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第一章 凡庸で悪いか
暗殺者ユウスケ
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緊急特務課に、報告に戻ると、マナイクシオンのリーダーハッサムかいた。
「よう、戻って来たか。じゃあ、明日出発ということでいいな」
「明日ですか。わかりました。同行します」
そうは応えたが、今回の遠征で、身体はダルいし、精神的にボロボロ。正直にいえば、ゆっくりお風呂に浸かって数日間休みたい心境だ。
今回の遠征は、三十五階層から一日一階層毎にクリアしていく三泊四日の遠征だったが、三十五階層を超えると各階層のボスはかなり強い。今日の竜も、かなりの曲者だったが、各階層ごとに、魔力を使い切る程の強敵ばかりだった。
だから、肉体疲労成分もヒールで急速除去し、体力も回復している今でも、身体がだるく、つらい。
なのに、明日もA級ダンジョン調査だとおもうと、勘弁してくれとさえ思ってしまう。
「クリフ、抜け駆けはするなよな」 ハッサムはリックの肩に手を掛けて出て行った。
ハッサムさんもクラン戦争になる覚悟で勧誘してくるが、リックさんが今日も『パレンティオン』に勧誘したのを知っているみたいだ。
「例の調査か? 人気者は休みもなしか。つらいな」
ロックは、僕の辛さを理解してくれ、慰めてくれた。
因みに明日行くダンジョンは、踏破済みのB級ダンジョンだ。先週、そのダンジョンを再攻略したB級クランが、最深部三十階層に、隠し扉を見つけ、地下へと続く道があったと報告してきた。
隠し通路なんで、今まで未発見で、何があるか全くわからないが、階層としては三十一階層からになるので、未踏破A級ダンジョンに昇格したわけだ。
恐らく残り一階層か二階層で最深部になるだろうとの予想だが、このA級ダンジョン調査をマナイクシオンが受注し、僕もパーティーに誘ってくれたという訳だ。
「では、これが今回の報酬となります」
事務員のシーナさんが、クリフに札束と金貨数枚を渡した。A級三階層分の情報提供料と、ダンジョン攻略報酬とで、平均月収の八倍以上の報奨金だ。
クリフはそれを六等分して、直ぐに僕にも現金を渡してくれた。
「あのユウスケさん、部長がお呼びです。顔をだしてあげてください」
シーナさんが、僕らを観察し、タイミングを見て切り出して来た。
部長というのは、二年前まで課長だったカールさんだ。出世して、今は特務部の部長となり、部長室までもらっていい身分になっている。
おそらく、僕の副業の件に違いない。今は疲れているので、正直受けたくないというのが本音だ。
カールさんが部長になって半年程が過ぎた日、初めて部長室に呼び出された。
「ユウスケ君、おめでとう。ついに熟練度最高のSに昇格したんだってな。スキル量もとんでもなく多いし、不可視化スキルまで持っている。実力としてはAS以上だ。そこで、君に折り入って任せたい仕事がある。秘密の仕事なので、引き受けてくれない限り、依頼内容は話せないが、君一人だけで任務遂行してもらいたい。引き受けてくるよね」
単身任務で、秘密のクエスト。なにか嫌な感じがしたが、ここまで早く成長できたのは、カールさんのお蔭でもある。
「わかりました。引き受けます。どんな依頼なんでしょう」
「この世界には、特権に守られて、法に捌かれない悪が存在する。賄賂を貰い私腹を肥やす執政者、領民に重税を課し、娘を奉公に出させ、自殺に追いやる貴族。必需品を蔵にしまい込み……」
嫌な予感は的中した。この世に暗躍する悪人を討伐する必殺仕事人のような仕事を依頼しようとしている。魔物相手なら躊躇なく殺せるが、悪人と言えども人殺し何て御免だ。
「まさか、僕に人殺しをさせようということですか。お断りします」
「君は魔人を殺せないというのかな。魔人も見た目は人と同じだ。彼らには心がなく、冷酷で残忍で、人を殺すことをいとわない。彼らも同じだよ。人間の皮を被っているが、人の心を持たざるものだ。情状酌量の余地すらない。法で捌ければ、死罪はまちがいない者たちだ。少しでも人間らしい心があれば、君に依頼なんてしない。私の方で厳格に調査し、救いようのない悪人だと調査して、この殺人依頼を引き受けた。今なら、他言無用として、依頼を断ることも許可するが、この仕事は、君でなければ頼めない仕事なんだ。そのことを考えて、もう一度、訊く。この依頼、引き受けてくれるよね」
S級ダンジョンでないと、魔人はおらず、当然対戦した事はないが、僕はおそらく躊躇わず殺すだろう。ではなぜ悪人は嫌なのか。自問自答して考えてみたが、部長の理屈は正論で、最低な悪人を殺したくないのは、僕の我儘だとしか思えなかった。
「わかりました。具体的に、その依頼を聞かせて頂けますか」
「暗殺対象は、港町ロッテルの軍団長サイラス。軍団長の立場を笠に着て、好き勝手し、気に食わないと平気で、女・子供・老人ですら切り殺す悪人だ。肩がぶつかっただけで何人も切り殺しているし、酒に酔うと、女給を公衆の面前で淫行したりもしている。それでも軍団長なので、一度も逮捕されたことがなく、皆、泣き寝入りして、これ以上、関わらないようにしている悪人だ。ランクはABだが、剣技スキルを持っていて、酔ってなければかなりの強敵だと思って欲しい」
ロッテルと言われても、そんな町は知らなかったが、そういえば最初に出会ったご婦人が貿易都市ロッテルに行くといっていたのを思い出した。それなら隣でさほど遠くはない。
そして、サイラスという名前で思い浮かんだのが、国王親衛隊のサイラスだ。
エリートなので、そんな田舎町の軍団長とは違うが、あの男も最低な男だったなと、嫌な事を思い出してしまった。同じ名前なので、あのサイラスを殺すと思って仕事をすればいいと、割り切った。
「依頼者は、先日、サイラスに切り殺された娘の父親の豪商だ。その娘は正義感が強く、優しい子だったらしい。彼女とは無関係の子が、サイラスにぶつかって、切り殺そうとした所を助けにはいったらしい。それが気に入らず、『助けたいなら裸になれ』と公衆の面前で命じたのだそう。それでも子供を助けたい一心で裸になったのだが、サイラスは彼女と子供の両名を切り殺した。人間の皮を被った魔人だよ」
本当に、最低な男で、これなら罪悪感なく仕事ができそうだ。
翌日列車で、隣町のロッテルに行き、僕は彼の家に忍び込み、隠密スキルと不可視スキルで、気づかれないように、寝室に忍び込んだ。そして、剣を構えて、殺そうとしたが、寝返りを打った彼の顔を見て、剣で突き刺すのをやめた。なんと彼は王宮で僕を虐めていたあのサイラスだったからだ。
後で、部長に調べてもらって分かったが、二年前に、品行が悪いと左遷され、ロッテルの軍団長になっていた。
「おい、サイラス起きろ」 僕はスキル解除して、今度は身体強化スキルを全て発動させて彼を揺すった。
「なんだ。緊急事態……。お前は、勇者のおまけの……」
僕の名前まで、憶えていないようだ。
「貴様の悪行の数々、天に変わって成敗しにきた」
「まて、誤解だ。少し俺の話を聞いてくれ。あいつらの方が悪いんだ」
そういって、ベッドから回転する様に飛び出して、剣を構えた。
「折角の機会を見逃すなんて、甘ちゃんなのは変わってないな。返り討ちにしてやるよ」
殺すタイミングは何度もあったが、あえて殺さずにおいたのに、そんなことを言ってきた。
あの時は、全然敵わなかったが、今は暗殺しなくとも勝てると思っているし、今の実力を測るいい練習台だと思ったのだ。
僕は、自分にリジェネを掛けて、サイラスと睨みあう。
そして、サイラスから動いてきて、それを交して小手狙いで切りつけたが、その一撃は交わされた。
「危ない危ない。結構、腕を上げたみたいだな。だが、これでお終いだ」
次の瞬間、袈裟切りしてきて交わしたが、その一撃には無数に刃が残像の様に出現し、その残像剣で、僕の身体を切り刻まれることになった。僕のもつ剣乱舞とは違うようだが、類似のスキルだ。
