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五
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「伯爵!ララージャをどこに隠した!」
芳しい結果を得られなかったビリョークは、怒りを顕にして伯爵を怒鳴りつけた。
「隠すも何も、居もしない人間を出せと言われても」
「ララージャは、この屋敷に囚われているんだ!」
癇癪を起こすビリョークを無視して、騎士団の小隊長が非礼を詫びた。
屋敷に隠された部屋もなければ、侯爵子息の言う少女もいなかった。
肩を落とす隊長を不憫に思った伯爵は、
「そんなに会いたいのならば、会わせてやろう」と告げ、ビリョークは「やはり隠していたか」と強気に出た。
伯爵は、小隊長とヒルデ、ビリョークを連れて、王城にやってきた。
門番と軽く話をした伯爵は中に通されれ、案内役の後をついて城の外回廊を進んでいく。
「伯爵、何故城に…?」
戸惑う小隊長とビリョークに何も語らず、たどり着いたのは王家の霊廟だった。
「アレが亡くなった後も墓を掘り返す馬鹿が後を立たなくてな。見兼ねた国王陛下がここに安置してくれたのだ」
国王も、王太子時代にララージャと同じ学園で過ごした。
すでに婚約者がいたし、立場もあったから他の子息のように馬鹿なことはしなかった。
それでも、亡骸の安置の申し入れに来た陛下の瞳の奥には、別の色があったように伯爵は感じた。
冷え冷えとした霊廟のずっと奥。
突き当りのように見えたが、案内役が壁にあった小さな魔法陣に手を当てると、石の扉が勝手に開いた。
横たえられた透明の棺の中に、伯爵の実妹が眠っていた。
棺の中には、色とりどりの装飾と華やかな衣装を身に纏わせたララージャがあった。
亡骸を引き渡したときはこんな華美な衣装など用意していなかった。
腐食も見られず、ただ眠っているだけのようにも見えるが、肌の色は生気のない白で息をしていないという事はひと目でわかる。
高度な腐食防止魔法を使用している時点でやはり、陛下は…。
伯爵の思考は、侯爵子息の悲鳴で遮られた。
「ララージャ!」
棺に縋ろうとして、ビリョークは見えない壁に弾かれた。
「無闇に近づかないでください」
案内役に注意を受けてもビリョークには聞こえていないようだった。
どうして、なんで、と呆然と繰り返している。
「この方が、探していたララージャ様ですか…?
ご息女のヒルデ様によく似てらっしゃいますね…」
小隊長の言葉で、伯爵は気づいた。
表情豊かなララージャと、表情の乏しいヒルデを似ていると思ったことはない。
でも、口と目を閉じたララージャは確かにヒルデに似ているかもしれない。
血縁があるのだから、似ていても不思議ではない。
「ララージャ!ララージャ!」
どうしてと喚く。
「侯爵!日陰者の彼女をとうとう殺めたのか!」
ビリョークは嘆きから怒りへ感情を変え、伯爵に飛びかかったが、小隊長が俊敏な動きでそれを捕えた。
「…頭が痛いな」
「ビリョーク様。こちらの方は昨日今日亡くなったのではありません。この霊廟に入られるということは国王陛下の許可が必要です」
「そんなこと、つい三日前に会って…」
「ララージャさまがお亡くなりになったのは二十年前。貴方様が生まれる前のことでございます」
案内役の説明に、ビリョークは目を見開いてガクリと膝をつく。
「ならば…俺が会ったのは誰なのだ」
「…ヒルデなのでは?」
伯爵はビリョークとヒルデが中庭で過ごしていたのを知っている。
ビリョークは顔を上げてヒルデに目を向けるが、力なく首を振った。
「こんな…無表情な女ではない。ララージャは光り輝く笑顔で私を癒やしてくれて…」
「だとしたらば、実態のない妹が屋敷をまだ彷徨っているのやもしれませんな」
