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青の瞳の友
2話
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人間の年齢や中身の成長など興味もなく、またどういったものなのかアルゴは詳しく知らない。ただ、少なくとも人間の歳で十三になるかならないかといった年齢であるジンが子どもであることはわかる。
アルゴは五百年以上生きている。今の外見は人間からすればおそらく十代後半から二十代前半くらいに見えるだろうし、滅多にないが人間を伴侶とするエルフの相手である人間も、一緒になる時はだいたい十代から二十代だと聞く。ただそれでも十三はまだまだ幼い部類に入るだろうとアルゴは思った。
大人でも家族や親しい知人を皆殺しにされて悲しくないわけがない。ましてや子どもなら計り知れない悲しみと怒りが渦巻いているのだろう。いくら人間が嫌いだと言ってもそんな子どもに対して悪態をつくほど嫌な性格ではないとアルゴは自負している。
「お前の力はわかった。だがそれでも町を滅ぼすほどの力を持つ魔物に一体お前だけで何ができるのだ」
丁度うろついていたのであろう魔物が襲ってきたので、アルゴはサポートについてジンに倒させてから聞いた。
「だからといって何もしないままだと俺の心が死ぬ。夜、眠るたびに俺を守ってくれた親が夢に出るんだ。そろそろ悲しみに押しつぶされるか気が狂って死んでしまう。それなら魔物に挑んで死ぬほうがまだいい」
「……はぁ。何故人間はこうも好戦的なのだろうな」
「エルフは違うの?」
「……さあ、どうだろうな」
エルフも別に平和主義なのではない。自らが脅かされる場合はもちろん戦って身を守る。だが肉親の恨みを果たすために無謀な戦いをするかどうかは疑問だ。ただ種族が違う上にジンは悲しみと憎しみの渦中にある。議論など無駄なことだろうとアルゴは思った。
「結局のところ、お前は親が命をかけて守ってくれたお前の命を無駄にしたいのか?」
「違う! そんなつもりはない、けどでも何もしないままなんて無理だ……」
「なら憎しみに飲み込まれるよりもすることがあるだろうが。生活をしろ。村で暮らし、伴侶を見つけ、子を成せ。人間が気軽に他の村や町へ移住できないというなら特別に私が手を貸してやってもいい」
「……ありがとう。アルゴ、あなたはいい人だな。エルフって皆そうなの?」
「は。いい人だと? そもそもエルフは人間が嫌いだ。私もな」
「でもアルゴはいい人だよ」
「……そんなことはどうでもいい。どうするんだ。今から他の村を探すか?」
「せっかくなのにごめん。俺はこの町を滅ぼした魔物を倒すまでは諦めない」
「……馬鹿馬鹿しい生き物め」
そのまま捨て置いてもよかったはずだ。アルゴに何の義務もない。だがきっとそのまま立ち去った翌日の目覚めは気持ちのよいものではないだろうと、アルゴは渋々手を貸すことにした。
きっとあまりに美しい青に魅入られてしまったのかもしれない。魔が差すとはこのことだと思った。
その後、アルゴはジンに魔法の使い方を教えながら修行させた。元々かなり強い魔力を持っていたジンは驚くほどあらゆることを身につけるのが早かった。時には反発して言い合いながらも、いつのまにかジンと一緒に過ごす時間をアルゴは楽しみに思うようになっていることに気づいた。
ジンが倒したい魔物だが、どんな魔物かをジンは襲ってきた時に目の当たりにしているようだった。
「そりゃ竜とまではいかなくても、正直言って怖かったよ。あり得ないくらいデカくておぞましくて。それこそ人間が普通に戦うものじゃないって思ったよ。でも、俺の父さんと母さんは俺を隠した挙句、俺を守るためにそれと戦って死んだんだ」
親が命をかけて守ってくれたのを理解しているからこそ、ジンは隠された後何とか逃げ延びたのだという。
