7 / 9
七
しおりを挟む
婚約解消から半年。
ビリョークは屋敷に篭り、ぼんやりと過ごしていた。
伯爵家に押しかけて、すでに亡くなっている令嬢の亡霊を探すために、騎士団員まで動かしたことが問題となって謹慎を言い渡されている。
ちなみに、それを認めた騎士団長は降格になった。
ビリョークの訴えを聞いて、まだララージャが生きていると信じたかったようだった。
しかし、ビリョークもいつまでも謹慎というわけにも行かない。
謹慎明けには早く次の婚約者を探せと、父親にせっつかれ、ビリョークはしぶしぶ適当な夜会に顔を出すことにした。
侯爵当主である父が、息子の相手を探すことはない。
侯爵自身の女運のなさを自覚しているため、「伴侶は自分で選べ」と幼い頃から言われている。
そうして選んだはずのヒルデだったのだが、ニコリとも笑わぬ女を選んだことを悔いた。
顔の造作が良くとも、あそこまで無表情な女だとは思わなくて、対比となるような令嬢が現れ心はあっさり持って行かれた。
「ララージャのような女がいたら…」
居ないとわかってもまだ、ララージャの笑顔が思い出されて苦しくなる。
「ほら、いつまでもぐじぐじするな。行くぞ」
父に伴われて、夜会のために登城したビリョークは、会場を歩き回り、目を奪われた。
「ララージャ!!」
ララージャの姿を見つけ、ビリョークは走り出した。
驚いた顔をした彼女の前に男がさっと立ち、ララージャを背に隠す。
「ララージャ!私だよ!婚約者のビリョークだ」
男の影に隠れたままの彼女は顔を出さなかった。
彼女を守るようにして立つ男が、それを認めないのだ。
「…俺の婚約者に何か用か」
「誰だお前は!見たこともない顔だ」
「まぁ…あまりこのような催しに出ることはないからな。今回は婚約の報告のようなものだし」
「貴様に用ははない。後ろの令嬢を出せ」
「断る」
憤慨したビリョークが、男に詰め寄るのを侯爵が止めた。
「辺境伯のご子息。息子が無礼をいたしました。少々混乱しているようで」
「父上!なぜ止めるのです!ララージャがそこに」
ビリョークが何度も『ララージャ』の名を口にして、ざわつくのは父親世代の貴族で、他の者は何を騒いでいるのかと興味津々で彼らを見守っている。
「しっかりしろ!辺境伯の子息グリフォリオン殿の婚約者はヒルデ嬢だ。ララージャなどではない!」
「ヒルデとララージャを見間違えるわけがない!」
ビリョークの叫びに、グリフォリオンの背から姿を現したのは…
「…ヒルデ、嬢?」
「お久しぶりです。侯爵様。侯爵子息様」
表情のない元婚約者が、ビリョークに挨拶の礼をする。
「愚息が騒いで申し訳ない。ヒルデ嬢、婚約おめでとう」
「有難うございます」
ビリョークは混乱していた。
確かに、先ほど視界に入ったのはララージャだったはずなのに。
「では、我々は」
この場を去ろうとするグリフォリオンに腰を引き寄せられ、ヒルデは背の高い婚約者を見上げて笑った。
侯爵がはっと息を呑む。
過去に焦がれた少女と重なり…。
「ララージャ!やはりっ!ララージャだったんだな!」
父の手を振り切り飛び出したビリョークは、勢いのあまり蹴躓いて無様に床に転がった。
「ヒルデに近づくな」
見下ろす眼光に怯みながらも、ビリョークは男の隣の令嬢に目を向ける。
此方を見下ろす顔は間違いなくヒルデなのだが、うっとりと頬を染め婚約者を見上げる彼女は、まるでララージャのようで…。
「ララージャ……いや、ヒルデ…?どう、なってるんだ…」
二人が会場から去るその背を、ビリョークは床に張り付いたまま、じっと見つめていた。
ビリョークは屋敷に篭り、ぼんやりと過ごしていた。
伯爵家に押しかけて、すでに亡くなっている令嬢の亡霊を探すために、騎士団員まで動かしたことが問題となって謹慎を言い渡されている。
ちなみに、それを認めた騎士団長は降格になった。
ビリョークの訴えを聞いて、まだララージャが生きていると信じたかったようだった。
しかし、ビリョークもいつまでも謹慎というわけにも行かない。
謹慎明けには早く次の婚約者を探せと、父親にせっつかれ、ビリョークはしぶしぶ適当な夜会に顔を出すことにした。
侯爵当主である父が、息子の相手を探すことはない。
侯爵自身の女運のなさを自覚しているため、「伴侶は自分で選べ」と幼い頃から言われている。
そうして選んだはずのヒルデだったのだが、ニコリとも笑わぬ女を選んだことを悔いた。
顔の造作が良くとも、あそこまで無表情な女だとは思わなくて、対比となるような令嬢が現れ心はあっさり持って行かれた。
「ララージャのような女がいたら…」
居ないとわかってもまだ、ララージャの笑顔が思い出されて苦しくなる。
「ほら、いつまでもぐじぐじするな。行くぞ」
父に伴われて、夜会のために登城したビリョークは、会場を歩き回り、目を奪われた。
「ララージャ!!」
ララージャの姿を見つけ、ビリョークは走り出した。
驚いた顔をした彼女の前に男がさっと立ち、ララージャを背に隠す。
「ララージャ!私だよ!婚約者のビリョークだ」
男の影に隠れたままの彼女は顔を出さなかった。
彼女を守るようにして立つ男が、それを認めないのだ。
「…俺の婚約者に何か用か」
「誰だお前は!見たこともない顔だ」
「まぁ…あまりこのような催しに出ることはないからな。今回は婚約の報告のようなものだし」
「貴様に用ははない。後ろの令嬢を出せ」
「断る」
憤慨したビリョークが、男に詰め寄るのを侯爵が止めた。
「辺境伯のご子息。息子が無礼をいたしました。少々混乱しているようで」
「父上!なぜ止めるのです!ララージャがそこに」
