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青の瞳の友
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初めてカジャックが他の同年代であろう人間と一緒にいるところを見て、サファルとそういった付き合いをして欲しい訳ではないアルゴとしては微妙ではありつつも正直なところ嬉しさも一応あった。そしてずっとほぼ引きこもっていたはずのカジャックがあの町にまで足を運んだと知って内心驚きつつ、あの町について聞かれたことをカジャックに語って聞かせた。
そのせいだろうか、それともその後サファルがジンのひ孫でおそらく間違いないとわかったからだろうか。
アルゴは酒を口にしながらため息をついた。
数日カジャックの家に滞在した後で自分の家に戻ってきていた。そして今、昔のことがやたら思い出されてならない。
「私も年を取ったのだろうかな」
六百年以上は生きているアルゴだが、人間の年齢で考えるとおそらく三十から四十といったところだ。すぐに死ぬ人間ならそれなりの年なのかもしれないがエルフならまだまだこれからではある。
じっと器に入っている酒を見るとアルゴの青い瞳がうつっているのが見えた。青い瞳。
……ジンの瞳は私の数千倍も美しい青をしていた。
ふっと笑みを浮かべると、アルゴは目を閉じた。
八十六年ほど前のことだろうか。
当時、アルゴは今よりももっと人間が嫌いだった。エゴの強いろくでもない生き物としか思えなかった。
その頃、神のような存在の力が薄れてきたのもあり、その守り神を解放し自分たちの手で魔物を討伐していこうといった考えを持つものが一部いた。守り神を解放するのはいい。だが戦いを余儀なくされたならまだしも、わざわざ討伐する必要性などないはずだ。少なくともエルフにはそういった考えはなかった。森や山に生息している獣と同じようにあるがまま共存し、やむを得ない時だけ戦いわが身を守る。それが自然だと思っていた。
人間はエゴの塊だ。だから精霊にも愛想をつかされ加護もどんどん薄れてきているのだろうとアルゴは思っていた。アルゴが生まれた頃は少なくともまだ今より精霊の加護は強かった。町や村もその加護により気温すら左右されていた。火のエレメントが強ければ強いほどその土地は暑かったし水のエレメントが強ければ強いほど寒かった。今は精霊よりも自然の四季による気温に影響されている土地が増えている。
それに魔力もだ。アルゴが生まれるよりもっと昔はその辺にいるような人間すら今よりもっと強い魔力を持っていたらしい。今では強い魔力を持つ人間は少ないからか、下手に魔力が強いと迫害されかねない。
それもあるのだろう。ああいった町が作られたのは。
魔物討伐を目的とした、その開拓集落の町が滅びたのを知った時、アルゴはなんとも言えない気持ちになった。いわば悪循環だ。人間のエゴが精霊の加護を弱め、そのため魔力も弱まっている中で強い魔力を持つ一部の者のエゴのせいで、強い魔力を持ちつつもただ迫害を避けるために集まった気持ちの弱い者まで巻き添えにされ滅ぶ。それにより強い魔力を持つ人間が減る中、きっとおそらくさらに精霊の加護も弱まっていくのではないだろうか。それでも一部の強い魔力を持つものを上手く使えばどうにかなるものの、これまたエゴやつまらない差別意識で自らの首を絞めていく人間の姿が目に見えるようだ。
そんな時にアルゴはジンと出会った。
たまたま滅びた町を見にきていた。誰かがいる気配に気づき、警戒しつつもアルゴはその誰かが何なのかを窺うため気配を辿った。とても強くてそして闘争心にも似た気配を感じていた。そして見つけたそこにジンがいた。
美しい容姿など見慣れているエルフであるアルゴが思わずじっと見てしまうほどの青を瞳に持つ子どもだった。その青は怒りのためゆらゆらと燻るように揺らめいていた。
「お前、誰」
青い瞳と茶色い髪色の少年はアルゴを睨みつけるようにして聞いてきた。
