凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造

文字の大きさ
37 / 43
第四章 魔王討伐が終わった後は

ユリの消息

しおりを挟む
 アーロンから何も連絡がないまま、二年が過ぎ、僕も彼女の事を考えなくなっていた。
 勿論、ローリエと進展があったからではない。ローリエには酷な事をしたとは思っているが、僕からは一切何もせず、彼女が管理局に戻ったのを切っ掛けに、自然消滅した形になった。
 彼女は、それとなくアプローチをしてきて、可哀そうに思ったが、僕はもうユリを妻にすると決めている。こんなに連絡がないと、本当に人里離れた場所で自殺している事も考えられるが、その時は一生独身でも構わないとすら思っている。

 ユリの事を考えなくなった理由は、国内情勢がとんでもなく悪化し、混沌を極め、怪我人が押しかけてきて、とんでもなく忙しいからだ。
 ユリが危惧したような戦争が勃発したわけではないが、国王がダンジョン攻略隊を派遣しなくなったので、ダンジョンから魔物があふれ出て、魔物被害が多発しているのだ。
 今まで、各都市の管理局が自主的におこなっていたダンジョン攻略ですら、報奨金の無駄遣いだと禁止したのだ。その所為で、戦争が起きているかのように、全国各地で、魔物被害による怪我人があふれている。
 このリットでも、魔物に襲われた怪我人で満床状態になったほどだ。それでも重傷者を放置する訳にも行かず、ユウスケ医院や管理局の会議室を一時的に緊急病室にして何とか対応した。
 仕方なく、忙しい合間を見て、僕が単独でダンジョン攻略に出かけ、無償で地下五層くらいまで、定期的に攻略するを繰り返しているが、リット周辺のダンジョンが五つに増えたこともあり、魔物被害はなくならず、病院はほぼ満床状態が未だに続いている。
 税率を二倍に引き上げたんだから、その位は国の政策として、何とかしてもらいたいものだ。

 因みに、一年前に開業したリット病院は、王都ラクニス病院やクラウス病院からも、医師をひとりづつ回してもらい、医師三人、看護士八人とそれなりに対応できる体制となっている。それでも、過労死しかねないほどに忙しく、人手不足な状態だ。
 怪我人増加だけではない。無痛分娩の噂が広がり、リット内の妊婦が大勢押し寄せるようになり、王都病院ですらお手上げな病気も治せると、治療困難とされた患者が、プルキナス王国中から、押し寄せてきているからだ。
 お蔭で、鉄道もリットまで伸ばす事が決定し、現在工事中だ。
 過疎化も止まり人口も増加傾向に転じたのだそうで、リット管理局は、医療都市として売り込もうと躍起になっている。

 そんなある日、ローラが僕に面会にやってきた。
「ローラ。久しぶり。一体、こんな辺境になんできたの」
「今、王都や大都市は、ロレンス国王の横暴で大変な状態でしょう。ここはまだ国家の力が及んでいないから、この地区に魔法学校の分校を作ろうという話があるのよ。その視察で来ていて、ついでに立ち寄ったという訳」
「僕なんかの顔を見に来てくれたなんて、嬉しいな。ローラは僕のこと、嫌っていると思ってたから」
「大嫌いよ。本当は、ここには来ないで帰ろうと思ってた。でも、管理局でユウスケが、医学校を設立しようと聞いたから」
 医師不足の対策として、この病院でも、クラウス病院を真似て、医師速成コースを設けているのだが、治癒能力適正をもつ者があまりに少ない。そこで、治癒能力が皆無でも医師になってもらうための医学専門学校を設立しようと考えたというわけだ。
「医学部と魔法学部とを一つの敷地に置いて出費をケチろうって魂胆か」
「そうだけど、医学部、魔法学部、経済学部、ついでに、芸能学部や、武術学部等まで作るってどう。ユリから聞いたんだけど、異世界の大学は専門学校よりも、いろんな学部が混在する総合大学が多いんでしょう」
 確かに悪くない。魔法適正をもつ者には、治癒適正をもつ者もいるので、ヒールが使える医師を増やす足掛かりにもなる気がする。
「その話、乗ってもいいが、いきなりの総合大学にするには、教員の人材集め等にも苦労する。とりあえず、二学部体制で徐々に学部を増やしていくという話で進めないか」
「その辺が現実的ね。それで進めましょうか。王都にも寄る予定だから、ユリにもユウスケが元気にしてたと伝えておくね」
「お前、ユリがどこに居るのか知っているのか」
「えっ、ミハエル公の婚約者として王城にいるんじゃないの」
 何も知らなかったので、教えてあげたら、驚いていた。噂は彼女も知っていたが、ミハエル公と仲睦まじく、セックス三昧の日々を送っているのだと信じ切っていたらしい。
「気配感知スキルが無くなるなんて、あり得ない。一体、彼女に何をしたというの。考えていても、仕方がないから、直接、ユリから聞くしかないわね」
「直接って、住所もわからないんだぞ」
「私を誰だと思っているの。賢者ローラよ。ラクニスにいるのなら、私の探索魔法で見つけ出すだけよ」
「僕も一緒に行ってもいいかな。ラクニス病院やクリフト病院に行くついでがあるから」
「しかたないわね。もう勇者一行じゃないから、ユウスケと一緒に行動するのは正直嫌だけど、突き合わせてあげるわ」
 本当は仲良しなのに、性格が悪いのは相変わらずだ。