だが、傷はそれほど深くないし、傷はリジェネで直ぐに塞がっていく。
「どういうことだ。治癒魔法がつかえるのか」
「今度は僕から行きますよ。剣乱舞」
流石はサイラスで、本筋の一撃を防いだが、小斬撃の方はもろに食らい、血まみれになる。
「いつの間に剣技スキルを」
続けざまに、天斬撃を放つ。金剛突きの斬撃版スキルで、クリティカルダメージを乗せる重い剣技だ。
「ぐわっ、ばかな」 剣で弾こうとするが、そのまま胴がきまり、内臓が飛び出し、血飛沫を挙げて、そのまま倒れた。
そして、背後から、心臓に剣を突き刺し、止めをさした。
六年半前は、絶対に敵わない強敵のサイラスだったが、一瞬で片が付いた。僕はとんでもなく強くなっていると実感することになった。
だが、仕事を終えて戻ると、悪夢を見て魘された。こんな奴、死んで当然だと思っていたが、やはり人間を殺したという罪悪感があるみたいだ。それから暫くは、度々悪夢を見て苦しむことになった。
でも、今はもう、悪夢も見ないし、この仕事にも誇りを持っている。天に代わって悪を討っていると心の底から思えているからだ。
「カール部長、お呼びでしょうか」
「ああ、例の依頼をまた頼みたいのだが、今回の対象者は、完全に悪ではない少し特殊なケースなんだ。直接非道を行った外道を殺せばいいと思うかもしれないが、それでは次の外道が生まれるだけ。その人物がいる限り、残虐非道はとまらず、殺さざるをえないという特殊ケースでね。それでも引き受けてもらえるかな」
「ええ、部長がどうしても暗殺する必要があると判断したのであれば、引き受けます。ただし、直ぐには仕事に行けません。明日から、例のダンジョン調査に同行することになっていますので。おそらく二日で終わるとは思いますが、場合によっては一週間以上かかることもありえますので、それでも良いのであれば」
「六日後なら不味いが、五日後の深夜までに執行してもらえるなら、お願いしたい。君に依頼しづらい理由はもう一つあって、今回のターゲットは、君の同郷、勇者ユリなんだよ」
「えっ。彼女は魔王討伐の遠征中じゃなかったんですか」
「魔王四天王の一人に敗れ、大怪我して今は王都病院に入院している。一週間入院するらしく、六日後の朝には王宮に戻り、手出しできなくなる。依頼者は名前を明かせないが、とある大臣で、国王も承認しているらしい。罪状は……」
僕が敬愛し、尊敬する財前由梨が暗殺対象。魔王討伐に失敗した途端、掌を返し、暗殺しようとしてきた。あの日、頭を下げて魔王討伐を頼んできた国王まで、承認している。その事実で、僕の頭の中はパニックになっていた。
話を聞けば、確かに最低だ。勇者一行だという事を笠に着て、ただで飲み食いして豪遊し、村娘を傷物にしたりもしている。妊娠して自殺した娘もいたそうだ。
勇者ユリは飲み食いしただけだが、その非道を注意することなく見逃してきた罪も重い。
王国は、その非道の数々を、もみ消しつづけてきたが、今回の敗北を機に、勇者を殺し、パーティーを解散して、今後は法の裁きを受けられる状態にしようと考えたのも分からなくもない。
だが、魔人程の悪人ではないし、あの財前由梨が対象なので乗り気がしない。本当なら部長も引き受けなかった筈だが、国王も承認している大臣からの依頼なので、断れなかったに違いない。
話を聞いた以上、断れないが、どうしても嫌だと言えば、部長は諦めてくれるだろう。だが、僕以上の仕事人はいない。依頼失敗となり、部長が責任をとらされる。
引き受けてしまった部長が悪いと割り切ることもできるが、どうしたものか。
「分かりました。先ほども言いましたが、四日で帰還できた場合は、任務遂行しますが、五日以上かかった場合は、この仕事はキャンセルという事にしてください。部長には迷惑を掛けますが、王宮に忍び込むのは、僕のスキルでも流石に無理ですので」
「了解した。その場合は、大臣に頭を下げて断るよ。できるだけ早期に、ダンジョン攻略が終わることを期待している」