「……相手に聞くなら自分から名乗るのが礼儀ではないか?」
「お前がどんな生物かもわからないのに名乗るつもりなんてない」
「は。ことごとく失礼で生意気な人間だな」
「人間? ってことはお前、魔物か? どうりで妙な耳をしていると思った……」
少年はそんなことを言いながら手をかざしてきた。今にもそこから強い力が溢れ出しそうだ。だが辛うじてそれを留めているように見える。とはいえいつ魔法を放たれるかわからないのは少年のあまりに憎悪にとらわれたような顔の表情から見て取れた。その前にアルゴの力で少年ごと消してもよかった。そうしなかったのは、その憎悪の中に叫びにも似た悲しみを感じたからだろうか。
「エルフを見たことはないのか? その辺の魔物と一緒にしないでもらいたい」
「……エルフ? お前エルフなの?」
かざした手を下ろし、その少年はポカンとした顔をアルゴへ向けてきた。その表情があまりにあどけなく、純粋に見えたアルゴはため息をついてから「近づくぞ」と断りを入れ、少年の近くへ歩いていく。
「この特徴的な耳と驚くほどの美貌を見てエルフだと気づかない人間がいるとはな」
「会ったことなんてないんだから仕方ないだろ。というか、自分で美貌とか言うの? ナルシスト……」
呆れた顔をしながら少年が笑った。瞳の美しい青が今度はきらめくように揺らぐ。だが少年は笑った後にすぐ、戸惑ったような困惑顔になった。
「どうかしたのか?」
「俺、笑った」
「は? 人間には喜怒哀楽が備わっているものだろう?」
「……町と、それに親が殺されてから笑うなんて忘れてたのにな」
顔を目を伏せ、少年は先ほどまでかざしていた手をぼんやりと眺めている。
「……そうか」
「変な態度とってごめん。俺はジン。あなたは?」
「アルゴだ」
「アルゴ。あなたはここへ何しに来たんだ? 物見遊山か? あー……ごめん。俺、きっと嫌な人間になったんだと思う。あの、さ。俺はこの滅びた町の住民だった。皆魔物に殺されたんだ」
「そうか。私はただ、異変はないか様子を見にきただけだ。で、お前はここへ何しに来た? また魔物がやって来る可能性もあるというのに」
「むしろそれのためにいるよ。来るなら来ればいい。俺がそいつらを根絶やしにする」
言い切ってきたジンの瞳がまた憎悪に揺らいだ。
そのせいだろうか、それともその後サファルがジンのひ孫でおそらく間違いないとわかったからだろうか。
アルゴは酒を口にしながらため息をついた。
数日カジャックの家に滞在した後で自分の家に戻ってきていた。そして今、昔のことがやたら思い出されてならない。
「私も年を取ったのだろうかな」
六百年以上は生きているアルゴだが、人間の年齢で考えるとおそらく三十から四十といったところだ。すぐに死ぬ人間ならそれなりの年なのかもしれないがエルフならまだまだこれからではある。
じっと器に入っている酒を見るとアルゴの青い瞳がうつっているのが見えた。青い瞳。
……ジンの瞳は私の数千倍も美しい青をしていた。
ふっと笑みを浮かべると、アルゴは目を閉じた。
八十六年ほど前のことだろうか。
当時、アルゴは今よりももっと人間が嫌いだった。エゴの強いろくでもない生き物としか思えなかった。
その頃、神のような存在の力が薄れてきたのもあり、その守り神を解放し自分たちの手で魔物を討伐していこうといった考えを持つものが一部いた。守り神を解放するのはいい。だが戦いを余儀なくされたならまだしも、わざわざ討伐する必要性などないはずだ。少なくともエルフにはそういった考えはなかった。森や山に生息している獣と同じようにあるがまま共存し、やむを得ない時だけ戦いわが身を守る。それが自然だと思っていた。
人間はエゴの塊だ。だから精霊にも愛想をつかされ加護もどんどん薄れてきているのだろうとアルゴは思っていた。アルゴが生まれた頃は少なくともまだ今より精霊の加護は強かった。町や村もその加護により気温すら左右されていた。火のエレメントが強ければ強いほどその土地は暑かったし水のエレメントが強ければ強いほど寒かった。今は精霊よりも自然の四季による気温に影響されている土地が増えている。
