6 / 9
六
しおりを挟む
「しかし…妙なこともあったものだな」
「そうですね…」
ビリョークは抜け殻のようになっていた。
小隊長もどう報告すべきなのかと頭を悩ませていた。
彼らを城に置いたまま、伯爵親子は帰路についた。
登城の際乗り付けた我が家の馬車で、伯爵とヒルデの二人は揺られている。
「生まれる前に亡くなっている妹の事を何故、あの小僧が?…ヒルデ、お前が」
「いいえ。私は何も」
「だろうな。わざわざ話題にすることもないし。…ならば小僧の親か?」
先程のビリョークの様子に、伯爵は実妹の葬儀を思い出した。
ビリョークのように嘘だと叫び、怒り、嘆く子息は多かった。
伯爵は悲しみも当然あったけれど、親族以上に嘆かれ、犯人に対して怒りを持ったものが側にいたら、こちらは逆に冷静になってしまう。
はた迷惑な妹だったが、静かに送ってやれなかった事は、両親も伯爵も悔いが残った。
「まぁいい。早いところお前の婿を決めてやらねばな」
「あの、その件ですが…」
伯爵は珍しいヒルデの望みを聞いた。
「ふむ、やるだけやってみるが…結果はわからんぞ」
ヒルデが望んだのは、国の防壁とも言える辺境伯への婚約の打診だった。
こちらが傷物だということを包み隠さず伝えた上での申し入れは、面会の上決めたいと返答を受け取り、ヒルデは招待された辺境領へ向かったのだった。
『あの男だけ違ったのよね』
ララージャはヒルデの側で浮遊しながら、首を傾げていた。
辺境への移動中の馬車内。
ヒルデとララージャしか居ない。
父は当主として屋敷から離れられなかったので、ヒルデ一人で辺境に向かった。
『殿方の友人が多かった私を叱りつけるような奴だったのよ。今の辺境伯。…そういう所は少し兄様に似てるかな?』
「お父様はララージャ様には厳しかったのですか?」
『鬼だったよ』
ヒルデは笑う。鬼だというララージャは本当にうんざりしたような顔をしているから。
『死んでから兄様にも両親にも随分迷惑かけていたんだって知ってからは、改めたけど。…兄様は私を愛してくれていたんでしょう?』
「はい。仕方のない妹だけれど愛していたと言ってました」
『そっか…』
ララージャは父には近づかない。
生前の時から、あまり関わらないように逃げ回っていた名残りかもしれないと言っていた。
ヒルデの父であるララージャの兄が、妹をどう思っていたのか、知るのが怖かったのかもしれない。
『ふぅ。心残りがなくなったら、そろそろ私もここから離れるかもね』
「心残りとは…お父様のお気持ちだったのですか?」
『それもある、けど』
ララージャはヒルデの鼻先が触れ合う程の距離まで詰めた。
『大事な姪っ子の男を見定めるまでは逝けないかな!』
魅力ある笑顔で笑うララージャにつられて、ヒルデも笑顔になった。
「そうですね…」
ビリョークは抜け殻のようになっていた。
小隊長もどう報告すべきなのかと頭を悩ませていた。
彼らを城に置いたまま、伯爵親子は帰路についた。
登城の際乗り付けた我が家の馬車で、伯爵とヒルデの二人は揺られている。
「生まれる前に亡くなっている妹の事を何故、あの小僧が?…ヒルデ、お前が」
「いいえ。私は何も」
「だろうな。わざわざ話題にすることもないし。…ならば小僧の親か?」
先程のビリョークの様子に、伯爵は実妹の葬儀を思い出した。
ビリョークのように嘘だと叫び、怒り、嘆く子息は多かった。
伯爵は悲しみも当然あったけれど、親族以上に嘆かれ、犯人に対して怒りを持ったものが側にいたら、こちらは逆に冷静になってしまう。
はた迷惑な妹だったが、静かに送ってやれなかった事は、両親も伯爵も悔いが残った。
「まぁいい。早いところお前の婿を決めてやらねばな」
「あの、その件ですが…」
伯爵は珍しいヒルデの望みを聞いた。
「ふむ、やるだけやってみるが…結果はわからんぞ」
ヒルデが望んだのは、国の防壁とも言える辺境伯への婚約の打診だった。
こちらが傷物だということを包み隠さず伝えた上での申し入れは、面会の上決めたいと返答を受け取り、ヒルデは招待された辺境領へ向かったのだった。
『あの男だけ違ったのよね』
ララージャはヒルデの側で浮遊しながら、首を傾げていた。
辺境への移動中の馬車内。
ヒルデとララージャしか居ない。
父は当主として屋敷から離れられなかったので、ヒルデ一人で辺境に向かった。
『殿方の友人が多かった私を叱りつけるような奴だったのよ。今の辺境伯。…そういう所は少し兄様に似てるかな?』
「お父様はララージャ様には厳しかったのですか?」
『鬼だったよ』
ヒルデは笑う。鬼だというララージャは本当にうんざりしたような顔をしているから。
『死んでから兄様にも両親にも随分迷惑かけていたんだって知ってからは、改めたけど。…兄様は私を愛してくれていたんでしょう?』
「はい。仕方のない妹だけれど愛していたと言ってました」
『そっか…』
ララージャは父には近づかない。
生前の時から、あまり関わらないように逃げ回っていた名残りかもしれないと言っていた。
ヒルデの父であるララージャの兄が、妹をどう思っていたのか、知るのが怖かったのかもしれない。
『ふぅ。心残りがなくなったら、そろそろ私もここから離れるかもね』
「心残りとは…お父様のお気持ちだったのですか?」
『それもある、けど』
ララージャはヒルデの鼻先が触れ合う程の距離まで詰めた。
『大事な姪っ子の男を見定めるまでは逝けないかな!』
魅力ある笑顔で笑うララージャにつられて、ヒルデも笑顔になった。
208
あなたにおすすめの小説
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
酷いことをしたのはあなたの方です
風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。
あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。
ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。
聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。
※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。
※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。
※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる