凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造

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第四章 魔王討伐が終わった後は

哀れな勇者ユリ

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 ラクニス駅に着くと、急いで王城に行き、ユリに面会させて欲しいと申し出たが、衛兵はそんなものはいないと、門前払いしてきた。
「元勇者のユリだぞ。ミハエル殿下の婚約者として、この王城内にいる筈だ。まさか、牢獄にでもいれたりしていないよな」
「ああ、先日まで、地下牢にいたが、昨晩、解放されて出て行ったよ。めしいの一文無しの女なんて、娼婦くらいしかできない筈だから、娼館にでもいってみるんだな」
「貴様」 僕は思わず、衛兵の胸倉をつかんでしまった。
「この野郎。元勇者一行だと思って、付け上がるなよ」
 僕は後ろから、もう一人の衛兵に殴られ、その後、ボコボコに二人に殴られたり、蹴られたりされ続けた。剣は持っていなくても、素手でもこいつらごときにやられる僕ではないが、感情に流され、喧嘩を吹っ掛けてしまった代償として、大人しく殴られ続けることにした。

「何をしている」 名前は知らないが、魔王討伐隊に一緒に参加していた騎士が正門横から現れた。
 彼は、二人に暴力を止めさせ、謝罪して王宮内に案内してくれた。
 ユリについて聞いてみたが、やはりもうこの王城内にはいないという話で、詳細はアーロンに聞けと、僕を国王親衛隊の所にまで案内してくれた。

「ユウスケ、その顔、どうした」
「ちょっと、衛兵がユリが娼婦になっているなんていうから、喧嘩になって……。それより、このひと月でいろいろとあったみたいだが、何があったのか教えてくれないか」
「ここでは、不味い」
 アーロンは隊長に席を外す許可を取り付けて、僕を人気のない所に連れて行き、話をしてくれた。

 二週間程前、リムナント第一王子が公務で外出した際、野盗の集団に襲われる事件があったのだそう。かなりの腕利きの集団だったらしく、第一王子親衛隊の半数が殺され、リムナントも軽傷を負った。その治療の際に、覚醒剤に類似した薬物を常用していたことが発覚する。国王代理として、激務に耐えられず、薬物中毒になっていた。その薬物を提供していたのが、第三王子のミハエルだった。
 だが、ミハエルは覚醒剤だとは知らず、疲労回復薬だと信じて、渡していたと白を切り通し、王妃の知り合いだという男が接触してきて、定期的に薬物を提供してくれていたと嘘をついた。
 王妃は国王暗殺事件で、頭がおかしくなり、何も判断できなくなっているのをいいことに、そんな調べようのない嘘をついたのだ。
 だが、ミハエルが覚醒剤と知っていて、リムナントを廃人にしようとした証拠はない。証拠もないまま王子をこれ以上拘束することはできないとなり、無罪放免となった。
 そこで、ユリはアーロンの反対を押し切り、婚約者の立場を使ってミハエルが犯人である証拠を探る決意をする。

 その甲斐あって、ミハエルの左腕や太ももに無数の注射痕があることを突き止め、ミハエルがリムナント襲撃に関与していたという自供を引き出すことに成功した。
 ただ、ミハエルの話では、リムナント襲撃を依頼するためのお金を用立てただけらしい。禁断症状が出ていて、つい薬欲しさにお金を渡した。
 薬物も、危険な薬とは知らず、本当に眠気防止・疲労回復の薬だと信じて、自分でも常用していたという話だった。
 だから、ユリとしてはミハエルを罪人にしたくなく、騙されただけの可哀そうな人と判断し、これからどうしたらいいかをアーロンに相談に来た。
 ユリはミハエルを愛してしまっていると分かったが、リムナント王子暗殺を直接画策したわけでないとしても、その依頼料を支払ったという事は暗殺指示をだしたのと同罪だと強く言い、ロレンス第二王子に報告すべきだと説得したのだそう。
 その直後に国王が危篤になり、アーロンも忙しくなり、それからの事は知らないらしいが、同僚のミロから聞いた話だがと注釈をつけて、その後の事も教えてくれた。
 ユリは陛下の国葬が終わった後、ロレンスに直訴したが、ロレンスはユリが黒幕で、薬物提供者だと言いがかりをつけ、ミハエルのみならずユリまで幽閉されることになったのだそう。
 ただ、勇者ユリに恩がある人々が、必死にユリの無罪を主張したことで、ユリだけは軟禁で済んだらしい。
 だが、ロレンスが国王になると、ユリへの扱いが一変する。ユリを地下牢に移し、自供を強要し、拷問までした。
 ユリを庇ってきた人達も、国王の命令には逆らえない。そんな中、ミロだけは反旗を翻し、一人でユリを脱獄させようとした。だが多勢に無勢。いくら天才の剣聖候補であっても、どうにもならず、片腕を切り落とされて捕まり、反逆罪で地下牢に幽閉されてしまった。明日処刑することになっているのだとか。

 そして、昨晩、ユリを釈放する際、アーロンも立ち会って同行したらしいが、その時のユリの姿は無残の一言。頬がやつれ、青痣もあり、生気を失って廃人の様になっていた。しかも、下着すら着用していない奴隷服の様な囚人服を着せられたままの状態で、王城から放り出されたのだとか。
 その際、気配感知も使えなくなったのか、まともに歩く事すらできなず、転んでばかりいたのだとか。

「なんで、お前は、そんなになるまで何もしなかった」
「すまん。そんなことになっていると知っていれば、ミロと共に戦ったし、脱獄させようとしていたさ。だが、ロレンスの命令でダンジョン攻略に行かされてたんだ。戻って来た時には、もうユリの釈放は決まっていた」
「ごめん。言い過ぎた。今はロレンスが国王だったんだものな。でも、気配感知が使えないってどういうことだ。この城にもスキル無効結界を導入したのか」
「分からん。最初は衰弱しているからかとも思ったが、あの時のユリは明らかに人の動きを感知できていなかった。服の裾を捲り上げれるまで気づかなかったり、足を引っかけられて転ばされて嘲笑されりして、全盲状態だった。魔王に両目を奪われたのが致命的になった」
 彼女を辱めて遊んだロレンスの親衛隊員に猛烈に腹が立ったが、そんな状態のまま、恥ずかしい恰好で城下に放り出されたなんて、可哀そうでならない。

 その後、僕は城下町にでて、勇者ユリを見なかったかと聞きまわったが、目撃者はいないかった。念のため花街の娼館も見て回ったが、やはりいない。釈放は昨晩の夜九時だったという話なので、王城周辺にほとんど人がいなかったとしても、誰も目撃していないのはおかしい。
 考えてみれば顔も腫れていて、勇者らしからぬ格好にされていたので、勇者ユリだと気づかなかった可能性もある。
 そこで、今度は盲目の奴隷女を見なかったかと聞いて回った。
 すると、王城からさほど離れていない商店の店員が、公園の方にふらふら歩いてくのを見ていた。
 その公園で聞きまわっていると、「ああ、盲目かは知らないが、犬の散歩中に、男達に囲まれて悪戯されていた奴隷女がいたな」と言ってきた。
 さらに話を聞くと、その男がもっと近くで見ようと犬を引っ張っていると、貴族の車の様なものが近づいきて、執事らしき紳士とボディーガードの様な厳つい男が降りてきたのだそう。その二人は、男達を次々と伸して、女はその二人にお持ちか入りされたという話だった。
 
 貴族の所に連れていかれたのなら、もう僕にはどうにもできない。その貴族は、きっといい人で、ユリが釈放されたことを耳にして、勇者を自宅に招こうと探しにきていて、彼女を助け出したに違いない。今頃は、勇者として大切に匿ってくれて貰えている筈だ。
 僕は、自分にそう言い聞かせて、その日は、宿屋で一泊したが、ユリがこの一週間、どんな目に遭ってきたのかを想像してしまい、ほとんど眠ることができなかった。
 ユリは既にミハエルの者になってしまったが、僕が彼女をトラウマを忘れさせ、ユリの夫になって、彼女を幸せにするんだと、強く決意する切っ掛けにもなった。

 翌日、僕はもう一度、アーロンとの面会を求めて王城に顔を出し、昨日入手した情報をアーロンに伝え、ユリの情報を何か掴んだらすぐに連絡して欲しいと頼んで、リットの医院に戻ることにした。


 それから一か月程が経った頃、リットの街に、勇者ユリの噂が流れて来た。両目とも失明していて、嘗ての勇者の面影は皆無で、セックス好きのビッチとなって、セックス三昧のふしだらな生活を送っているという噂だ。
 クリフトに顔を出した際にも、そんな噂話を耳にしたが、ラクニスの大衆食堂で食事をしいてると、隣で酒を飲んでいた男が「俺の知り合いが例のユリとしまくったんだってさ」と話し始めた。
 三か月前には、皆が感謝して敬っていたのに、どうしてこんな酷い噂を立てられなければならい。
「五人を同時に相手して、すさまじかったらしい。何度も何度も行き捲ったって話だ。元勇者だけあって、底なしの体力らしいぜ」
「デマを吹聴してまわるな」 僕は我慢できなくなって、そいつの首根っこを掴んでいた。
「なんだ、やるのか……。あっ、お前。すみません。でも、デマじゃないです。ユリと一緒に投獄されていた男から聞いた本当の話です」
 僕が勇者一行のひとりと気づき、怯えながら反論してきた。
「確かにあらぬ罪を着せられて、ユリは一週間投獄されたが、男女が一緒に投獄されるわけがないだろう」
「確かにそうだ。あいつ、嘘つきやがったな」
 この男はもう吹聴することはないと思うが、情報源の男まではどうしようもない。

 僕は、再び席について食事の続きを取ったが、地下牢で過ごしていた時のユリの事を考えてしまった。
 噂の出所は、一緒に投獄されていた囚人だったが、火のない所に煙は立たぬという格言もある。
 全盲であっても、ユリは強いので、好きでもない男に抱かれる事は絶対にない。万一、男女一緒に投獄されていたとしても、その点は心配ない。だが、自白を誘う拷問をしたという事は、ユリは拘束されていたという事だ。流石のユリでもそんな状態ではどうにもならない。考えたくないが、看守に悪戯された可能性はあるということだ。そうだとすると、ユリは自殺してしまったのではないかと、不安でならなくなっていた。

 だが僕に、噂を食い止める術はない。民衆の話題が他に移るのを待つしかできなかった。
 噂はなかなか消えてはくれなかったが、それでも人は熱しやすく冷めやすい。ひと月もすると、ユリの噂は全く聞かなくなった。でも、それはほとんどの人が、ユリは昔様な英雄ではなく、全盲の只の女だと知ってしまったということでもある。そうなれば、勇者ユリを匿っていた貴族も、うま味がなくなる。そうなったらユリは……。
 僕は再び、ユリの事が心配でならなくなった。

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