「でもさ、その魔物はどこかにまだいるんだ。そしてどこかでまた、俺のような境遇の子どもを作っているかもしれない。もしくは幸せになろうと何とか無理をしている俺がまたその魔物に遭遇するかもしれない。そんなの待ってられない。だからそいつを倒さないと俺はもうここに立ち止まったままなんだ。何もできないし動けない。幸せなんかになれないんだ。アルゴはわかんないかもだけど、そういうことだからさ、憎しみだけで動いてるわけじゃないってだけは知ってて」
この頃はまだまだあり得ないほど強い魔物がそれなりに存在していた。その昔、世界を見守っていた守り神たちの力が薄れることによって闇の力が強まったのだが、それがまだあまり薄まっていなかった時代だった。ジンが倒したい魔物はそんな中でも群を抜いて強い力を持っていた。数年経ち、散々修行して今ではどんな大人でも易々敵わないだろうというくらい力をつけたジンと、そして強力な魔力を持つエルフのアルゴという組み合わせを以てしても、ようやく見つけても倒すのに相当困難を強いられた。
それでもなんとか倒した時のジンの顔を、アルゴは一生忘れないだろうなと思った。
あまりに清々しくて嬉しげで、それだというのに悲しみに溢れた笑顔だった。
血まみれでぼろぼろの状態のまま二人で抱き合い、何を言っているのかもわからない何かを言い合い、そしてまた抱き合った後、お互いその場で意識を手放した。
その後魔物の死骸を大きな町のギルドに手渡し、破格の報酬を得た上でジンはその近くにある小さな村へ移住する権利を得た。
「ようやくお前の人生が動き出すな」
「ああ。アルゴのおかげだ」
「は。……元気でやれよ」
人間は相変わらず嫌いだ。それに手を貸すとは言ったが、それだけのはずだった。はずだったのだが。
アルゴは表現し難い妙な感覚を胸に感じながら言い放ち、その場を去ろうとした。
「……そりゃもちろんだけど……何その言い草は」
「は?」
「元気でやれって、まるで会わないみたいに。だってこれからも俺ら、当たり前だけど会うだろ?」
「……」
「俺とアルゴは親友じゃないのか? そう思っていたのは俺だけ?」
「……仕方がないな。そこまで言うなら会ってやってもいいぞ」
「だから何その言い草」
ジンが笑った。瞳の青がきらきらときらめくようにあまりにも美しく揺らいだ。
アルゴは五百年以上生きている。今の外見は人間からすればおそらく十代後半から二十代前半くらいに見えるだろうし、滅多にないが人間を伴侶とするエルフの相手である人間も、一緒になる時はだいたい十代から二十代だと聞く。ただそれでも十三はまだまだ幼い部類に入るだろうとアルゴは思った。
大人でも家族や親しい知人を皆殺しにされて悲しくないわけがない。ましてや子どもなら計り知れない悲しみと怒りが渦巻いているのだろう。いくら人間が嫌いだと言ってもそんな子どもに対して悪態をつくほど嫌な性格ではないとアルゴは自負している。
「お前の力はわかった。だがそれでも町を滅ぼすほどの力を持つ魔物に一体お前だけで何ができるのだ」
丁度うろついていたのであろう魔物が襲ってきたので、アルゴはサポートについてジンに倒させてから聞いた。
「だからといって何もしないままだと俺の心が死ぬ。夜、眠るたびに俺を守ってくれた親が夢に出るんだ。そろそろ悲しみに押しつぶされるか気が狂って死んでしまう。それなら魔物に挑んで死ぬほうがまだいい」
「……はぁ。何故人間はこうも好戦的なのだろうな」
「エルフは違うの?」
「……さあ、どうだろうな」
エルフも別に平和主義なのではない。自らが脅かされる場合はもちろん戦って身を守る。だが肉親の恨みを果たすために無謀な戦いをするかどうかは疑問だ。ただ種族が違う上にジンは悲しみと憎しみの渦中にある。議論など無駄なことだろうとアルゴは思った。
「結局のところ、お前は親が命をかけて守ってくれたお前の命を無駄にしたいのか?」
「違う! そんなつもりはない、けどでも何もしないままなんて無理だ……」
「なら憎しみに飲み込まれるよりもすることがあるだろうが。生活をしろ。村で暮らし、伴侶を見つけ、子を成せ。人間が気軽に他の村や町へ移住できないというなら特別に私が手を貸してやってもいい」
