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第1章 前世を思い出した悪役令嬢は、皇太子の執着に気が付かない

第16話 イザベル、言葉にする

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 自身の言葉に何も反応しないイザベルに、ルイスは腕の力を緩めてイザベルを解放した。

 そして、イザベルの手にそっと扇を返す。


「これ、取られたくなかったよな。ごめん。
 ……どうして顔を隠していたか聞いてもいいか?」
「顔を見られたくありませんでしたの」
「今まで何度も見てきたのに?」

 黙ってしまったイザベルをルイスは辛抱強く待つ。イザベルと自身の左手の薬指を繋いでいる鎖のようなものを確かめながら。



 この鎖のような糸はルイスが前世で強制的に小夜と自身の間に作り上げた『縁』である。

 この世は様々な『縁』でできている。縁がなければ出会えず、縁が途切れれば関係が終わる。

 普通の縁は太いか細いかの違いはあれど、糸のようにできている。
 だが、ルイスが帝だった頃に小夜に菊の印で強制的に結んだ縁は普通は糸のように細いものではなく、鎖のような形だ。

 絶対に縁が切れないように自身の持っていた全ての力を使って繋いだ縁。力が弱まった今では見るのもかなり集中しないと難しくなった。
 鎖型の縁は、ルイスの小夜に対する執着ともいえる歪んだ愛であった。


 その鎖の一部に違和感を感じたルイスは目を細めた。

 (……縁の一部に傷がついてる?)

 小さな傷が複数ついている。今世でイザベルとルイスが出会ってから月に一度は確認してきたが、今まで一度もそんなことはなく、同じ状態の鎖のような縁が結ばれていた。

 (理由はだな。これくらいの傷なら問題はないから、修復は後だな。イザベルと話すのが先だ)

 ルイスはを不快に思いながらも、すぐに意識をイザベルへと戻す。彼にとって優先すべきはイザベルしかない。


 (これ以上待っても、きっとイザベルは話せない。本当はイザベルの口からきちんと聞きたかった。
 でも、それは俺のエゴだ)


「俺は、イザベルの顔も好きだよ」
「……へっ?」
「俺は、イザベルの全てが好きなんだ。顔も、声も、仕草も、我が儘だったところ、甘えてくれたところ、優しいところ、気高いところも。
 だからイザベルの顔が見れないと悲しくなる」

 その言葉にイザベルは感動し、目尻に浮かんだ涙を指先でぬぐった。

 (あぁ、何て良い人なんじゃ。こんなにどうしようもないわれに、なんて暖かい言葉をかけてくれるんじゃ)

 イザベルは心の中でルイスを拝んだ。それと同時にルイスのうれいを晴らそうと決意を更に固めた。

 (本来は父上と母上に先に話すのが筋じゃろう。じゃが、それよりもルイス殿下のために動かねば。
 われにできるのは、このくらいじゃ。それに、遅かれ早かれこうするつもりじゃったのだ。何の問題もあるまい)

 そして、イザベルは微笑みながら言葉を紡いだ。

「ルイス殿下。どうか私と婚約を解消して頂けませんか?」

 イザベルは強い眼差しでルイス殿下を見詰めたのであった。

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