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第五話
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駅を出発してから数分間、後ろから泰希がついてくる菜かで俺と夕希さんは何の会話もなくただひたすらに歩いていた。夕希さんの結婚と同時に諦めた恋だったとはいえ、小学生の頃から好きだった相手と一緒に歩いているというだけでも胸が一杯になっていて、呼吸をする音にすら気を付けようと思ってしまっていたため、こういう時に何を話したら良いのだろうと考えてしまったのだ。
泰希とだったら何も考えずに馬鹿話が出来るし、適当な事を言い合いながら笑っていられるけれど、これまで一緒に歩く機会すら少なかった夕希さん相手だとやはり色々勝手が違うし、やっぱり泰希が言うデートという言い方がより俺の緊張を強いものにしていた。けれど、何も話さない方がむしろ失礼で、俺が楽しめていないと夕希さんに感じさせてしまうと思い、俺は声が震えないように気を付けながらどうにか口を開いた。
「ところでなんですけど、夕希さんは……こっちの方に来た時はどういう店に行く事が多いですか?」
「私? そうだなあ……色々な服屋さんに行く事もあるし、CDショップに行く事もあるし、カフェでのんびりする事もあればカラオケでストレス発散する事もあるかな。そう言うしば君は?」
「俺は……どこかの店に入るよりもここから離れたところにある神社とか城跡公園に行く事が多いですね」
「神社って……ああ、毎年初詣の時に行くとこだね。あんなとこまで普通に歩くなんてスゴいけど、そんなに歩いて疲れないの? 足とか痛くならない?」
「シューズにも気を遣ってるからか足が痛くなる事はないですし、心地よい疲れを感じるような結構良い運動になります。それに、あそこの雰囲気というか空気が好きなのでたまに行きたくなるんです。城跡公園なら散策しながら川の流れをのんびり眺めますし、神社ならあのピンと引き締まった空気を味わいながらお参りをしてますしね」
「そうなんだね。でも、神社やお城の跡の雰囲気が好きな高校生ってなんだかおじさんみたい。ねえねえ、しば君って早朝に目が覚めた時、時間があるから散歩に行きたくなるタイプでしょ?」
「そうですね。二度寝しても良いんですけど、なんだかそれだと時間がもったいないと思っちゃってつい歩いたりランニングしたりしちゃうんですよね。流石に平日は軽めにしますし、しっかりとやるのは土日祝日くらいですけど」
それを聞いて夕希さんはキョトンとしてからおかしそうに笑い始めた。
「あははっ、それだとおじさんどころかおじいちゃんみたい! ふふっ、しば君面白すぎだよ!」
「そうですかね……泰希、お前はどう思う?」
「まあ……前から思ってたけど、お前って結構嗜好が若者よりは老人寄りかなって気はしてた。その年でも縁側に座って猫を隣で眠らせながらお茶飲んでても違和感なく見られるし、甚兵衛とか浴衣とか着てる方がなんだか似合う気がするし。それに、結構好きな色も落ち着いた色の方が多いだろ? 小豆色とか深緑色とか」
「んー……たしかにそうだな。パステルカラーとかビビットカラーは嫌いとまではいかないけど、なんか落ち着かないんだよな。眩しすぎるみたいな感じで」
「ぷっ……あははっ! それだとますますおじいちゃんみたい! これからはしば君じゃなくてしばおじいちゃんって呼ぼうかな?」
夕希さんが涙が出るほどに笑う。これがそんなにおかしいかと思ったが、夕希さんが楽しそうにしているし、笑いのツボは人それぞれなのでそれはそれで良いかと思った。そうしてしばらくケラケラと笑った後、笑いすぎで出た涙を指で拭いながら夕希はにこりと笑った。
「それならせっかくだからあの神社まで行ってみようか。ここからだと距離はそこそこあるけどね」
「え、でも良いんですか? 俺が言うのもあれですけど、デートとかであんまり行くところでもないんじゃ……」
「良いんだよ、それでも。これも良い機会だし、距離もあるからしば君が言うように良い運動になるしね。それに、初詣以外で行く機会もなかったから、普段はどんな感じなのか興味あるし、せっかくだし見に行ってみたいかな」
「わかりました。けど、疲れた時には隠さずにちゃんと言ってくださいね? その時にはしっかりと休める場所を探しますし、なんなら背負いますから」
「うん、ありがとうね。しば君」
夕希さんがにこりと笑うと、その姿を見て泰希はニヤニヤ笑いながら肘で俺の事をつつき始めた。
「へへ、カッコいい事言うじゃんか。なあ、大和?」
「うっさいな……別にこのくらいは当然だろ? 疲れてる人を放置するなんて出来ないしさ」
「ははっ、まあな。それじゃあ遅くならない内に行こうぜ。本当に距離だけは結構あるし、そこ以外にも色々なところを見に行きたいしさ」
その言葉に頷いた後、俺達は件の神社に向かって歩き始めたが、夕希さんの表情はさっきよりも確実に和らいでいたため、俺はそれを見て安心した。
