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第三話 おばさん冒険者、からくりダンジョンに挑む
6(第三話完結)
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「アリスおばさん! アーサー様も! 無事で良かったですー!」
転移した部屋にアリスとアーサーを見つけ、リーナはアリスに抱きついた。
「リーナとディアも無事で良かったわ」
「松笠蜻蛉が大量に出たんですけど、ディア様が倒してくださいました!」
リーナが報告している横で、アーサーもディアを抱きしめている。
――後日、他の冒険者たちが試した結果、あの部屋の仕掛けは一度動かすごとに最大二人を転移させるものだとわかった。また、リーナがこのダンジョンの裏ルートを報告したため、ファーラドの若い冒険者の間で『からくりダンジョン』の不正解の選択肢を選んで進むのが流行ることになる。
それはさておき――。
「何か来るわよ!」
無事を喜びあったのも束の間、魔物の気配にアリスが真っ先に気づいて、防御壁を張った。
「五月雨蜘蛛だわ!」
見上げた天井には、腹の部分だけで二メートルくらいありそうな巨大な蜘蛛がいた。
五字名のこの魔物は、今回の探索で出てきた中で最強だ。
(ひぃぃー。虫系の魔物は怖さより気持ち悪さが勝りますね……)
蜘蛛から放たれた粘着質な糸は、防御壁が阻む。
「アーサー、行ける?」
「ええ、もちろんですよ。アリス様と共闘できるなんて、光栄です!」
アーサーはディアに映像の魔道具を渡して、アリスと一緒に防御壁の外に出て行った。
まず、アリスが天井の蜘蛛に火炎弾を撃って、気を引く。蜘蛛はアリスに投網のように糸を投げるが、アリスはそれも焼いた。
その隙にアーサーが身体強化で飛び上がると、蜘蛛が吊り下がっている糸に切り付けた。
アーサーとアリスはすぐに避ける。
半分ほど糸を切られてバランスを崩した蜘蛛は地面に下りたほうがいいと思ったのか、自ら落下した。しかし、蜘蛛の真下はリーナたちが入っている防御壁だ。
蜘蛛は跳ね飛ばされ、少し離れたところに落ちる。
(やっぱり巨大な魔物はあんまり飛びませんね)
どーんと大きな音を立てて落ちた蜘蛛に、即座にアーサーが切り掛かり、アリスも防御壁の弾を当てている。
(私は戦力にならないですけど、何かできることはないでしょうか……)
特にこの五月雨蜘蛛は水属性なので、リーナの水魔法は効果が期待できない。しかも、リーナの命中率だと、アリスやアーサーに間違って当たりそうで怖い。
辺りを見回して、魔道具を構えたディアがそわそわしているのに気づいたリーナは、
「私が撮影しましょうか? ディア様もアリスおばさんと一緒に戦いたいですよね?」
「まあ! いいの?」
ディアはぱっと顔を輝かせる。
(アーサー様がおばさんに誘われてうれしそうだったから、ディア様にも聞いてみたら、やっぱりですね!)
