令嬢は魅了魔法を強請る

基本二度寝

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先程の暴走をすっかり鎮火させたミファセスは、愛想もなく「ついて来てください」とすたすた歩き出したアトラクトの後を、大人しくついていく。

スラリと背の高いアトラクトは、魔法師団の師団長を父に持つ子爵家の三男だ。
兄二人はすでに魔法師団に入団し、部隊を個々に持っているらしい。
若くして部隊を任されている程実力はあるようで、どちらが父親のあとを継いでも不思議はないと聞く。

そんな有能な血筋の魔法師家系の子息が同じ学園に居ると知って、ミファセスは面識もない彼の元に押しかけたのだった。

アトラクトの後をついていきながら、ミファセスは冷静になってきた。

初対面の人間にあのような図々しくとり縋られ、不快にならないわけがない。
感情的になってうまく状況を説明できた自信もない。

それでも、ミファセスの力になってくれようとしているアトラクトに、申し訳無さと期待をいだいた。


「ここなら誰も来ないので」

学園には騎士科や魔法科の為に実地用の訓練設備がある。
そこに併設された治療室の奥。
なんでもない壁にアトラクトが手を付けば、壁に枠が現れ、扉のように開いた。

驚くミファセスに、「在学中に親父が作ったものなんです」とアトラクトは短く説明した。

ミファセスが部屋に足を踏み入れ、続いてアトラクトも部屋に入る。

アトラクトが扉を閉めると、扉などなかったようにそこはただの壁に戻った。

部屋の真ん中に置かれたソファに促されてミファセスは腰掛けた。

「人目のある場所で『魅了魔法』などと口にしないように。禁術を求めるなんて犯罪を企てていると勘ぐられますよ」

「そうね、考え無しでごめんなさい…」

ミファセスの謝罪にアトラクトは面食らったような顔をする。

「…あーいえ。謝罪させたかったわけでは。以後ご注意を」

アトラクトは座るミファセスの側に立っていて、こちらを見下ろしていた。

「…隣よろしいですか?」
「え?ええ…」

正面のソファに座るのだろうと思っていたミファセスは、慌てて一人分隣に移動した。
アトラクトはミファセスにピタリとくっつく様に隣に腰を下ろす。

「あ、の…?」

婚約者でもない異性との距離間ではない。
少し距離を取ろうと腰を浮かせば、素早く腕を回され引き寄せられた。
勢いの余り、アトラクトの腿に半分腰掛けるような体勢になってしまっている。

「ちょっ、」
「ああ。これだ」

アトラクトはじいっとミファセスの瞳を見下ろし眺めている。

言葉遣いが粗雑なものに戻る。
先程の怒声からみても恐らく此方の口調が素なのだろう。

「『魅了魔法』はすでに廃術となっている。構築に関わる文献も残っていないが、…これは『魅了体質』なのだろうな」

アトラクトの言葉がわからず、ミファセスは眉を寄せた。
その顔を見て喉を鳴らすアトラクトは黒い笑みを湛えた。

「あんた自身が『魅了魔法』そのものだ」
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