頭を下げて済むとは思えないが、命までは取りはしないはずだ。左遷等の処分で済むことを期待している。
僕は、管理局を後にし、自宅にもどったが、もし、四日以内に片が付いてしまった時の事が心配になった。
部長の責任も鑑みて、天に任せると決断したが、この掛けは、僕がかなり不利だと気づいた。
三十一階層を超えると、どうしても一日二階層程度の攻略スピードになるが、慎重に進めようと提案しても、一日一階層。つまり、最深部が三十四階層以上でないと、依頼を引き受けざるを得なくなる。もともとB級ダンジョンなので、それほどの深層まであるとは思えないし、階層ボスを簡単に攻略できた場合は、三十六階層以上でないと、引き受けざるをえなくなる。
つまり、僕が依頼を引き受けざるを得ない確率が極めて高いのだ。
なら、敵前逃走してどこか田舎町で暮らすことも考えたが、無責任極まりないし、悪を野放しにはできない。いっそのこと、正々堂々と戦い、返り討ちに遭えばいいかとも考えてみたが、死にたくはない。
どうしたものかと、頭を抱えることになった。
そして悩んだ挙句、やはりこの仕事をキャンセルにするしかないとの結論になった。
実際にそれだけの時間がかかる深層まで続いていることを期待しているが、早く終わったとしても、パーティーメンバーにお願いして、ダンジョン内で暫く寝泊まりして、時間稼ぎすればいい。
三十二階層しかないのに、そんなに時間がかかったのかと訝しがられても、怪我人が出て、時間がかかったと言い張ればいいだけの話だ。
ただ、マナイクシオンのリーダーのハッサムは、不正が嫌いな男だ。僕の我儘を素直に聞き入れてもらえるとは思えない。彼を説得するには、なにかその代償が必要だ。
なら、僕が身売りすればいい。これ以上のスキル獲得の必要もないし、副業からも足を洗って、マナイクシオンの一員になってしまえばいい。
でも、そうなると、クラン戦争になって。
この際、それもやむなしかと、無責任にそんなことまで考えるまでになっていた。
「よう、戻って来たか。じゃあ、明日出発ということでいいな」
「明日ですか。わかりました。同行します」
そうは応えたが、今回の遠征で、身体はダルいし、精神的にボロボロ。正直にいえば、ゆっくりお風呂に浸かって数日間休みたい心境だ。
今回の遠征は、三十五階層から一日一階層毎にクリアしていく三泊四日の遠征だったが、三十五階層を超えると各階層のボスはかなり強い。今日の竜も、かなりの曲者だったが、各階層ごとに、魔力を使い切る程の強敵ばかりだった。
だから、肉体疲労成分もヒールで急速除去し、体力も回復している今でも、身体がだるく、つらい。
なのに、明日もA級ダンジョン調査だとおもうと、勘弁してくれとさえ思ってしまう。
「クリフ、抜け駆けはするなよな」 ハッサムはリックの肩に手を掛けて出て行った。
ハッサムさんもクラン戦争になる覚悟で勧誘してくるが、リックさんが今日も『パレンティオン』に勧誘したのを知っているみたいだ。
「例の調査か? 人気者は休みもなしか。つらいな」
ロックは、僕の辛さを理解してくれ、慰めてくれた。
因みに明日行くダンジョンは、踏破済みのB級ダンジョンだ。先週、そのダンジョンを再攻略したB級クランが、最深部三十階層に、隠し扉を見つけ、地下へと続く道があったと報告してきた。
隠し通路なんで、今まで未発見で、何があるか全くわからないが、階層としては三十一階層からになるので、未踏破A級ダンジョンに昇格したわけだ。
恐らく残り一階層か二階層で最深部になるだろうとの予想だが、このA級ダンジョン調査をマナイクシオンが受注し、僕もパーティーに誘ってくれたという訳だ。
「では、これが今回の報酬となります」
事務員のシーナさんが、クリフに札束と金貨数枚を渡した。A級三階層分の情報提供料と、ダンジョン攻略報酬とで、平均月収の八倍以上の報奨金だ。
クリフはそれを六等分して、直ぐに僕にも現金を渡してくれた。
