銀色の魔物

Guidepost

文字の大きさ
135 / 137
青の瞳の友

2話

しおりを挟む
 人間の年齢や中身の成長など興味もなく、またどういったものなのかアルゴは詳しく知らない。ただ、少なくとも人間の歳で十三になるかならないかといった年齢であるジンが子どもであることはわかる。
 アルゴは五百年以上生きている。今の外見は人間からすればおそらく十代後半から二十代前半くらいに見えるだろうし、滅多にないが人間を伴侶とするエルフの相手である人間も、一緒になる時はだいたい十代から二十代だと聞く。ただそれでも十三はまだまだ幼い部類に入るだろうとアルゴは思った。
 大人でも家族や親しい知人を皆殺しにされて悲しくないわけがない。ましてや子どもなら計り知れない悲しみと怒りが渦巻いているのだろう。いくら人間が嫌いだと言ってもそんな子どもに対して悪態をつくほど嫌な性格ではないとアルゴは自負している。

「お前の力はわかった。だがそれでも町を滅ぼすほどの力を持つ魔物に一体お前だけで何ができるのだ」

 丁度うろついていたのであろう魔物が襲ってきたので、アルゴはサポートについてジンに倒させてから聞いた。

「だからといって何もしないままだと俺の心が死ぬ。夜、眠るたびに俺を守ってくれた親が夢に出るんだ。そろそろ悲しみに押しつぶされるか気が狂って死んでしまう。それなら魔物に挑んで死ぬほうがまだいい」
「……はぁ。何故人間はこうも好戦的なのだろうな」
「エルフは違うの?」
「……さあ、どうだろうな」

 エルフも別に平和主義なのではない。自らが脅かされる場合はもちろん戦って身を守る。だが肉親の恨みを果たすために無謀な戦いをするかどうかは疑問だ。ただ種族が違う上にジンは悲しみと憎しみの渦中にある。議論など無駄なことだろうとアルゴは思った。

「結局のところ、お前は親が命をかけて守ってくれたお前の命を無駄にしたいのか?」
「違う! そんなつもりはない、けどでも何もしないままなんて無理だ……」
「なら憎しみに飲み込まれるよりもすることがあるだろうが。生活をしろ。村で暮らし、伴侶を見つけ、子を成せ。人間が気軽に他の村や町へ移住できないというなら特別に私が手を貸してやってもいい」
「……ありがとう。アルゴ、あなたはいい人だな。エルフって皆そうなの?」
「は。いい人だと? そもそもエルフは人間が嫌いだ。私もな」
「でもアルゴはいい人だよ」
「……そんなことはどうでもいい。どうするんだ。今から他の村を探すか?」
「せっかくなのにごめん。俺はこの町を滅ぼした魔物を倒すまでは諦めない」
「……馬鹿馬鹿しい生き物め」

 そのまま捨て置いてもよかったはずだ。アルゴに何の義務もない。だがきっとそのまま立ち去った翌日の目覚めは気持ちのよいものではないだろうと、アルゴは渋々手を貸すことにした。
 きっとあまりに美しい青に魅入られてしまったのかもしれない。魔が差すとはこのことだと思った。
 その後、アルゴはジンに魔法の使い方を教えながら修行させた。元々かなり強い魔力を持っていたジンは驚くほどあらゆることを身につけるのが早かった。時には反発して言い合いながらも、いつのまにかジンと一緒に過ごす時間をアルゴは楽しみに思うようになっていることに気づいた。
 ジンが倒したい魔物だが、どんな魔物かをジンは襲ってきた時に目の当たりにしているようだった。

「そりゃ竜とまではいかなくても、正直言って怖かったよ。あり得ないくらいデカくておぞましくて。それこそ人間が普通に戦うものじゃないって思ったよ。でも、俺の父さんと母さんは俺を隠した挙句、俺を守るためにそれと戦って死んだんだ」

 親が命をかけて守ってくれたのを理解しているからこそ、ジンは隠された後何とか逃げ延びたのだという。

「でもさ、その魔物はどこかにまだいるんだ。そしてどこかでまた、俺のような境遇の子どもを作っているかもしれない。もしくは幸せになろうと何とか無理をしている俺がまたその魔物に遭遇するかもしれない。そんなの待ってられない。だからそいつを倒さないと俺はもうここに立ち止まったままなんだ。何もできないし動けない。幸せなんかになれないんだ。アルゴはわかんないかもだけど、そういうことだからさ、憎しみだけで動いてるわけじゃないってだけは知ってて」

 この頃はまだまだあり得ないほど強い魔物がそれなりに存在していた。その昔、世界を見守っていた守り神たちの力が薄れることによって闇の力が強まったのだが、それがまだあまり薄まっていなかった時代だった。ジンが倒したい魔物はそんな中でも群を抜いて強い力を持っていた。数年経ち、散々修行して今ではどんな大人でも易々敵わないだろうというくらい力をつけたジンと、そして強力な魔力を持つエルフのアルゴという組み合わせを以てしても、ようやく見つけても倒すのに相当困難を強いられた。
 それでもなんとか倒した時のジンの顔を、アルゴは一生忘れないだろうなと思った。
 あまりに清々しくて嬉しげで、それだというのに悲しみに溢れた笑顔だった。
 血まみれでぼろぼろの状態のまま二人で抱き合い、何を言っているのかもわからない何かを言い合い、そしてまた抱き合った後、お互いその場で意識を手放した。
 その後魔物の死骸を大きな町のギルドに手渡し、破格の報酬を得た上でジンはその近くにある小さな村へ移住する権利を得た。

「ようやくお前の人生が動き出すな」
「ああ。アルゴのおかげだ」
「は。……元気でやれよ」

 人間は相変わらず嫌いだ。それに手を貸すとは言ったが、それだけのはずだった。はずだったのだが。
 アルゴは表現し難い妙な感覚を胸に感じながら言い放ち、その場を去ろうとした。

「……そりゃもちろんだけど……何その言い草は」
「は?」
「元気でやれって、まるで会わないみたいに。だってこれからも俺ら、当たり前だけど会うだろ?」
「……」
「俺とアルゴは親友じゃないのか? そう思っていたのは俺だけ?」
「……仕方がないな。そこまで言うなら会ってやってもいいぞ」
「だから何その言い草」

 ジンが笑った。瞳の青がきらきらときらめくようにあまりにも美しく揺らいだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。 ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。 秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。 戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。 ●八架 深都(はちか みと) 20歳、大学2年生 好奇心旺盛な性格 ●秋木 晴士(あきぎ せいじ) 26歳、小説家 重度の不眠症らしいが……? ※性的描写が含まれます 完結いたしました!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...