといったところでするりとまた先へ逃げられる。相手がこの地をよく把握している分、こちらは不利だ。路地裏やたくさんの階段を上ったり降りたりしている内に、気づけば港まで来ていた。自然に出来た地形を生かしたこの場所はまだ観光すらしていない場所なのにと変なところに憤りつつ、サファルはカジャックと共に相手を追い詰めようとした。
だがカジャックが「……待て、サファル。あまり相手を追い詰め過ぎないほうがいい」と呟いてくる。
「な、何故です」
「追い詰められた獲物は何をしでかすか分からない」
獲物? と一瞬怪訝に思いつつ、サファルは言われた通り無理に近寄ろうとするのを止めた。カジャックが小さな声で何かを呟く。すると世間知らずだからだろうか、今までも状況を把握していなさそうだった少女が呆気なくこてんと眠りに落ちた。犯人はしかしギラギラとした目で二人を睨み付けている。だが犯人は既に追い詰められた気持ちになっていたようだ。それも最悪な思考に流れていた。舌打ちすると、少女を持ち上げて海に向かって投げた。そして自分はこの場から逃げ去ろうとしている。
「カジャック犯人追って! 水だしこっちは俺が!」
端的にしか口に出来なかったが、カジャックは即頷くと駆け出して行った犯人を追う。少女という、考慮しなければならない存在がなくなった今、間違いなくすぐに犯人はカジャックに捕まるだろう。
サファルも躊躇することなく海へ飛び込んだ。湖や川と違う水の感覚に戸惑うが、恐れている場合ではないと必死に目を開けて少女を探した。幸い、カジャックの強い魔力のおかげで眠ったままの少女は塩の力なのだろうか、すぐにぷかりと浮いてきた。少し泣きそうな気持ちになったのは心底ホッとしたからだ。ついこの小さな少女をリゼと重ねてしまい、サファルは心からよかったと安堵して少女を抱き寄せた。
岸まで少女を抱えたまま泳ぐと「リーナ!」「リーナ様!」と少年たちの声がする。いつの間にか後の二人も合流していたようだ。留まっているように言ったのにと内心苦笑しつつ、サファルは多分自分だったとしても少年たちと同じことをしているだろうなと思ったので叱るつもりはなかった。
「……丁度良かった。リーナを先に上げるの手伝って」
サファルも上がると、少年たちが泣きそうな顔で、目を覚まさないリーナを見ている。
「大丈夫。魔法で眠っているだけだよ」
カジャックが魔法をかけてくれていて良かったとサファルは思う。まさか海へ放り投げられるとはさすがに予想していなかっただろうが、少女は把握出来ていないまま眠ってしまったので、この出来事がトラウマになることはないだろう。サファルは、自分が辛うじて子どもだった十四歳の時のことをふと考える。
「魔法で? お兄さん、そんな魔法使えるんですか」
「あー、っと、その魔法はもう一人がかけたんだ。だから解くのもその人かな。ああ、でも──」
サファルは彼らに近づくと少し促して少女から離れさせた。そして短い言葉を詠唱する。
「わぁ」
びしょ濡れだった少女と自分の体や服がみるみる内に何もなかったかのように乾いていく。感じていた妙なベタつきもなくなった。
「このままだと風邪、引いちゃうもんな」
「お兄さんも魔術師だったんだ!」
「なかなかの魔法だった」
「凄いです」
少年たちが感嘆している中、「サファル……今、魔法……」と驚いた声が後ろからしてきた。
「カジャック! 犯人はどうしましたか」
驚いているのも無理はないと思いつつ、サファルは申し訳ないながら先に気になったことを聞いた。
「あ、ああ……捕まえた時、丁度衛兵がやって来たので引き渡してきた。あいつがやらかしたことを見ていた人も多かったし他にも犯罪履歴のあるやつだったようで、呆気なく連れてかれたよ」
「良かった……」
「で、サファルは……」
「あ、えっと、魔法のことは今日の夜にでも説明させてください」
サファルが言うとカジャックはすぐに「分かった」と頷いてきた。
この場で一番、こういった街中で注意しなければいけないことを把握している大人は自分だというのにと下唇を噛み締める。とはいえ取り乱している場合ではない。自分反省会は後でゆっくりすべきで、今はとりあえずまだ四歳の小さな少女を探すべきだった。
……でもあの状況で自らいなくなる可能性よりは……考えたくないけど拐われたって考えるほうが……。
ここイントの治安は決して悪くはないと、まだ来て間もないながらにサファルは思っている。だがそれでもそういった者はどこにでもいる。それにマントのせいもあり一瞬しか見てはいなかったが、リーナという少女はとても可愛らしかった。売れば金になると考える輩はいるだろう。