「あのユウスケさん、部長がお呼びです。顔をだしてあげてください」
シーナさんが、僕らを観察し、タイミングを見て切り出して来た。
部長というのは、二年前まで課長だったカールさんだ。出世して、今は特務部の部長となり、部長室までもらっていい身分になっている。
おそらく、僕の副業の件に違いない。今は疲れているので、正直受けたくないというのが本音だ。
カールさんが部長になって半年程が過ぎた日、初めて部長室に呼び出された。
「ユウスケ君、おめでとう。ついに熟練度最高のSに昇格したんだってな。スキル量もとんでもなく多いし、不可視化スキルまで持っている。実力としてはAS以上だ。そこで、君に折り入って任せたい仕事がある。秘密の仕事なので、引き受けてくれない限り、依頼内容は話せないが、君一人だけで任務遂行してもらいたい。引き受けてくるよね」
単身任務で、秘密のクエスト。なにか嫌な感じがしたが、ここまで早く成長できたのは、カールさんのお蔭でもある。
「わかりました。引き受けます。どんな依頼なんでしょう」
「この世界には、特権に守られて、法に捌かれない悪が存在する。賄賂を貰い私腹を肥やす執政者、領民に重税を課し、娘を奉公に出させ、自殺に追いやる貴族。必需品を蔵にしまい込み……」
嫌な予感は的中した。この世に暗躍する悪人を討伐する必殺仕事人のような仕事を依頼しようとしている。魔物相手なら躊躇なく殺せるが、悪人と言えども人殺し何て御免だ。
「まさか、僕に人殺しをさせようということですか。お断りします」
「君は魔人を殺せないというのかな。魔人も見た目は人と同じだ。彼らには心がなく、冷酷で残忍で、人を殺すことをいとわない。彼らも同じだよ。人間の皮を被っているが、人の心を持たざるものだ。情状酌量の余地すらない。法で捌ければ、死罪はまちがいない者たちだ。少しでも人間らしい心があれば、君に依頼なんてしない。私の方で厳格に調査し、救いようのない悪人だと調査して、この殺人依頼を引き受けた。今なら、他言無用として、依頼を断ることも許可するが、この仕事は、君でなければ頼めない仕事なんだ。そのことを考えて、もう一度、訊く。この依頼、引き受けてくれるよね」
S級ダンジョンでないと、魔人はおらず、当然対戦した事はないが、僕はおそらく躊躇わず殺すだろう。ではなぜ悪人は嫌なのか。自問自答して考えてみたが、部長の理屈は正論で、最低な悪人を殺したくないのは、僕の我儘だとしか思えなかった。
「わかりました。具体的に、その依頼を聞かせて頂けますか」
「暗殺対象は、港町ロッテルの軍団長サイラス。軍団長の立場を笠に着て、好き勝手し、気に食わないと平気で、女・子供・老人ですら切り殺す悪人だ。肩がぶつかっただけで何人も切り殺しているし、酒に酔うと、女給を公衆の面前で淫行したりもしている。それでも軍団長なので、一度も逮捕されたことがなく、皆、泣き寝入りして、これ以上、関わらないようにしている悪人だ。ランクはABだが、剣技スキルを持っていて、酔ってなければかなりの強敵だと思って欲しい」
ロッテルと言われても、そんな町は知らなかったが、そういえば最初に出会ったご婦人が貿易都市ロッテルに行くといっていたのを思い出した。それなら隣でさほど遠くはない。
そして、サイラスという名前で思い浮かんだのが、国王親衛隊のサイラスだ。
エリートなので、そんな田舎町の軍団長とは違うが、あの男も最低な男だったなと、嫌な事を思い出してしまった。同じ名前なので、あのサイラスを殺すと思って仕事をすればいいと、割り切った。
「依頼者は、先日、サイラスに切り殺された娘の父親の豪商だ。その娘は正義感が強く、優しい子だったらしい。彼女とは無関係の子が、サイラスにぶつかって、切り殺そうとした所を助けにはいったらしい。それが気に入らず、『助けたいなら裸になれ』と公衆の面前で命じたのだそう。それでも子供を助けたい一心で裸になったのだが、サイラスは彼女と子供の両名を切り殺した。人間の皮を被った魔人だよ」
本当に、最低な男で、これなら罪悪感なく仕事ができそうだ。
翌日列車で、隣町のロッテルに行き、僕は彼の家に忍び込み、隠密スキルと不可視スキルで、気づかれないように、寝室に忍び込んだ。そして、剣を構えて、殺そうとしたが、寝返りを打った彼の顔を見て、剣で突き刺すのをやめた。なんと彼は王宮で僕を虐めていたあのサイラスだったからだ。
後で、部長に調べてもらって分かったが、二年前に、品行が悪いと左遷され、ロッテルの軍団長になっていた。
「おい、サイラス起きろ」 僕はスキル解除して、今度は身体強化スキルを全て発動させて彼を揺すった。
「なんだ。緊急事態……。お前は、勇者のおまけの……」
僕の名前まで、憶えていないようだ。
「貴様の悪行の数々、天に変わって成敗しにきた」
「まて、誤解だ。少し俺の話を聞いてくれ。あいつらの方が悪いんだ」
そういって、ベッドから回転する様に飛び出して、剣を構えた。
「折角の機会を見逃すなんて、甘ちゃんなのは変わってないな。返り討ちにしてやるよ」
殺すタイミングは何度もあったが、あえて殺さずにおいたのに、そんなことを言ってきた。
あの時は、全然敵わなかったが、今は暗殺しなくとも勝てると思っているし、今の実力を測るいい練習台だと思ったのだ。
僕は、自分にリジェネを掛けて、サイラスと睨みあう。
そして、サイラスから動いてきて、それを交して小手狙いで切りつけたが、その一撃は交わされた。
「危ない危ない。結構、腕を上げたみたいだな。だが、これでお終いだ」
次の瞬間、袈裟切りしてきて交わしたが、その一撃には無数に刃が残像の様に出現し、その残像剣で、僕の身体を切り刻まれることになった。僕のもつ剣乱舞とは違うようだが、類似のスキルだ。
だが、傷はそれほど深くないし、傷はリジェネで直ぐに塞がっていく。
「どういうことだ。治癒魔法がつかえるのか」
「今度は僕から行きますよ。剣乱舞」
流石はサイラスで、本筋の一撃を防いだが、小斬撃の方はもろに食らい、血まみれになる。
「いつの間に剣技スキルを」
続けざまに、天斬撃を放つ。金剛突きの斬撃版スキルで、クリティカルダメージを乗せる重い剣技だ。
「ぐわっ、ばかな」 剣で弾こうとするが、そのまま胴がきまり、内臓が飛び出し、血飛沫を挙げて、そのまま倒れた。
そして、背後から、心臓に剣を突き刺し、止めをさした。
六年半前は、絶対に敵わない強敵のサイラスだったが、一瞬で片が付いた。僕はとんでもなく強くなっていると実感することになった。
だが、仕事を終えて戻ると、悪夢を見て魘された。こんな奴、死んで当然だと思っていたが、やはり人間を殺したという罪悪感があるみたいだ。それから暫くは、度々悪夢を見て苦しむことになった。
でも、今はもう、悪夢も見ないし、この仕事にも誇りを持っている。天に代わって悪を討っていると心の底から思えているからだ。
「カール部長、お呼びでしょうか」
「ああ、例の依頼をまた頼みたいのだが、今回の対象者は、完全に悪ではない少し特殊なケースなんだ。直接非道を行った外道を殺せばいいと思うかもしれないが、それでは次の外道が生まれるだけ。その人物がいる限り、残虐非道はとまらず、殺さざるをえないという特殊ケースでね。それでも引き受けてもらえるかな」
「ええ、部長がどうしても暗殺する必要があると判断したのであれば、引き受けます。ただし、直ぐには仕事に行けません。明日から、例のダンジョン調査に同行することになっていますので。おそらく二日で終わるとは思いますが、場合によっては一週間以上かかることもありえますので、それでも良いのであれば」
「六日後なら不味いが、五日後の深夜までに執行してもらえるなら、お願いしたい。君に依頼しづらい理由はもう一つあって、今回のターゲットは、君の同郷、勇者ユリなんだよ」
「えっ。彼女は魔王討伐の遠征中じゃなかったんですか」
「魔王四天王の一人に敗れ、大怪我して今は王都病院に入院している。一週間入院するらしく、六日後の朝には王宮に戻り、手出しできなくなる。依頼者は名前を明かせないが、とある大臣で、国王も承認しているらしい。罪状は……」
