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121話
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人を探すのは得意ではないというか、そもそも探したこともないが、発想を置き換えて獲物を探すと考えれば難しいことではないような気がカジャックはしていた。とてつもない人、人、人だが、それらは生い茂った木々だ。もしくは積もり積もった雪。そして目当ての子どもは小さな兎。もしくはめったに見つけられない木の実でもいい。
幸い自分は小柄でそして服装は全体的に黒い。ぴったりとしたシャツもズボンもブーツもほぼ黒に近いダークブラウンで、上に羽織っている半袖の足元まであるコートは同じくほぼ黒に近いダークブルーだ。髪はシルバーだがフードを被れば誰からも目立つこともなく移動し、探すことが出来る。
ただ兎がいるところならすぐに分かるが、それが人間の子どもとなると難しいかもしれない。しかし想像することは出来る。きっと好奇心でいっぱいなのだろう。それはカジャックも同じだ。見たこともないような人の喧騒や変わった店、不思議な路地裏。どんなものだろうと思うところなら想像もつく。子どもとカジャックの違うところは、無邪気に楽しもうとするか、警戒して留まるかだ。
そしてカジャックの鋭い目は、無駄に鋭いだけではない。恐ろしく視力もいいし、動体視力も発達している。ついでに鼻も効く。気配を察知するのも得意だし逆に自分の気配を消すのも得意だ。多分こういったところで生活している人間よりはむしろ野生動物や魔物に近いのかもしれない。
ジンのお陰で人間として生きてはこられたが、それでも小さな頃からずっと森の中で生きてきた。まだ子どもの頃にジンが亡くなってからはほぼ一人で生きてきた。確実に人間よりはそちら寄りになってもおかしくはないだろう。
何度かサファルとクラフォンの町を訪れたが、サファルが他の誰かと商売の話をしている時に、ルークの森奥には恐ろしい魔物が住んでいるという噂話を耳にしたことがある。古い話らしく、皆が皆知っている訳でもなさそうだったが、多分間違いなくそれはカジャックのことだろう。サファルも耳にしたことがあるだろうにカジャックに対して一切口にしなかったのも多分そういうことだ。
……ふふ。魔物、か。わりと間違ってはいない。
思い出してカジャックはそっと笑った。噂話はカジャックの異常なほど強い魔力から来ているのだろうが、他の能力的にも間違ってはいないとカジャックは気持ちを研ぎ澄ませ、集中させた。
「サファル」
「わっ、カ、カジャックっ? びっくりした。どこから現れたんです」
背後から急に現れたと感じて驚いているのだろう。サファルが実際驚いた顔でカジャックを見てきた。一緒にいる少年はだが、特に気配を消していなかったのもあるが、カジャックが声をかける前にカジャックに気づいていたような気がする。
「それよりも子どもたちを見つけた」
「え、もうっ?」
「セントラル街の片隅で今は手品というものを見て楽しんでいる。急げ」
「は、はい! 君は後の二人を呼びに行く?」
「いえ。二度手間になるかもですし僕も行きます」
「分かった!」
サファルも少年も余計なことは聞いてこなかった。サファルは分かるが、まだ小さな子どもだろうにとカジャックは先ほどのことも思い返しつつ移動しながら少年を見る。
どう見てもその辺に大勢いそうな子どもにしか見えないが、それは人間に詳しくないカジャックの視点だからかもしれない。ただ、走る身のこなし方は自分の体を動かすことを知っている者のそれに見えた。よくは分からないが、子どもとはいえ貴族に付いている普段からそれなりに鍛えている従者なのかもしれない。
そんなことを思っている内に、大して離れていなかったセントラル街へ着いた。人が相当賑わっているが、今は人を人と認識していないカジャックはするりと交わしながら進んでいく。サファルはまた少しぽかんとしていたようだが、元々人混みに慣れているのもあり同じくカジャックについてきた。時折少年がちゃんとついてきているかも確認しているようだ。
「あの子たちで合っているか?」
目的の場所へ着くとカジャックは少年に聞いた。その時初めてカジャックの目つきに気づいたようだが、臆した様子もなく少年はむしろホッとしたように笑いかけてきた。
「はい! 本当にありがとうございます」
駆けつけた途端、マントを着た少年がまず気づいてきてぎょっとした顔で見てきた。
「コールド様。いい加減にしてください。今回のことはお父様にも言いつけますからね」
「っちょ、待って。だって城……」
「コールド様」
「……、だって……あそこにいたって全然楽しくないんだよ? こっちのが断然楽しいじゃないか。リーナだってわくわくして行きたがったんだ」
「せめて誰かに言うことは出来たはずです。それに絶対そこのレインラは止めたでしょう」
「……ついてきたぞ」
「それは当たり前です。あなたはさておき、」
「僕がさておきって何だ!」
「レインラがリーナ様を放っておくはずありません。それにあなたにだって強く言えるはずないでしょう。ついて行くしかなかったんです。それくらい考慮出来ないなんて情けないです」
「お前ほんっと僕に対して生意気」
「そうさせるのは誰ですか!」
「あの、ごめんなさい。僕がいながら……コールド様をあまり叱らないで」
「レインラ、謝る必要ないんだよ。悪いのはコールド様なんですから」
「何だよ!」
そんなやり取りを、サファルだけでなくカジャックもついぽかんと見てしまっていた。だからという理由はだが付けられない。完全に不注意だった。
「……ねえ、そのリーナって子、ここにいたよ、な?」
先に気づいたサファルの言葉に、皆がハッとなって周りを見渡す。そういえばさきほどまでいた少女はどこにもいなくなっていた。
幸い自分は小柄でそして服装は全体的に黒い。ぴったりとしたシャツもズボンもブーツもほぼ黒に近いダークブラウンで、上に羽織っている半袖の足元まであるコートは同じくほぼ黒に近いダークブルーだ。髪はシルバーだがフードを被れば誰からも目立つこともなく移動し、探すことが出来る。
ただ兎がいるところならすぐに分かるが、それが人間の子どもとなると難しいかもしれない。しかし想像することは出来る。きっと好奇心でいっぱいなのだろう。それはカジャックも同じだ。見たこともないような人の喧騒や変わった店、不思議な路地裏。どんなものだろうと思うところなら想像もつく。子どもとカジャックの違うところは、無邪気に楽しもうとするか、警戒して留まるかだ。
そしてカジャックの鋭い目は、無駄に鋭いだけではない。恐ろしく視力もいいし、動体視力も発達している。ついでに鼻も効く。気配を察知するのも得意だし逆に自分の気配を消すのも得意だ。多分こういったところで生活している人間よりはむしろ野生動物や魔物に近いのかもしれない。
ジンのお陰で人間として生きてはこられたが、それでも小さな頃からずっと森の中で生きてきた。まだ子どもの頃にジンが亡くなってからはほぼ一人で生きてきた。確実に人間よりはそちら寄りになってもおかしくはないだろう。
何度かサファルとクラフォンの町を訪れたが、サファルが他の誰かと商売の話をしている時に、ルークの森奥には恐ろしい魔物が住んでいるという噂話を耳にしたことがある。古い話らしく、皆が皆知っている訳でもなさそうだったが、多分間違いなくそれはカジャックのことだろう。サファルも耳にしたことがあるだろうにカジャックに対して一切口にしなかったのも多分そういうことだ。
……ふふ。魔物、か。わりと間違ってはいない。
思い出してカジャックはそっと笑った。噂話はカジャックの異常なほど強い魔力から来ているのだろうが、他の能力的にも間違ってはいないとカジャックは気持ちを研ぎ澄ませ、集中させた。
「サファル」
「わっ、カ、カジャックっ? びっくりした。どこから現れたんです」
背後から急に現れたと感じて驚いているのだろう。サファルが実際驚いた顔でカジャックを見てきた。一緒にいる少年はだが、特に気配を消していなかったのもあるが、カジャックが声をかける前にカジャックに気づいていたような気がする。
「それよりも子どもたちを見つけた」
「え、もうっ?」
「セントラル街の片隅で今は手品というものを見て楽しんでいる。急げ」
「は、はい! 君は後の二人を呼びに行く?」
「いえ。二度手間になるかもですし僕も行きます」
「分かった!」
サファルも少年も余計なことは聞いてこなかった。サファルは分かるが、まだ小さな子どもだろうにとカジャックは先ほどのことも思い返しつつ移動しながら少年を見る。
どう見てもその辺に大勢いそうな子どもにしか見えないが、それは人間に詳しくないカジャックの視点だからかもしれない。ただ、走る身のこなし方は自分の体を動かすことを知っている者のそれに見えた。よくは分からないが、子どもとはいえ貴族に付いている普段からそれなりに鍛えている従者なのかもしれない。
そんなことを思っている内に、大して離れていなかったセントラル街へ着いた。人が相当賑わっているが、今は人を人と認識していないカジャックはするりと交わしながら進んでいく。サファルはまた少しぽかんとしていたようだが、元々人混みに慣れているのもあり同じくカジャックについてきた。時折少年がちゃんとついてきているかも確認しているようだ。
「あの子たちで合っているか?」
目的の場所へ着くとカジャックは少年に聞いた。その時初めてカジャックの目つきに気づいたようだが、臆した様子もなく少年はむしろホッとしたように笑いかけてきた。
「はい! 本当にありがとうございます」
駆けつけた途端、マントを着た少年がまず気づいてきてぎょっとした顔で見てきた。
「コールド様。いい加減にしてください。今回のことはお父様にも言いつけますからね」
「っちょ、待って。だって城……」
「コールド様」
「……、だって……あそこにいたって全然楽しくないんだよ? こっちのが断然楽しいじゃないか。リーナだってわくわくして行きたがったんだ」
「せめて誰かに言うことは出来たはずです。それに絶対そこのレインラは止めたでしょう」
「……ついてきたぞ」
「それは当たり前です。あなたはさておき、」
「僕がさておきって何だ!」
「レインラがリーナ様を放っておくはずありません。それにあなたにだって強く言えるはずないでしょう。ついて行くしかなかったんです。それくらい考慮出来ないなんて情けないです」
「お前ほんっと僕に対して生意気」
「そうさせるのは誰ですか!」
「あの、ごめんなさい。僕がいながら……コールド様をあまり叱らないで」
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