ビリョークが何度も『ララージャ』の名を口にして、ざわつくのは父親世代の貴族で、他の者は何を騒いでいるのかと興味津々で彼らを見守っている。
「しっかりしろ!辺境伯の子息グリフォリオン殿の婚約者はヒルデ嬢だ。ララージャなどではない!」
「ヒルデとララージャを見間違えるわけがない!」
ビリョークの叫びに、グリフォリオンの背から姿を現したのは…
「…ヒルデ、嬢?」
「お久しぶりです。侯爵様。侯爵子息様」
表情のない元婚約者が、ビリョークに挨拶の礼をする。
「愚息が騒いで申し訳ない。ヒルデ嬢、婚約おめでとう」
「有難うございます」
ビリョークは混乱していた。
確かに、先ほど視界に入ったのはララージャだったはずなのに。
「では、我々は」
この場を去ろうとするグリフォリオンに腰を引き寄せられ、ヒルデは背の高い婚約者を見上げて笑った。
侯爵がはっと息を呑む。
過去に焦がれた少女と重なり…。
「ララージャ!やはりっ!ララージャだったんだな!」
父の手を振り切り飛び出したビリョークは、勢いのあまり蹴躓いて無様に床に転がった。
「ヒルデに近づくな」
見下ろす眼光に怯みながらも、ビリョークは男の隣の令嬢に目を向ける。
此方を見下ろす顔は間違いなくヒルデなのだが、うっとりと頬を染め婚約者を見上げる彼女は、まるでララージャのようで…。
「ララージャ……いや、ヒルデ…?どう、なってるんだ…」
二人が会場から去るその背を、ビリョークは床に張り付いたまま、じっと見つめていた。
233
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない
有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。
魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。
「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。
幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路
今川幸乃
恋愛
ローラ・ケレットは幼馴染のクレアとパーティーに参加していた。
すると突然、厄介令嬢として名高いジュリーに絡まれ、ひたすら金持ち自慢をされる。
ローラは黙って堪えていたが、純粋なクレアはついぽろっとジュリーのドレスにケチをつけてしまう。
それを聞いたローラは顔を真っ赤にし、今度はクレアの婚約者を馬鹿にし始める。
そしてジュリー自身は貴公子と名高いアイザックという男と結ばれていると自慢を始めるが、騒ぎを聞きつけたアイザック本人が現れ……
※短い……はず
振られたあとに優しくされても困ります
菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。
冷徹な姉と健気な妹……?
しゃーりん
恋愛
ハルモニア伯爵家の長女パトリシアは学園で『冷徹な姉』と言われている。
その原因は、自分を『健気な妹』だと演出するイゾベラのせいであり、パトリシアの婚約者リチャードがイゾベラを信じているから。
しかし、パトリシアはリチャードとの婚約解消を願っているため、イゾベラの言動は大歓迎だった。
リチャードは自分が結婚する相手が次期ハルモニア伯爵になるのだと思っており、パトリシアと婚約解消してイゾベラと結婚すると言うが、そもそもイゾベラはパトリシアの妹ではないというお話です。
性格が嫌いだと言われ婚約破棄をしました
クロユキ
恋愛
エリック・フィゼリ子息子爵とキャロル・ラシリア令嬢子爵は親同士で決めた婚約で、エリックは不満があった。
十五歳になって突然婚約者を決められエリックは不満だった。婚約者のキャロルは大人しい性格で目立たない彼女がイヤだった。十六歳になったエリックには付き合っている彼女が出来た。
我慢の限界に来たエリックはキャロルと婚約破棄をする事に決めた。
誤字脱字があります不定期ですがよろしくお願いします。
王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
わたしはただの道具だったということですね。
ふまさ
恋愛
「──ごめん。ぼくと、別れてほしいんだ」
オーブリーは、頭を下げながらそう告げた。
街で一、二を争うほど大きな商会、ビアンコ商会の跡継ぎであるオーブリーの元に嫁いで二年。貴族令嬢だったナタリアにとって、いわゆる平民の暮らしに、最初は戸惑うこともあったが、それでも優しいオーブリーたちに支えられ、この生活が当たり前になろうとしていたときのことだった。
いわく、その理由は。
初恋のリリアンに再会し、元夫に背負わさせた借金を肩代わりすると申し出たら、告白された。ずっと好きだった彼女と付き合いたいから、離縁したいというものだった。
他の男にとられる前に早く別れてくれ。
急かすオーブリーが、ナタリアに告白したのもプロポーズしたのも自分だが、それは父の命令で、家のためだったと明かす。
とどめのように、オーブリーは小さな巾着袋をテーブルに置いた。
「少しだけど、お金が入ってる。ぼくは不倫したわけじゃないから、本来は慰謝料なんて払う必要はないけど……身勝手だという自覚はあるから」
「…………」
手のひらにすっぽりと収まりそうな、小さな巾着袋。リリアンの借金額からすると、天と地ほどの差があるのは明らか。
「…………はっ」
情けなくて、悔しくて。
ナタリアは、涙が出そうになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる