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最終章 溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい
第70話 オカメが通じるのは学園内だけの模様です
しおりを挟むガタガタと揺れる馬車の中、イザベルは心のなかで溜め息をつく。
それもそのはず、両手と両足が縛られているのだから。せめてもの救いはきとんと座れていることと、見張りが中にはいないことだろうか。
(何ゆえ、このようなことに……)
悔いても仕方がないが、目の前で転がっているアザレアを見て、イザベルは今度こそ心の中で止めることなく、盛大に溜め息を吐いた。
何故、イザベルとアザレアが馬車に乗せられているのかというと、およそ一時間前に遡る。
ミルミッド侯爵家から馬車で移動をしようとした時、視力が2.0のイザベルはすぐにマッカート家の馬車ではないことに気が付いた。
だが、その時には既に10人弱の男に囲まれていたのである。
(うむ。たくさんおるのぅ。ジュリアさんとメイルードさんと別れておって良かった。二人を守りきるのは難しい。
こやつ等、アザレアの差し金かの?)
イザベルがチラリと視線をアザレアへと向ければ、アザレアの握りしめた拳は白く、小さく震えている。
(違うたか? ならば、目的はなんじゃ?)
イザベルはオカメの下で顔をしかめながら、男達を見る。
前世では女性が武術を嗜むなど考えられなかったが、今世でのイザベルは記憶が戻る前から意欲的だった。
『いざという時にルイス様を守るため』という理由で。まぁ、ほんの少しだけ『邪魔な令嬢を排除できるように』という邪な気持ちもあったが。
(ふむ。敵は9人か。その中で、そこそこ強いのが3人。
むむっ。あやつだけは、到底敵わぬな。さて、どうしたものか)
ぐるりと囲まれていて、一見逃げることは無理そうだが、弱い者を狙えば可能性はある。
だが、ここはミルミッド侯爵家。逃げたところで味方はおらず、ジュリアとメイルードを巻き込むリスクも伴う。
(勝つ必要はない。二人が確実にミルミッド侯爵家を出るまでの時間を稼いでから逃げてみるかの)
そう考えたイザベルだが、自身の考えに疑問を覚えた。
(本当に時間を稼げば二人は無事なのじゃろうか。他に敵がおって、二人を捕らえておる可能性も十分にあるのでは……)
イザベルは思考を巡らせる。その間、敵が待ってくれるはずもなく、5人が繰り出す攻撃をひたすら避けながら。
「あの変なの何者だ?」
「護衛じゃないのか?」
「いや、ドレスを着てるからお嬢様だろ。多分」
「それにしては、動きが素人じゃない。面も変だぞ」
「っつーか、何でこの人数を避けられるんだよ」
美しいドレスを着たオカメが避ける姿に、男達はざわめいた。学園内では皆が見慣れたが、一歩出ればやはり変な面を着ける怪しい人物なのである。
一体、何者なのか。その疑問は早々に捕まったアザレアの叫びで解消されることとなる。
「早く助けなさいよ、イザベル様!!」
(((((様をつけるってことは、良いとこのお嬢様じゃねーか!!)))))
「そのような義理はございませんわ」
(((((しかも、助けねーのかよ!!)))))
アザレアの人望のなさに心のなかでツッコミを入れる男達の中、アザレアを捕まえている男だけがゲラゲラと笑う。その男はイザベルが到底敵わないと思った人物で、この集団のリーダーであった。
「助ける気もねーってさ。お前、嫌われてんなぁ」
アザレアの真っ赤な髪をグイッと引っ張りながら、心底楽しそうに言う。
「いっっ! 止めなさい。私を誰だと思ってますの」
「ミルミッド糞侯爵様の娘だろ?
そこの変なのは、騎士を呼ばれちゃ困るから殺しても良かったんだが、イザベル様って言ったら、マッカート公爵家のお嬢様だろ? 高く売れる。
連れてくぞ。リク、クウ、カイ、お前らが行け。殺すんじゃねーぞ」
その言葉に、イザベルがそこそこ強いと判断した若い男が3人、一人は楽し気に、一人は面倒くさそうに、一人は眉間にシワを寄せて、イザベルへと向かってきた。
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