僕が敬愛し、尊敬する財前由梨が暗殺対象。魔王討伐に失敗した途端、掌を返し、暗殺しようとしてきた。あの日、頭を下げて魔王討伐を頼んできた国王まで、承認している。その事実で、僕の頭の中はパニックになっていた。
話を聞けば、確かに最低だ。勇者一行だという事を笠に着て、ただで飲み食いして豪遊し、村娘を傷物にしたりもしている。妊娠して自殺した娘もいたそうだ。
勇者ユリは飲み食いしただけだが、その非道を注意することなく見逃してきた罪も重い。
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だが、魔人程の悪人ではないし、あの財前由梨が対象なので乗り気がしない。本当なら部長も引き受けなかった筈だが、国王も承認している大臣からの依頼なので、断れなかったに違いない。
話を聞いた以上、断れないが、どうしても嫌だと言えば、部長は諦めてくれるだろう。だが、僕以上の仕事人はいない。依頼失敗となり、部長が責任をとらされる。
引き受けてしまった部長が悪いと割り切ることもできるが、どうしたものか。
「分かりました。先ほども言いましたが、四日で帰還できた場合は、任務遂行しますが、五日以上かかった場合は、この仕事はキャンセルという事にしてください。部長には迷惑を掛けますが、王宮に忍び込むのは、僕のスキルでも流石に無理ですので」
「了解した。その場合は、大臣に頭を下げて断るよ。できるだけ早期に、ダンジョン攻略が終わることを期待している」
頭を下げて済むとは思えないが、命までは取りはしないはずだ。左遷等の処分で済むことを期待している。
僕は、管理局を後にし、自宅にもどったが、もし、四日以内に片が付いてしまった時の事が心配になった。
部長の責任も鑑みて、天に任せると決断したが、この掛けは、僕がかなり不利だと気づいた。
三十一階層を超えると、どうしても一日二階層程度の攻略スピードになるが、慎重に進めようと提案しても、一日一階層。つまり、最深部が三十四階層以上でないと、依頼を引き受けざるを得なくなる。もともとB級ダンジョンなので、それほどの深層まであるとは思えないし、階層ボスを簡単に攻略できた場合は、三十六階層以上でないと、引き受けざるをえなくなる。
つまり、僕が依頼を引き受けざるを得ない確率が極めて高いのだ。
なら、敵前逃走してどこか田舎町で暮らすことも考えたが、無責任極まりないし、悪を野放しにはできない。いっそのこと、正々堂々と戦い、返り討ちに遭えばいいかとも考えてみたが、死にたくはない。
どうしたものかと、頭を抱えることになった。
そして悩んだ挙句、やはりこの仕事をキャンセルにするしかないとの結論になった。
実際にそれだけの時間がかかる深層まで続いていることを期待しているが、早く終わったとしても、パーティーメンバーにお願いして、ダンジョン内で暫く寝泊まりして、時間稼ぎすればいい。
三十二階層しかないのに、そんなに時間がかかったのかと訝しがられても、怪我人が出て、時間がかかったと言い張ればいいだけの話だ。
ただ、マナイクシオンのリーダーのハッサムは、不正が嫌いな男だ。僕の我儘を素直に聞き入れてもらえるとは思えない。彼を説得するには、なにかその代償が必要だ。
なら、僕が身売りすればいい。これ以上のスキル獲得の必要もないし、副業からも足を洗って、マナイクシオンの一員になってしまえばいい。
でも、そうなると、クラン戦争になって。
この際、それもやむなしかと、無責任にそんなことまで考えるまでになっていた。
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エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
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