 たった二人の旅だったが、リッチに個室車両に乗って、王都に向かうことになり、勇者一行の旅を振り返ったり、互いの近況報告を話したりして過ごしたが、その際、フレイアの話も聞いた。ローラのいる都市に、フレイア達がコンサートツアーに来て、再会したのだとか。その歌声はすっかり昔に戻り、声に魔力が戻っていたと教えてくれた。あの時は、もう一生昔の歌声には戻らないと思ってしまっていたが、声帯が少しづつ本来の声帯に戻って行ったみたいだ。本当によかった。
 しかも、フレイアのマネージャーの彼氏と交際中なんだとか。男装を止めたんだと言うと、何も知らないのねと呆れられた。
 彼女は、そもそも、芸能活動を始めた時はショートカットの女性歌手としてデビューしていて、今はプルキナスの歌姫として全国に名をとどろかす有名人なんだとか。彼女の芸能プロダクションもかなり繁盛していて、男性アイドルグループ一つと、二つの女性アイドルグループを抱える敏腕社長になっていた。
 もともと、全ての才能に秀でた天才児だったので、当然なのかもしれないが、大したものだと感心した。

 因みに、ローラに彼氏の話を聞くと、思いっきり叩かれた。元居た世界ならセクハラ発言になり、この世界でも親しくないと聞けない話だが、そんな事もフランクに話せる間柄で、本当にローラとは仲好なのだ。

 ラクニスに着くと、早速探索を開始したが、探索範囲が半径一キロと狭いので、探すのも大変だ。移動しては違うを繰り返し、一日掛けて、漸く彼女を感知した。貴族の屋敷周辺は全て空振りだったので、感知したと聞いた時は、ユリはちゃんと生きていてくれたと嬉しくてならなかった。
 そこからはどんどん場所を絞り込んでいき、とある豪邸を見つけ出した。貴族のお屋敷とは違い、豪商等の金持ちの平民が住んでいる感じの豪邸だ。
 表札もないので、誰の家かは分からなかったが、呼び鈴らしきものがあるので、押してみた。
 すると、豪邸から、執事らしきものが出てきて、こっちにやってきた。
「ここに、勇者ユリが居るはずなんだけど……」
「お待ちしておりました。勇者ユウスケ様と、賢者ローラ様ですね。ご案内いたします」
 その執事は、僕たちの事を知っていた。「ここは誰のお邸宅なんですか」と尋ねると、ミッシェル国防大臣の邸宅だった。彼は今仕事で外出中との話だったが、ユリを探しにきてくれたのはミッシェルだったのかと安心した。

