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六
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「しかし…妙なこともあったものだな」
「そうですね…」
ビリョークは抜け殻のようになっていた。
小隊長もどう報告すべきなのかと頭を悩ませていた。
彼らを城に置いたまま、伯爵親子は帰路についた。
登城の際乗り付けた我が家の馬車で、伯爵とヒルデの二人は揺られている。
「生まれる前に亡くなっている妹の事を何故、あの小僧が?…ヒルデ、お前が」
「いいえ。私は何も」
「だろうな。わざわざ話題にすることもないし。…ならば小僧の親か?」
先程のビリョークの様子に、伯爵は実妹の葬儀を思い出した。
ビリョークのように嘘だと叫び、怒り、嘆く子息は多かった。
伯爵は悲しみも当然あったけれど、親族以上に嘆かれ、犯人に対して怒りを持ったものが側にいたら、こちらは逆に冷静になってしまう。
はた迷惑な妹だったが、静かに送ってやれなかった事は、両親も伯爵も悔いが残った。
「まぁいい。早いところお前の婿を決めてやらねばな」
「あの、その件ですが…」
伯爵は珍しいヒルデの望みを聞いた。
「ふむ、やるだけやってみるが…結果はわからんぞ」
ヒルデが望んだのは、国の防壁とも言える辺境伯への婚約の打診だった。
こちらが傷物だということを包み隠さず伝えた上での申し入れは、面会の上決めたいと返答を受け取り、ヒルデは招待された辺境領へ向かったのだった。
『あの男だけ違ったのよね』
ララージャはヒルデの側で浮遊しながら、首を傾げていた。
辺境への移動中の馬車内。
ヒルデとララージャしか居ない。
父は当主として屋敷から離れられなかったので、ヒルデ一人で辺境に向かった。
『殿方の友人が多かった私を叱りつけるような奴だったのよ。今の辺境伯。…そういう所は少し兄様に似てるかな?』
「お父様はララージャ様には厳しかったのですか?」
『鬼だったよ』
ヒルデは笑う。鬼だというララージャは本当にうんざりしたような顔をしているから。
『死んでから兄様にも両親にも随分迷惑かけていたんだって知ってからは、改めたけど。…兄様は私を愛してくれていたんでしょう?』
「はい。仕方のない妹だけれど愛していたと言ってました」
『そっか…』
ララージャは父には近づかない。
生前の時から、あまり関わらないように逃げ回っていた名残りかもしれないと言っていた。
ヒルデの父であるララージャの兄が、妹をどう思っていたのか、知るのが怖かったのかもしれない。
『ふぅ。心残りがなくなったら、そろそろ私もここから離れるかもね』
「心残りとは…お父様のお気持ちだったのですか?」
『それもある、けど』
ララージャはヒルデの鼻先が触れ合う程の距離まで詰めた。
『大事な姪っ子の男を見定めるまでは逝けないかな!』
魅力ある笑顔で笑うララージャにつられて、ヒルデも笑顔になった。
「そうですね…」
ビリョークは抜け殻のようになっていた。
小隊長もどう報告すべきなのかと頭を悩ませていた。
彼らを城に置いたまま、伯爵親子は帰路についた。
登城の際乗り付けた我が家の馬車で、伯爵とヒルデの二人は揺られている。
「生まれる前に亡くなっている妹の事を何故、あの小僧が?…ヒルデ、お前が」
「いいえ。私は何も」
「だろうな。わざわざ話題にすることもないし。…ならば小僧の親か?」
先程のビリョークの様子に、伯爵は実妹の葬儀を思い出した。
ビリョークのように嘘だと叫び、怒り、嘆く子息は多かった。
伯爵は悲しみも当然あったけれど、親族以上に嘆かれ、犯人に対して怒りを持ったものが側にいたら、こちらは逆に冷静になってしまう。
はた迷惑な妹だったが、静かに送ってやれなかった事は、両親も伯爵も悔いが残った。
「まぁいい。早いところお前の婿を決めてやらねばな」
「あの、その件ですが…」
伯爵は珍しいヒルデの望みを聞いた。
「ふむ、やるだけやってみるが…結果はわからんぞ」
ヒルデが望んだのは、国の防壁とも言える辺境伯への婚約の打診だった。
こちらが傷物だということを包み隠さず伝えた上での申し入れは、面会の上決めたいと返答を受け取り、ヒルデは招待された辺境領へ向かったのだった。
『あの男だけ違ったのよね』
ララージャはヒルデの側で浮遊しながら、首を傾げていた。
辺境への移動中の馬車内。
ヒルデとララージャしか居ない。
父は当主として屋敷から離れられなかったので、ヒルデ一人で辺境に向かった。
『殿方の友人が多かった私を叱りつけるような奴だったのよ。今の辺境伯。…そういう所は少し兄様に似てるかな?』
「お父様はララージャ様には厳しかったのですか?」
『鬼だったよ』
ヒルデは笑う。鬼だというララージャは本当にうんざりしたような顔をしているから。
『死んでから兄様にも両親にも随分迷惑かけていたんだって知ってからは、改めたけど。…兄様は私を愛してくれていたんでしょう?』
「はい。仕方のない妹だけれど愛していたと言ってました」
『そっか…』
ララージャは父には近づかない。
生前の時から、あまり関わらないように逃げ回っていた名残りかもしれないと言っていた。
ヒルデの父であるララージャの兄が、妹をどう思っていたのか、知るのが怖かったのかもしれない。
『ふぅ。心残りがなくなったら、そろそろ私もここから離れるかもね』
「心残りとは…お父様のお気持ちだったのですか?」
『それもある、けど』
ララージャはヒルデの鼻先が触れ合う程の距離まで詰めた。
『大事な姪っ子の男を見定めるまでは逝けないかな!』
魅力ある笑顔で笑うララージャにつられて、ヒルデも笑顔になった。
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