それに魔力もだ。アルゴが生まれるよりもっと昔はその辺にいるような人間すら今よりもっと強い魔力を持っていたらしい。今では強い魔力を持つ人間は少ないからか、下手に魔力が強いと迫害されかねない。
それもあるのだろう。ああいった町が作られたのは。
魔物討伐を目的とした、その開拓集落の町が滅びたのを知った時、アルゴはなんとも言えない気持ちになった。いわば悪循環だ。人間のエゴが精霊の加護を弱め、そのため魔力も弱まっている中で強い魔力を持つ一部の者のエゴのせいで、強い魔力を持ちつつもただ迫害を避けるために集まった気持ちの弱い者まで巻き添えにされ滅ぶ。それにより強い魔力を持つ人間が減る中、きっとおそらくさらに精霊の加護も弱まっていくのではないだろうか。それでも一部の強い魔力を持つものを上手く使えばどうにかなるものの、これまたエゴやつまらない差別意識で自らの首を絞めていく人間の姿が目に見えるようだ。
そんな時にアルゴはジンと出会った。
たまたま滅びた町を見にきていた。誰かがいる気配に気づき、警戒しつつもアルゴはその誰かが何なのかを窺うため気配を辿った。とても強くてそして闘争心にも似た気配を感じていた。そして見つけたそこにジンがいた。
美しい容姿など見慣れているエルフであるアルゴが思わずじっと見てしまうほどの青を瞳に持つ子どもだった。その青は怒りのためゆらゆらと燻るように揺らめいていた。
「お前、誰」
青い瞳と茶色い髪色の少年はアルゴを睨みつけるようにして聞いてきた。
「……相手に聞くなら自分から名乗るのが礼儀ではないか?」
「お前がどんな生物かもわからないのに名乗るつもりなんてない」
「は。ことごとく失礼で生意気な人間だな」
「人間? ってことはお前、魔物か? どうりで妙な耳をしていると思った……」
少年はそんなことを言いながら手をかざしてきた。今にもそこから強い力が溢れ出しそうだ。だが辛うじてそれを留めているように見える。とはいえいつ魔法を放たれるかわからないのは少年のあまりに憎悪にとらわれたような顔の表情から見て取れた。その前にアルゴの力で少年ごと消してもよかった。そうしなかったのは、その憎悪の中に叫びにも似た悲しみを感じたからだろうか。
「エルフを見たことはないのか? その辺の魔物と一緒にしないでもらいたい」
「……エルフ? お前エルフなの?」
かざした手を下ろし、その少年はポカンとした顔をアルゴへ向けてきた。その表情があまりにあどけなく、純粋に見えたアルゴはため息をついてから「近づくぞ」と断りを入れ、少年の近くへ歩いていく。
「この特徴的な耳と驚くほどの美貌を見てエルフだと気づかない人間がいるとはな」
「会ったことなんてないんだから仕方ないだろ。というか、自分で美貌とか言うの? ナルシスト……」
呆れた顔をしながら少年が笑った。瞳の美しい青が今度はきらめくように揺らぐ。だが少年は笑った後にすぐ、戸惑ったような困惑顔になった。
「どうかしたのか?」
「俺、笑った」
「は? 人間には喜怒哀楽が備わっているものだろう?」
「……町と、それに親が殺されてから笑うなんて忘れてたのにな」
顔を目を伏せ、少年は先ほどまでかざしていた手をぼんやりと眺めている。
「……そうか」
「変な態度とってごめん。俺はジン。あなたは?」
「アルゴだ」
「アルゴ。あなたはここへ何しに来たんだ? 物見遊山か? あー……ごめん。俺、きっと嫌な人間になったんだと思う。あの、さ。俺はこの滅びた町の住民だった。皆魔物に殺されたんだ」
「そうか。私はただ、異変はないか様子を見にきただけだ。で、お前はここへ何しに来た? また魔物がやって来る可能性もあるというのに」
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言い切ってきたジンの瞳がまた憎悪に揺らいだ。
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