 応接間に案内され、美味しい紅茶を飲んで待っていると、ドレスで着飾ったユリが現れた。でも、普通の杖を白杖の様に使いながら、足元の段を確認し、部屋に入ってきた。
「ユリ、本当に気配感知が使えなくなったの?」
「誰かと思ったら、ローラだったの。この場所がよく分かったね」
 声の方にすたすたと歩み寄るが、本当に僕の気配を感じないのか、僕が居る事にも気づいていない。
「ロレンス国王が、密かに、『神との絶縁』という秘術を召喚士達に開発させていたの。その秘術の魔法で、召喚の際に、神から与えられたものは全てが消えちゃった。スキルも称号も全て奪われ、今の私は盲目の只の女」
「何も知らなくてごめんなさい。辛いことが一杯あったでしょう」
「誰かいるの」 僕が立ち上がって近づこうとした時、ユリは僕の方に顔を向けた。
「もしかして、ユウスケ?」
「ああ、王城から酷い恰好で追い出されたと聞いて、ずっと探していたんだ」
 ユリは急に暗い顔をして、逃げ出そうとして、躓いて転んでしまった。
「大丈夫か」 僕はあわてて、彼女を抱きかかえたが、失言したと深く反省した。
「ローラ、魔法なら賢者の知識で、スキルを戻すことはできないか」
「召喚士達が使う秘術は、正教会内の秘伝から作られた呪いに近いものだから、残念ながら私には無理。呪いならまだ解除できる可能性もあるけど、召喚術の様に、実行すると二度と戻せないものも多いから、もう一生スキルは戻らないと覚悟した方がいいわ」
 それじゃ、余りにユリが可哀そうだ。僕にできることは何かないのか。
「ユリ、好きだ。僕と結婚してほしい」
 僕は女の子座りしたままのユリを抱きしめた。
「遅いよ。なんであの時、言ってくれなかったの。ユウスケがキスしてくれたら、婚約なんかしなかったのに」
「御免、良かれと思って我慢したけど、酷い目にあわせてしまったね」
「もう、私の身体は汚れきってるの。あなたのお嫁さんにはふさわしくない」
「あぁあ、情けない。スキルもない盲の女になっただけで、ここまで情けなくなるかな。ずっと好きだったんでしょう。好きなら、大人しく抱かれればいいの。こんな情けない女と旅をしていたと思うと、自分が嫌になる」
「御免なさい。ローラの言う通りね。ユウスケが結婚しようなんて言い出すから、取り乱しちゃった」
 ユリは、そう言って立ち上がり、笑顔になった。
 なんか、僕が悪者になったみたいだが、ユリが元気になったので、まあいいか。

「二人に話しておきたいことがあるの。話というかお願いかな」
 そう言いながら、応接室のソファーに手探りしながら腰かけた。
「ユウスケの申し出は嬉しいけど、私はやはり結婚はできない。やらなけばならないことがあるの」
 そう言って、話しはじめたが、ユリは、勇者の称号を失っても、やはり勇者だった。
 この悪政に苦しむ民を救うため、クーデターを計画していたのだ。アーロンにも既に接触していて、同志を募ってもらっているのだとか。アーロンが僕に連絡しなかったのは、ユリが頼んだからで、ローラや、フレイアには、そのうち協力してもらうつもりでいたが、僕だけはのけ者にして、革命を起こすつもりだったらしい。
「もう、ユウスケにもバレちゃったから、一緒の仲間として協力してもらうことにするけど、フレイアとブリッドにも協力要請して欲しいの」
「ブリットって、トルスタン合衆国の? 無理だよ。どこにいるかもわからないし」
「住所ならわかってる。王宮にいた時に、手紙を貰ったらから。リットからなら、魔界ゲートをくぐって、トルスタンに行けるでしょう。忙しいのは分かってるけど、手伝って」
 
 我儘な女だが、無謀とも思えることに果敢にチャレンジするのが、僕の大好きなユリだ。
「分かった。なんとか、ブリッドを探し出して、協力を取り付けてみるよ」
「じゃあ、私はフレイアを見つけ出して、協力を取り付ける」
「決行日は未定だけど、一か月後位を考えているから、なるはやで」
 僕はもう少し、ユリと話して居たかったが、その場を後にし、ラクニス病院にもう一人医師を融通してもらえないかと、交渉に行くことにした。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...