「はいっ! 三人の勇姿をばっちり記録しますよ!」
リーナが請け負うと、ディアは魔道具の使い方を軽く説明してから、防御壁を出て行った。
「アリス様! 私もご一緒させてくださいませ!」
「あら、ディア! それじゃあ、久しぶりにあれをやる?」
「ええ!」
アリスも楽しそうに笑って、二人は同時に魔法を使った。
アリスの火魔法をディアの風魔法が増幅させる。
「ひゃー、すごいです! 炎の勢いが!」
防御壁がなかったら、リーナのところまで熱風が届いただろう。
二人の魔法は五月雨蜘蛛に襲いかかる。巨大な蜘蛛は地面では素早い動きができないようで、避ける代わりに大量の糸を出して盾にした。しかし、炎の威力は絶大で、糸の盾は少しも保たずに焼けて崩れる。そうなると、もう蜘蛛はなす術がないようだった。
「うわ、蜘蛛が火だるまになってます!」
圧倒的な展開にリーナは息をのむ。
「あっ! おばさん! ディア様! 危ない! 蜘蛛の脚が!」
苦痛で暴れているのか、意図的な攻撃なのかわからないが、蜘蛛がぐるぐると回転しながら、脚を伸ばした。
離れて見ていたリーナは、それに気づき、声をかける。
アリスとディアはさっと離れた。
逆にアーサーが近づき、蜘蛛の脚を一本切り落とす。
ギギギギっと歯軋りのような音は蜘蛛の叫び声だろうか。
アーサーは立て続けにもう一本脚を切る。そうすると蜘蛛の動きは鈍くなった。
火の勢いも弱くなる。
「とどめはアーサーに譲ってあげるわ」
アリスが笑うと、アーサーは「ありがとうございます!」と声を弾ませる。
「ディア!」
アーサーの呼びかけで、ディアが強い風を起こし、火を消した。
間髪入れずに、アーサーが蜘蛛の腹に切り込んだ。
そして、黒焦げで瀕死だった蜘蛛は抵抗もなく剣を受け、絶命したのだった。
「わぁ! すごかったです!」
リーナは魔道具を落とさないように手を叩いた。
そのとき、がががっと音が鳴った。
「おっ!」
「五月雨蜘蛛の討伐が条件だったのね」
壁の一方が音を立てて開いていく。
リーナは三人に駆け寄り、アーサーに魔道具を返す。
「それじゃあ、行くわよ!」
アリスの掛け声で、一行は次の部屋に踏み出した。
「あっ! 宝箱がありますよ!」
「まあ! ここが最深部かしら?」
今までより狭い部屋の真ん中に小卓があり、宝箱が載っていた。リーナが両手でちょうど持てるくらいの、ダンジョンで出る宝箱の中では小ぶりなサイズだ。
「罠ってこともあるので、慎重に」
と、リーナが言い終わる前に、アーサーが「では早速」と開けてしまう。
あっと思ったけれど、特に何も起こらずに、宝箱はあっさり開いた。
「まあ、砂金だわ!」
「これは、なかなか……」
「わぁ、こんな絵に描いたようなお宝、初めて見ました!!」
「私もですわ!」
宝箱いっぱいに砂金が詰まっていた。キラキラと眩しい。
「でも、どうしましょうか」
ディアが頬に手を当てて、アーサーを見上げる。
アーサーも困った顔で、
「アイテムだったら持って帰っても良かったんだけれど、砂金は即物的すぎて、ちょっとねぇ」
それから、アリスに「アリス様、これ、要りますか?」と聞いた。
「別に要らないわよ」
アリスは首を振って、
「リーナがもらっておきなさい」
「え! いやいや、困ります!」
話を振られたリーナは両手を振って辞退する。
「なんでよ。もらっておけばいいじゃない」
「だったらアリスおばさんがもらえばいいじゃないですか! こんな大金、私は怖くて持っていられませんよ!」
(これ、一体いくらになるんですか!)
まさかのお宝の押し付け合いだ。
「うーん、でも、これ、宝箱を取らないと時間切れで強制退去になるんじゃないか?」
「そうですわね。せっかく踏破したのに、記録に残らないのはもったいないですわ」
アーサーとディアが言う。
「そうね。分配は持って帰ってから考えましょう」
「砂金なんて、私はいらないですよ」
「はいはい。わかったわよ」
依頼主の希望で、宝箱はアリスが取り上げた。――もちろん、その様子もアーサーが撮影していた。
その瞬間、転移魔法が発動し、リーナたちはダンジョンの入り口に戻ってきた。
リーナは明るさに、ぱちぱちと瞬きする。
風や木々の匂いが、地上に戻ってきたと実感させてくれる。
ダンジョンの前には順番待ちのパーティが三組ほどいた。
ささっと宝箱をポーチにしまったアリスが、リーナの背を叩く。
「リーナ。せっかくだから、ギルドの受付でやるあれ、やりなさいよ」
「あれってあれですか?」
ファーラドの冒険者ギルドには、ダンジョン初踏破や高難度の魔物を討伐したときなどに、――秘密にしたい場合もあるだろうから希望者だけだが――、ギルドの受付係がロビー全体に聞こえるように発表する伝統がある。
アーサーとディアを見ると、二人とも笑顔でうなずく。
リーナは、よしっと気合いを入れて姿勢を正すと、声を張り上げた。
「皆様にファーラド冒険者ギルドの仲間の偉業をお伝えいたします! D級パーティ『アーサーとディア』が、103番ダンジョンの裏ルートの踏破に成功しました! おめでとうございます!!」
リーナの言葉に、その場にいた冒険者たちから拍手が上がった。
こうして、ソシレ伯爵夫妻の護衛依頼は完了した。
――宝箱の砂金を固辞したリーナだったが、後日、あの金で買ったというマジックバッグをアーサーたちから贈られて、ひっくり返るのだった。
転移した部屋にアリスとアーサーを見つけ、リーナはアリスに抱きついた。
「リーナとディアも無事で良かったわ」
「松笠蜻蛉が大量に出たんですけど、ディア様が倒してくださいました!」
リーナが報告している横で、アーサーもディアを抱きしめている。
――後日、他の冒険者たちが試した結果、あの部屋の仕掛けは一度動かすごとに最大二人を転移させるものだとわかった。また、リーナがこのダンジョンの裏ルートを報告したため、ファーラドの若い冒険者の間で『からくりダンジョン』の不正解の選択肢を選んで進むのが流行ることになる。
それはさておき――。
「何か来るわよ!」
無事を喜びあったのも束の間、魔物の気配にアリスが真っ先に気づいて、防御壁を張った。
「五月雨蜘蛛だわ!」
見上げた天井には、腹の部分だけで二メートルくらいありそうな巨大な蜘蛛がいた。
五字名のこの魔物は、今回の探索で出てきた中で最強だ。
(ひぃぃー。虫系の魔物は怖さより気持ち悪さが勝りますね……)
蜘蛛から放たれた粘着質な糸は、防御壁が阻む。
「アーサー、行ける?」
「ええ、もちろんですよ。アリス様と共闘できるなんて、光栄です!」
アーサーはディアに映像の魔道具を渡して、アリスと一緒に防御壁の外に出て行った。
まず、アリスが天井の蜘蛛に火炎弾を撃って、気を引く。蜘蛛はアリスに投網のように糸を投げるが、アリスはそれも焼いた。
その隙にアーサーが身体強化で飛び上がると、蜘蛛が吊り下がっている糸に切り付けた。
アーサーとアリスはすぐに避ける。
半分ほど糸を切られてバランスを崩した蜘蛛は地面に下りたほうがいいと思ったのか、自ら落下した。しかし、蜘蛛の真下はリーナたちが入っている防御壁だ。
蜘蛛は跳ね飛ばされ、少し離れたところに落ちる。
(やっぱり巨大な魔物はあんまり飛びませんね)
どーんと大きな音を立てて落ちた蜘蛛に、即座にアーサーが切り掛かり、アリスも防御壁の弾を当てている。
(私は戦力にならないですけど、何かできることはないでしょうか……)
特にこの五月雨蜘蛛は水属性なので、リーナの水魔法は効果が期待できない。しかも、リーナの命中率だと、アリスやアーサーに間違って当たりそうで怖い。
辺りを見回して、魔道具を構えたディアがそわそわしているのに気づいたリーナは、
「私が撮影しましょうか? ディア様もアリスおばさんと一緒に戦いたいですよね?」
「まあ! いいの?」
ディアはぱっと顔を輝かせる。
(アーサー様がおばさんに誘われてうれしそうだったから、ディア様にも聞いてみたら、やっぱりですね!)