「少しは気晴らしになってるみたいだな。でも、せっかくならもっとしっかり気張らしになる何かがあればいいけど……」
何がいいかと思いながら俺は秋田姉弟と一緒に神社に向けて歩き続けた。
泰希とだったら何も考えずに馬鹿話が出来るし、適当な事を言い合いながら笑っていられるけれど、これまで一緒に歩く機会すら少なかった夕希さん相手だとやはり色々勝手が違うし、やっぱり泰希が言うデートという言い方がより俺の緊張を強いものにしていた。けれど、何も話さない方がむしろ失礼で、俺が楽しめていないと夕希さんに感じさせてしまうと思い、俺は声が震えないように気を付けながらどうにか口を開いた。
「ところでなんですけど、夕希さんは……こっちの方に来た時はどういう店に行く事が多いですか?」
「私? そうだなあ……色々な服屋さんに行く事もあるし、CDショップに行く事もあるし、カフェでのんびりする事もあればカラオケでストレス発散する事もあるかな。そう言うしば君は?」
「俺は……どこかの店に入るよりもここから離れたところにある神社とか城跡公園に行く事が多いですね」
「神社って……ああ、毎年初詣の時に行くとこだね。あんなとこまで普通に歩くなんてスゴいけど、そんなに歩いて疲れないの? 足とか痛くならない?」
「シューズにも気を遣ってるからか足が痛くなる事はないですし、心地よい疲れを感じるような結構良い運動になります。それに、あそこの雰囲気というか空気が好きなのでたまに行きたくなるんです。城跡公園なら散策しながら川の流れをのんびり眺めますし、神社ならあのピンと引き締まった空気を味わいながらお参りをしてますしね」
「そうなんだね。でも、神社やお城の跡の雰囲気が好きな高校生ってなんだかおじさんみたい。ねえねえ、しば君って早朝に目が覚めた時、時間があるから散歩に行きたくなるタイプでしょ?」
「そうですね。二度寝しても良いんですけど、なんだかそれだと時間がもったいないと思っちゃってつい歩いたりランニングしたりしちゃうんですよね。流石に平日は軽めにしますし、しっかりとやるのは土日祝日くらいですけど」
それを聞いて夕希さんはキョトンとしてからおかしそうに笑い始めた。
「あははっ、それだとおじさんどころかおじいちゃんみたい! ふふっ、しば君面白すぎだよ!」
「そうですかね……泰希、お前はどう思う?」
「まあ……前から思ってたけど、お前って結構嗜好が若者よりは老人寄りかなって気はしてた。その年でも縁側に座って猫を隣で眠らせながらお茶飲んでても違和感なく見られるし、甚兵衛とか浴衣とか着てる方がなんだか似合う気がするし。それに、結構好きな色も落ち着いた色の方が多いだろ? 小豆色とか深緑色とか」
「んー……たしかにそうだな。パステルカラーとかビビットカラーは嫌いとまではいかないけど、なんか落ち着かないんだよな。眩しすぎるみたいな感じで」
「ぷっ……あははっ! それだとますますおじいちゃんみたい! これからはしば君じゃなくてしばおじいちゃんって呼ぼうかな?」
夕希さんが涙が出るほどに笑う。これがそんなにおかしいかと思ったが、夕希さんが楽しそうにしているし、笑いのツボは人それぞれなのでそれはそれで良いかと思った。そうしてしばらくケラケラと笑った後、笑いすぎで出た涙を指で拭いながら夕希はにこりと笑った。
「それならせっかくだからあの神社まで行ってみようか。ここからだと距離はそこそこあるけどね」
「え、でも良いんですか? 俺が言うのもあれですけど、デートとかであんまり行くところでもないんじゃ……」
「良いんだよ、それでも。これも良い機会だし、距離もあるからしば君が言うように良い運動になるしね。それに、初詣以外で行く機会もなかったから、普段はどんな感じなのか興味あるし、せっかくだし見に行ってみたいかな」
「わかりました。けど、疲れた時には隠さずにちゃんと言ってくださいね? その時にはしっかりと休める場所を探しますし、なんなら背負いますから」
「うん、ありがとうね。しば君」
夕希さんがにこりと笑うと、その姿を見て泰希はニヤニヤ笑いながら肘で俺の事をつつき始めた。
「へへ、カッコいい事言うじゃんか。なあ、大和?」
「うっさいな……別にこのくらいは当然だろ? 疲れてる人を放置するなんて出来ないしさ」
「ははっ、まあな。それじゃあ遅くならない内に行こうぜ。本当に距離だけは結構あるし、そこ以外にも色々なところを見に行きたいしさ」
その言葉に頷いた後、俺達は件の神社に向かって歩き始めたが、夕希さんの表情はさっきよりも確実に和らいでいたため、俺はそれを見て安心した。
「少しは気晴らしになってるみたいだな。でも、せっかくならもっとしっかり気張らしになる何かがあればいいけど……」
何がいいかと思いながら俺は秋田姉弟と一緒に神社に向けて歩き続けた。
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