令嬢は魅了魔法を強請る

基本二度寝

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ミファセスは、アトラクトに言われるがまま瞳を閉じて身を預けていた。

「婚約者を忘れたいのだったな?ならば言われた通りに」

ミファセスはそれを拒めなかった。
その為にアトラクトの都合も顧みず、押しかけたのだから。


アトラクトは後ろから抱くように腕を回し、ミファセスの顔を手で覆う。
指先でミファセスの閉じた瞼をゆっくり何度も撫でていた。

「アンタの婚約者が他の女に目移りしたのは、アンタのが届かなくなったから」

「魅了…?」

アトラクトに反論したい。
婚約者を魅了していた自覚はない。
ミファセスは魔法師ではないし、そもそも『魅了魔法』は廃術になっていると言っていたばかりではないか。

「先程の発言のせいだな。すまない。うまく説明できなくて。正しくは魅了魔法ではなくて、アンタは魅了だ。極めて珍しい体質だ」

興奮を抑えた声色。嬉しそうなのは何故だろうか。

「話を戻す。
仲の良かった相手の態度が変わったのは、この学園に入学してからだろう?
成績順位なんて、つまらん男の矜持を砕いた一つの要因かもしれんが」

アトラクトはミファセスの肩にある学園章に触れる。

「魔法や状態異常防御効果が付加されているこの学園章に阻まれて、アンタの魅了が相手に届かなくなった。制服を着ない学園外で会えばまた違っただろうが、会わなかったのだろう?」

瞼を閉じたまま、降ってくる声には嘲りも揶揄いもない。
だから素直に頷いた。

「婚約者に会えなくなるほど執着していったのは、相手に向かうはずの魅了が募って自分に返ってきた、ってところだろうな。
『魅了』ってのは催眠魔法など『精神魔法』の一種だ。
まぁ…なんだ。自分に暗示をかけていたようなもんだ。この学園章は他者に向けた術は防いでも、自分に向けた術には反応しないから」

「…私の婚約者への強い想いは…自己暗示によるもの?」

「そのようなもんだと思ってくれれば良い」

ミファセスはアトラクトの手に目を覆われている。
ぽかぽかと温かいのは、何か処置を施しているのだろう。

それが気持ち良くて、はしたないとわかっているのにアトラクトに身体に寄りかかってしまう。

「アンタに掛かった暗示を解術する。俺の術を受けることを了承するならば、自分の名を名乗れ」

「…ミファセス、」

精神魔法に関わる術を使う際、術師は対象者の了承を取らねばならぬと、読みあさった魔法書に記述があった。
これがその確認なのだろう。

「ミファセスの暗示を解く。…後は」

アトラクトの言葉を聞きながら、ミファセスの意識はゆっくり沈んでいく。
続く言葉は、意識のなくなったミファセスの鼓膜を打つ。

「ミファセスの行き場のなくなった想いは、俺に全部寄越せ」

アトラクトは新たな暗示をミファセスに施した。
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