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最終章 溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい

第71話 華麗なるイザベル

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 向かってきた一人目の男のナイフを右へ体をずらして避け、二人目の剣はかがんで避ける。三人目は避けきれないと判断したイザベルは、おうぎおののような武器を受け流した。

「んなっ!!」

 驚きの声を斧使いの男があげる。それもそのはず。まさか、扇が斧のを受け流すなどと誰が思うだろうか。


 イザベルの扇は特別製で、本来、木や竹で作られる部分、親骨と呼ばれる箇所をミスリルで作り、木目調に塗られている。その鉄扇は常に護身用として持ち歩いており、鉄扇を使用した戦闘訓練も行ってきた。実戦は始めてだが。


 (そろそろ、二人が逃げる時間は稼げた。他に敵がいないことを祈って、逃げるしか手はないじゃろう。
 例え捕らわれておっても、われ一人では……。仲間を呼ばねばならぬ)

 イザベルは迷いを捨て、逃げるためにどこが穴かを視線のみで探す。だが、今イザベルと戦っているリク、クウ、カイの連携が絶妙で、活路はなかなか見出だせない。

 しかし、焦っているのはイザベルだけではなかった。


「こいつの命が惜しかったら、大人しくついてこい。流石に知り合いを殺されるのは嫌だろ」

 そう言ったリーダーに視線をチラリと向ければ、アザレアの首に刃物が当てられ、少し血が出ている。

「お気遣いなく。特に嫌ではございませんわ。御愁傷様ごしゅうしょうさま、とだけ言っておきますわ」
「えっ……」

 イザベルが叫んで答えれば、アザレアは信じられない者を見るかのように、目を見開いた。

「イザベル様、助け──」
「おーほほほほ! そのような義理はございませんわ。悪いことをしても謝れないような方を助けたいとも思えませんもの。
 むしろ、これから被害者が出ないためにも、ここは一思ひとおもいにってしまわれた方が世のためかもしれませんわ」

 まるで踊るかのように、三人からの攻撃を避け、受け流し、時々反撃しながらもイザベルは言う。一見、余裕そうに見える。だが、確実に疲労は溜まってきていた。


「────っ!!ごっ、ごめんなさ──」
「私に謝られても困りますわ」
「あとで、謝るから……。絶対に……謝る……から、助けで……ぐだざ……い」

 ぼろぼろと涙をこぼし、鼻水まで垂らしながらアザレアは言う。だが──。

「私では、そちらの男性には敵わないので、無理ですわ。諦めも肝心かんじんでしてよ」

 返ってきた言葉は、アザレアの期待したものではなかった。

 (諦め? 命を諦めろとおっしゃるの? 私に死ねと?)

 ギロリとアザレアはイザベルを睨む。その瞳には激しい憎悪が宿っている。

「死んだら、呪うわ。イザベル様も、絶対に道連れにして、呪い殺してやりますわ!!」

 そう叫んだアザレアの言葉に、イザベルは攻撃を避けはしたが、それ以外の動きを止めた。

「……仕方がないので、私も捕らえられて差し上げますわ」

 (呪われるなど真っ平まっぴらごめんじゃ。陰陽師殿もいない今世で呪われるなど、考えるだけで恐ろしい)


 こうして、先程までは何だったのか……と思うほどあっさりとイザベルは捕まり、武器の鉄扇は取り上げられた。
 そして、手足を縛られた後にオカメを外そうと顔の方に手を伸ばした男に対し、イザベルは頭突きをお見舞いする。

「ンゴッッ!」

 額から血を流しながらよろける男にイザベルは低い声で告げる。

「これを外したら、生涯、後悔することが起きますわよ」

 (オニのようなわれを見たら、面識のないこやつは悔いるじゃろう。われとて知らぬ者に顔をさらすのは避けたい。互いのためじゃ)

 似たようなやり取りを数人の下っ端したっぱと繰り返した結果、無事にオカメを死守したイザベルはアザレアと共に馬車の中に転がされた。


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