「そんな…」
どきりと内心焦りを見せたのは事情を知るヒルダだけだった。
芳しい結果を得られなかったビリョークは、怒りを顕にして伯爵を怒鳴りつけた。
「隠すも何も、居もしない人間を出せと言われても」
「ララージャは、この屋敷に囚われているんだ!」
癇癪を起こすビリョークを無視して、騎士団の小隊長が非礼を詫びた。
屋敷に隠された部屋もなければ、侯爵子息の言う少女もいなかった。
肩を落とす隊長を不憫に思った伯爵は、
「そんなに会いたいのならば、会わせてやろう」と告げ、ビリョークは「やはり隠していたか」と強気に出た。
伯爵は、小隊長とヒルデ、ビリョークを連れて、王城にやってきた。
門番と軽く話をした伯爵は中に通されれ、案内役の後をついて城の外回廊を進んでいく。
「伯爵、何故城に…?」
戸惑う小隊長とビリョークに何も語らず、たどり着いたのは王家の霊廟だった。
「アレが亡くなった後も墓を掘り返す馬鹿が後を立たなくてな。見兼ねた国王陛下がここに安置してくれたのだ」
国王も、王太子時代にララージャと同じ学園で過ごした。
すでに婚約者がいたし、立場もあったから他の子息のように馬鹿なことはしなかった。
それでも、亡骸の安置の申し入れに来た陛下の瞳の奥には、別の色があったように伯爵は感じた。
冷え冷えとした霊廟のずっと奥。
突き当りのように見えたが、案内役が壁にあった小さな魔法陣に手を当てると、石の扉が勝手に開いた。
横たえられた透明の棺の中に、伯爵の実妹が眠っていた。
棺の中には、色とりどりの装飾と華やかな衣装を身に纏わせたララージャがあった。
亡骸を引き渡したときはこんな華美な衣装など用意していなかった。
腐食も見られず、ただ眠っているだけのようにも見えるが、肌の色は生気のない白で息をしていないという事はひと目でわかる。
高度な腐食防止魔法を使用している時点でやはり、陛下は…。
伯爵の思考は、侯爵子息の悲鳴で遮られた。
「ララージャ!」
棺に縋ろうとして、ビリョークは見えない壁に弾かれた。
「無闇に近づかないでください」
案内役に注意を受けてもビリョークには聞こえていないようだった。
どうして、なんで、と呆然と繰り返している。
「この方が、探していたララージャ様ですか…?
ご息女のヒルデ様によく似てらっしゃいますね…」
小隊長の言葉で、伯爵は気づいた。
表情豊かなララージャと、表情の乏しいヒルデを似ていると思ったことはない。
でも、口と目を閉じたララージャは確かにヒルデに似ているかもしれない。
血縁があるのだから、似ていても不思議ではない。
「ララージャ!ララージャ!」
どうしてと喚く。
「侯爵!日陰者の彼女をとうとう殺めたのか!」
ビリョークは嘆きから怒りへ感情を変え、伯爵に飛びかかったが、小隊長が俊敏な動きでそれを捕えた。
「…頭が痛いな」
「ビリョーク様。こちらの方は昨日今日亡くなったのではありません。この霊廟に入られるということは国王陛下の許可が必要です」
「そんなこと、つい三日前に会って…」
「ララージャさまがお亡くなりになったのは二十年前。貴方様が生まれる前のことでございます」
案内役の説明に、ビリョークは目を見開いてガクリと膝をつく。
「ならば…俺が会ったのは誰なのだ」
「…ヒルデなのでは?」
伯爵はビリョークとヒルデが中庭で過ごしていたのを知っている。
ビリョークは顔を上げてヒルデに目を向けるが、力なく首を振った。
「こんな…無表情な女ではない。ララージャは光り輝く笑顔で私を癒やしてくれて…」
「だとしたらば、実態のない妹が屋敷をまだ彷徨っているのやもしれませんな」
「そんな…」
どきりと内心焦りを見せたのは事情を知るヒルダだけだった。
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