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第一章 凡庸で悪いか

隠しダンジョン

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 本当に隠し通路なんてあるのかと、そのダンジョンの最下層と思われていた三十階まで潜り、言われていた壁の紋章を押すと、地下へとつながる隠し階段が現れた。
「こんな紋章、見た記憶はないが、まだどこかに隠し扉があるのかもしないな」
「この下はやたらと明るいな」
「真下に魔鉱石があるんだろう」
 魔鉱石は、魔力抽出可能な鉱石だが、青白い光を放っていて、ダンジョン内を照らす役割もしている。照明魔道具も持って来ているが、それを使わずにここまで潜れたのは、ところどころに魔鉱石が露出しているからだ。
「とりあえず、ここからはA級ダンジョンだ。今日はここで、休んで明日の朝から、攻略に進もう」
 リーダーハッサムの慎重な発言で、いまだ敵とは遭遇しておらず、全員体力・魔力全快だが、一泊稼ぐことができた。
 一時間程して、開いていた扉が動き出し、皆が驚いたが、自動開閉する仕組みみたいだ。
 もう一度開けて、階段側から確認したが、やはり紋章があり、中からも開けられた。

 翌朝、その三十一階層の攻略を開始したが、そこは今までのダンジョンとは全く異なっていた。
 魔鉱石の結晶が水晶の様に沢山はえているので、今まで階層より明るいというのもそうだが、魔物が一匹も徘徊していないのだ。しかも、更に地下に続く階段を見つけたが、そこに階層ボスがいない。
「誰か、先に攻略したんじゃないか」
 思わずそんな疑問が口に出たほど不自然だ。
 一応、未踏破階層なので、迷路探索しないとならないが、マナイクシオンには、トラップマスターを持つレオがいるので、迷路探索も三十分程で終わる。
 続く階層も同じで、次々階層深くへと進むことができた。階層はなんと四十階層まで続いていたが、その日のうちに三十九階層まで完全走破してしてまった。
「今日はここまでにしておこう」
 四十階層へ続く階段の前まで戻ると、ハッサムがそう言ってきて、二日目の野営をすることなった。

「階層ボスを倒してないけど、情報提供報酬はもらえるんだよな」
「当然だろう。未踏破階層のマップも調べつくしたんだからな」
「でも、私達、いままで三十六階層までしか経験ないじゃない。三十八階層は、飛んでもないボスがいたという話だし、もし、四十階層にダンジョンボスがいたらどうするの」
「ここまで一度も戦わずにこれたんだ。戦うしかないだろう。ユウスケ、前回のダンジョンの三十七階層と三十八階層のボスはどうだったんだ。教えてくれよ」
 そんな訳で、三十六階層の階層ボスから順に、マナイクシオンの七人に話しててあげた。三十五階層ボスも強いには強かったが、普通のA級ダンジョンの階層ボスとさほど違いはないので、省略した。

 以前にマナイクシオンが倒した三十六階層のボスは、梟の魔物が一匹だったが、先の遠征の階層ボスは、蜂の魔物の軍勢で、僕としては、最も苦しんだ強敵だった。
 巨大な蜂の巣の前に陣取る指揮官の女王蜂は一メートル程の大きさで、動きも鈍いのだが、遠距離攻撃も届かないし、近寄ることができないのだ。二十匹程度の蜂の群れが、無数に存在し、行く手を阻む。一匹は二十センチ程の大きさの上、とても素早く、単体攻撃はあたらないし、無限に毒針攻撃をしてくる。
 火が弱点で、範囲攻撃は利くが、分隊を削っても、巣から次の分隊が無限に湧き出てきて、どうにもならない。
 魔法師のパヒーは、火炎魔法や爆裂魔法を連発して、魔力を大量消費したし、僕もリジェネでは回復が追い付かず、毒消しやヒールを乱発することになって、魔力が底をつきかける。撤退を考えたほどの苦戦だった。
 だが、リーダークリフが、妙案を思いつく。油や可燃物を女王というか巨大な巣目掛けて捲いて、それに火をつけ、女王を攻撃するための火炎の道を作ったのだ。当然、大火傷を負う事になったが、そのお蔭で女王を攻撃できるようになり、巣を焼き払い、指揮官である女王を倒すことに成功。あとは烏合の衆となった蜂の大軍を少しづつ削っていって、倒すことができたが、僕もパヒーも魔力切れ。あと少しでも長引けば、全滅していた。
「確かに数は脅威だよな。火傷覚悟の作戦を思いつく、クリフはやはり流石だ」

 三十七階層ボスは巨大蜘蛛。糸を使って瞬間移動するように攻撃を回避し、粘着液で拘束し、毒の牙で単体大ダメージ攻撃をしてくる。タンク役の戦士ロックが、攻撃を一身に受け、ロックを攻撃してくる隙をついて、攻撃を当て、少しづつ体力を削って行き、比較的簡単に倒せたが、魔力を大量消費するエクストラヒールを何回も掛け続けて、僕はやはり魔力枯渇。最後はロックが瀕死状態に陥る事態になって、これまた紙一重の勝利だった。
「俊敏性を殺されると、ダメージをくらいまくるからな。ロックは化け物的体力があるから何とかなったが、俺なら、死んでいたかもしれないな」

 そして、三十八階層は守備力が化け物級の巨大竜。逆鱗の弱点を突いて倒すことができたが、危機的状態になるまで、火炎ブレスを隠していた。
「そんな必殺技を隠して、終盤に繰り出してくるのかよ。深層になると、強いだけでなく、頭も賢くなるのか」
「話をきくと、この辺で引き上げた方が良い気がしてきた。四十階層にボスがいたら、全滅しかねないもの」
「たしかに、四十階層もボスがいないとしても、一旦引き上げて、報告した方がよさそうだな」
 正直に話したら、皆、気落ちして弱気になり、ボスが居ても居なくても、明日、クリフトに戻ることになってしまった。
 最悪な展開だが、僕は明日帰還するとなったら、マナイクシオンに加入するから、あと三日間、ここのダンジョンで野営してほしいと言おうと決めていた。


 明朝、四十階層へと降りたが、今までの階層と打って変わってそこは暗く、照明魔道具をつかわないと先が見えない世界だった。しかも、照明をともすと、そこは迷路ではなく、広大な墓地だった。四十一階層に繋がる階段もない。
「なんだ。隠し通路は魔人たちの墓地を隠していただけかよ。さっさと帰ろうぜ」
 シーフでナイフ使いのレオがそう言った時、「しっ」と副長で格闘家のマウロが緊張を促した。
 程なく、墓地から骸骨の手が現れ、そこかしこから、骸骨男が這い出して来た。
「アンデッドの大軍か。ルナとユウスケを中心に、マウロ以外は円陣を組んで迎え撃つ。アティカスは魔法攻撃で弱点属性を探せ、レオは拘束スキル」
 リーダーでナイトのハッサム、剣士アイラ、魔剣士ティナは、剣を構え、ティナは杖を、レオはナイフを抜いて身構える。
 ルナは各人に肉体強化魔法を掛けていき、僕はリジェネを掛けていく。副長でモンクのマウロは、円陣に入らず、勝手に骸骨に飛び込んで、蹴ったり殴ったりしていくが、いつものことだ。
「氷で動きを止められるし、炎系なら、時間は掛かるけど、塵と化すことも可能。ボス、どうする」
「アティカスさん、光魔法も試してください。アンデッドは光に弱い筈ですから」
 僕はついアドバイスしてしまった。
「光魔法は苦手なんだけど……。あっ、本当。一瞬で塵にできたわ」
「よし、これで攻略方針が決まった。アティカス中心に鶴翼の陣形に変更。倒した敵をアティカスの前に集めろ」
 リーダーハッサムの的確な指示により、一回の光魔法で効率よく、スケルトンを塵にすることができ、スケルトンの軍勢も半分以下にまで減って行った。
 だが、次の瞬間、要のアティカスが「ぎゃあ」と絶叫して、血飛沫が飛び、杖をもつ右腕が地面に転がった。
 ヒールで止血はできるが、腕を繋ぐのは短時間では困難だ。腕を付けるには病院にいくしかない。
「何をされた。ボスがいるのか」
「一瞬、巨大な鎌が見えた」 動体視力がずば抜けているレオには見えたらしい。
「不可視スキルか。マウロ、敵の気配は」
「ユウスケと同じで、隠密スキルで気配まで消している。だが足元は土だ。地面を注意していれば、近接してくるのを気づけるはずだ」
 不可視スキルを持つボスには、ペンキ等で着色して可視化するしかないが、今回はそんなものを持って来ていない。

 その間も、スケルトンは襲ってきて、ルナがスケルトンに首を噛まれてしまった。アイラがスケルトンの首を切って助けたが、頸動脈を噛み切れたのか、指の隙間から血が脈打つ様に噴き出している。
「私は大丈夫。皆は足元に気を付けて」
 その言葉に応えるように、アティカスも左手で、杖を拾って、魔法を唱え、スケルトンを減らしていく。
 アティカスの出血は止めることができたが、ルナの出血はなかなか治まらない。
 このままでは出血多量で意識を失うのも時間の問題だ。

「危ない」
 レオがアティカスを突き飛ばしたて助けたが、今度はレオが袈裟切りされた状態になり、瀕死になった。
 アイラの止血すら未だなのに、今度はレオ。しかも、肺にまで到達する深い傷なので、止血すら不可能だ。
「空中に浮遊してるのか。ティナ。全体に水飛沫を巻いてくれ。見つけ次第、全員攻撃」
 的確な指示のお蔭で、巨大な武器を抱えた一・五メートル程の影をとらえることができたが、切りかかった剣は空をきる。
 屈折率の違いで、朧気にとらえることができてはいたが、不可視スキルではなく、幽霊そのもので実態がなかったのだ。
 そして、その幽霊は、今度はティナに切りかかる。必死に交わしたが、右手をざっくりと切られ、魔剣を落としてしてしまい、再び、幽霊は姿を消すことになった。
「さっき、一瞬、雨粒があいつの身体を弾きました。攻撃の瞬間、実態化するみたいです」
 呼吸も困難で、意識を保つことすら至難な重傷なのに、レオはその目で、幽霊を負い続けていた。
「その瞬間を仕留めろというのか。そんなのは無理だ。撤退……」
 次の瞬間、ハッサムの首が飛んだ。
「ボス~~! 畜生、撤退だ。この場から速やかに離脱する」
「ハッサムの遺体は」
「諦めろ、全員殺されるぞ」
 ハッサムの遺体どころか、アティカスの右腕を拾う時間もなく、僕たち七人は必死に逃げだ。マウロが重傷のレオを背負い、アイラが貧血状態のルナに肩を貸し、アティカスとティナは自力で走り、僕が四人の治療をしながら、三十九階層に逃げ帰った。
 リーダーハッサムが死亡し、レオ、ルナが重傷。アティカスは右腕を失い、ティナも深い傷を負うという最悪な結果になった。
 一刻も早く帰還して、病院で治療しなければならない事態で、僕はこの場で時間を潰すなど言い出せる状態ではなかった。

 幸い、僕の必死の治療により、レオは一命をとりとめ、死亡者はハッサム一名で済んだが、それでもカール部長は冷酷だった。
「今回は散々な目に遭ったみたいだが、三日で戻って来てくれて俺の首が飛ばずに助かったよ。仕事に向かってくれ。頼んだぞ」
 部長は鬼だ。もう二度と裏の仕事はしない。そう決心して、僕は王都へと向かうのだった。

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