「……ありがとう。アルゴ、あなたはいい人だな。エルフって皆そうなの?」
「は。いい人だと? そもそもエルフは人間が嫌いだ。私もな」
「でもアルゴはいい人だよ」
「……そんなことはどうでもいい。どうするんだ。今から他の村を探すか?」
「せっかくなのにごめん。俺はこの町を滅ぼした魔物を倒すまでは諦めない」
「……馬鹿馬鹿しい生き物め」
そのまま捨て置いてもよかったはずだ。アルゴに何の義務もない。だがきっとそのまま立ち去った翌日の目覚めは気持ちのよいものではないだろうと、アルゴは渋々手を貸すことにした。
きっとあまりに美しい青に魅入られてしまったのかもしれない。魔が差すとはこのことだと思った。
その後、アルゴはジンに魔法の使い方を教えながら修行させた。元々かなり強い魔力を持っていたジンは驚くほどあらゆることを身につけるのが早かった。時には反発して言い合いながらも、いつのまにかジンと一緒に過ごす時間をアルゴは楽しみに思うようになっていることに気づいた。
ジンが倒したい魔物だが、どんな魔物かをジンは襲ってきた時に目の当たりにしているようだった。
「そりゃ竜とまではいかなくても、正直言って怖かったよ。あり得ないくらいデカくておぞましくて。それこそ人間が普通に戦うものじゃないって思ったよ。でも、俺の父さんと母さんは俺を隠した挙句、俺を守るためにそれと戦って死んだんだ」
親が命をかけて守ってくれたのを理解しているからこそ、ジンは隠された後何とか逃げ延びたのだという。
「でもさ、その魔物はどこかにまだいるんだ。そしてどこかでまた、俺のような境遇の子どもを作っているかもしれない。もしくは幸せになろうと何とか無理をしている俺がまたその魔物に遭遇するかもしれない。そんなの待ってられない。だからそいつを倒さないと俺はもうここに立ち止まったままなんだ。何もできないし動けない。幸せなんかになれないんだ。アルゴはわかんないかもだけど、そういうことだからさ、憎しみだけで動いてるわけじゃないってだけは知ってて」
この頃はまだまだあり得ないほど強い魔物がそれなりに存在していた。その昔、世界を見守っていた守り神たちの力が薄れることによって闇の力が強まったのだが、それがまだあまり薄まっていなかった時代だった。ジンが倒したい魔物はそんな中でも群を抜いて強い力を持っていた。数年経ち、散々修行して今ではどんな大人でも易々敵わないだろうというくらい力をつけたジンと、そして強力な魔力を持つエルフのアルゴという組み合わせを以てしても、ようやく見つけても倒すのに相当困難を強いられた。
それでもなんとか倒した時のジンの顔を、アルゴは一生忘れないだろうなと思った。
あまりに清々しくて嬉しげで、それだというのに悲しみに溢れた笑顔だった。
血まみれでぼろぼろの状態のまま二人で抱き合い、何を言っているのかもわからない何かを言い合い、そしてまた抱き合った後、お互いその場で意識を手放した。
その後魔物の死骸を大きな町のギルドに手渡し、破格の報酬を得た上でジンはその近くにある小さな村へ移住する権利を得た。
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「は。……元気でやれよ」
人間は相変わらず嫌いだ。それに手を貸すとは言ったが、それだけのはずだった。はずだったのだが。
アルゴは表現し難い妙な感覚を胸に感じながら言い放ち、その場を去ろうとした。
「……そりゃもちろんだけど……何その言い草は」
「は?」
「元気でやれって、まるで会わないみたいに。だってこれからも俺ら、当たり前だけど会うだろ?」
「……」
「俺とアルゴは親友じゃないのか? そう思っていたのは俺だけ?」
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ジンが笑った。瞳の青がきらきらときらめくようにあまりにも美しく揺らいだ。
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