「サファル、あそこだ」
カジャックの声にハッとなる。指された方向に目を凝らし、ようやく何とかそれらしき影が見えた。とはいえはっきり見えなくともカジャックが言うなら間違いない。
「君たちは絶対お互い目を離さないよう固まってここにいて」
サファルは子どもたちにそう告げるとカジャックと共に走った。力もないしカジャックの身体能力にも及ばないが、これでも身軽さには自信がある。
相手は子どもを抱えているのもあり、あっという間に追い付きそうだった。だが捕まえられるかといったところでするりとまた先へ逃げられる。相手がこの地をよく把握している分、こちらは不利だ。路地裏やたくさんの階段を上ったり降りたりしている内に、気づけば港まで来ていた。自然に出来た地形を生かしたこの場所はまだ観光すらしていない場所なのにと変なところに憤りつつ、サファルはカジャックと共に相手を追い詰めようとした。
だがカジャックが「……待て、サファル。あまり相手を追い詰め過ぎないほうがいい」と呟いてくる。
「な、何故です」
「追い詰められた獲物は何をしでかすか分からない」
獲物? と一瞬怪訝に思いつつ、サファルは言われた通り無理に近寄ろうとするのを止めた。カジャックが小さな声で何かを呟く。すると世間知らずだからだろうか、今までも状況を把握していなさそうだった少女が呆気なくこてんと眠りに落ちた。犯人はしかしギラギラとした目で二人を睨み付けている。だが犯人は既に追い詰められた気持ちになっていたようだ。それも最悪な思考に流れていた。舌打ちすると、少女を持ち上げて海に向かって投げた。そして自分はこの場から逃げ去ろうとしている。
「カジャック犯人追って! 水だしこっちは俺が!」
端的にしか口に出来なかったが、カジャックは即頷くと駆け出して行った犯人を追う。少女という、考慮しなければならない存在がなくなった今、間違いなくすぐに犯人はカジャックに捕まるだろう。
サファルも躊躇することなく海へ飛び込んだ。湖や川と違う水の感覚に戸惑うが、恐れている場合ではないと必死に目を開けて少女を探した。幸い、カジャックの強い魔力のおかげで眠ったままの少女は塩の力なのだろうか、すぐにぷかりと浮いてきた。少し泣きそうな気持ちになったのは心底ホッとしたからだ。ついこの小さな少女をリゼと重ねてしまい、サファルは心からよかったと安堵して少女を抱き寄せた。
岸まで少女を抱えたまま泳ぐと「リーナ!」「リーナ様!」と少年たちの声がする。いつの間にか後の二人も合流していたようだ。留まっているように言ったのにと内心苦笑しつつ、サファルは多分自分だったとしても少年たちと同じことをしているだろうなと思ったので叱るつもりはなかった。
「……丁度良かった。リーナを先に上げるの手伝って」
サファルも上がると、少年たちが泣きそうな顔で、目を覚まさないリーナを見ている。
「大丈夫。魔法で眠っているだけだよ」
カジャックが魔法をかけてくれていて良かったとサファルは思う。まさか海へ放り投げられるとはさすがに予想していなかっただろうが、少女は把握出来ていないまま眠ってしまったので、この出来事がトラウマになることはないだろう。サファルは、自分が辛うじて子どもだった十四歳の時のことをふと考える。
「魔法で? お兄さん、そんな魔法使えるんですか」
「あー、っと、その魔法はもう一人がかけたんだ。だから解くのもその人かな。ああ、でも──」
サファルは彼らに近づくと少し促して少女から離れさせた。そして短い言葉を詠唱する。
「わぁ」
びしょ濡れだった少女と自分の体や服がみるみる内に何もなかったかのように乾いていく。感じていた妙なベタつきもなくなった。
「このままだと風邪、引いちゃうもんな」
「お兄さんも魔術師だったんだ!」
「なかなかの魔法だった」
「凄いです」
少年たちが感嘆している中、「サファル……今、魔法……」と驚いた声が後ろからしてきた。
「カジャック! 犯人はどうしましたか」
驚いているのも無理はないと思いつつ、サファルは申し訳ないながら先に気になったことを聞いた。
「あ、ああ……捕まえた時、丁度衛兵がやって来たので引き渡してきた。あいつがやらかしたことを見ていた人も多かったし他にも犯罪履歴のあるやつだったようで、呆気なく連れてかれたよ」
「良かった……」
「で、サファルは……」
「あ、えっと、魔法のことは今日の夜にでも説明させてください」
サファルが言うとカジャックはすぐに「分かった」と頷いてきた。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる