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第1章 前世を思い出した悪役令嬢は、皇太子の執着に気が付かない

第15話 イザベル、大団円を目指す

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「イザベル、ごめん」

 その言葉の意味がイザベルには分からなかった。

 自身の感情なんかよりも、皇太子殿下の望みを果たさなければいけないのは当然で。

 一体何に謝っているのか。
 何故、そんな表情を見せるのか。


 (われは何か、間違えたのじゃろうか……)


 図らずも二人は同じことを考えていたのだが、イザベルの不安はすぐにどこかへ行ってしまうこととなる。


 一瞬のうちにルイスの胸元へと頭を抱き込まれたのだ。


 そのことを認識した途端、イザベルの心臓は坂道をけ上がった後のように激しく鼓動し、顔は湯気が出そうなほど熱くなった。

 (ぅわ!! あわわわわ……。
 殿方の胸の中に。どうすれば……。
 ぅうう。われとちごうて何とたくましい。
 ……じゃのうて、何故こんな破廉恥はれんちなことになってしもうたんじゃ)

 ドキドキしたり、慌てたり、自分との違いに更にドキドキしてみたりとイザベルは慌ただしい。けれど──。


「ごめん、ごめんな」


 ルイスの謝罪で我に返った。

 (そう……じゃよな。何を浮かれておったのか。受け入れてもらえるなどと心のどこかで思っておったのかもしれんな。
 こんなわれを受け入れてもらえるなどあるわけない)

 そう考えれば、先程までドキドキとしていたイザベルの心臓はいつも通りのリズムを取り戻し、熱くなった体もスッと元の体温に下がった気がした。

 (われと婚約破棄をしとうて謝罪をしたのじゃろう。むしろ、今までよく破棄されんかったと思った方がいいくらいじゃ。
 きっと、われの公爵令嬢という身分さえなければとっくに破棄されておったはず。
 オニのような見目みめのみならず、性悪しょうわるなのじゃからな。
 さっさとわれから婚約破棄を申し入れた方が良いであろう。
 ただ、王家との繋がりもあるから、父上と母上と相談せねば。われも婚約破棄を望んでおったし、円満にいくじゃろうから、婚約破棄ではなく婚約解消じゃな。
 うむ。これで大団円じゃ!!)

 心の中で『婚約破棄』改め『婚約解消』を決心をしながら、イザベルはルイスを怖がらせたことを申し訳なく思った。



 平安乙女のイザベルは恋愛初心者どころかまさかの恋愛オンチ。


 そんなイザベルの思考は、

 イザベルが顔を見せる
    ↓
 イザベルのオニのような顔にルイスは恐怖する
    ↓
 思わず、ルイスはイザベルの顔が見えないように抱き締めて隠す
    ↓
 本当は婚約破棄をしたいが、ルイスは言い出せない

である。


 思わず抱き締めて顔を隠したことは当たっているが、それ以外は大ハズレ。
 このことをルイスが知ったら頭を抱えるだろう。

 だが、本人はそう信じているのだから、どうしようもない。


 そこに、イザベルの勘違いを知らないルイスだが、起死回生となり得る1打を繰り出すこととなる。


「イザベルを愛しているんだ」


 この言葉の意味をイザベルは理解できずに思考が一時停止した。
 そして、再起動した脳が弾き出した答えは──。


 (今、幻聴がしたのう。われの中のイザベルはきっと、婚約解消などしたくないんじゃろうな……)


という、ルイスが気の毒すぎるものであった。
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