「はいっ! 三人の勇姿をばっちり記録しますよ!」
リーナが請け負うと、ディアは魔道具の使い方を軽く説明してから、防御壁を出て行った。
「アリス様! 私もご一緒させてくださいませ!」
「あら、ディア! それじゃあ、久しぶりにあれをやる?」
「ええ!」
アリスも楽しそうに笑って、二人は同時に魔法を使った。
アリスの火魔法をディアの風魔法が増幅させる。
「ひゃー、すごいです! 炎の勢いが!」
防御壁がなかったら、リーナのところまで熱風が届いただろう。
二人の魔法は五月雨蜘蛛に襲いかかる。巨大な蜘蛛は地面では素早い動きができないようで、避ける代わりに大量の糸を出して盾にした。しかし、炎の威力は絶大で、糸の盾は少しも保たずに焼けて崩れる。そうなると、もう蜘蛛はなす術がないようだった。
「うわ、蜘蛛が火だるまになってます!」
圧倒的な展開にリーナは息をのむ。
「あっ! おばさん! ディア様! 危ない! 蜘蛛の脚が!」
苦痛で暴れているのか、意図的な攻撃なのかわからないが、蜘蛛がぐるぐると回転しながら、脚を伸ばした。
離れて見ていたリーナは、それに気づき、声をかける。
アリスとディアはさっと離れた。
逆にアーサーが近づき、蜘蛛の脚を一本切り落とす。
ギギギギっと歯軋りのような音は蜘蛛の叫び声だろうか。
アーサーは立て続けにもう一本脚を切る。そうすると蜘蛛の動きは鈍くなった。
火の勢いも弱くなる。
「とどめはアーサーに譲ってあげるわ」
アリスが笑うと、アーサーは「ありがとうございます!」と声を弾ませる。
「ディア!」
アーサーの呼びかけで、ディアが強い風を起こし、火を消した。
間髪入れずに、アーサーが蜘蛛の腹に切り込んだ。
そして、黒焦げで瀕死だった蜘蛛は抵抗もなく剣を受け、絶命したのだった。
「わぁ! すごかったです!」
リーナは魔道具を落とさないように手を叩いた。
そのとき、がががっと音が鳴った。
「おっ!」
「五月雨蜘蛛の討伐が条件だったのね」
壁の一方が音を立てて開いていく。
リーナは三人に駆け寄り、アーサーに魔道具を返す。
「それじゃあ、行くわよ!」
アリスの掛け声で、一行は次の部屋に踏み出した。
「あっ! 宝箱がありますよ!」
「まあ! ここが最深部かしら?」
今までより狭い部屋の真ん中に小卓があり、宝箱が載っていた。リーナが両手でちょうど持てるくらいの、ダンジョンで出る宝箱の中では小ぶりなサイズだ。
「罠ってこともあるので、慎重に」
と、リーナが言い終わる前に、アーサーが「では早速」と開けてしまう。
あっと思ったけれど、特に何も起こらずに、宝箱はあっさり開いた。
「まあ、砂金だわ!」
「これは、なかなか……」
「わぁ、こんな絵に描いたようなお宝、初めて見ました!!」
「私もですわ!」
宝箱いっぱいに砂金が詰まっていた。キラキラと眩しい。
「でも、どうしましょうか」
ディアが頬に手を当てて、アーサーを見上げる。
アーサーも困った顔で、
「アイテムだったら持って帰っても良かったんだけれど、砂金は即物的すぎて、ちょっとねぇ」
それから、アリスに「アリス様、これ、要りますか?」と聞いた。
「別に要らないわよ」
アリスは首を振って、
「リーナがもらっておきなさい」
「え! いやいや、困ります!」
話を振られたリーナは両手を振って辞退する。
「なんでよ。もらっておけばいいじゃない」
「だったらアリスおばさんがもらえばいいじゃないですか! こんな大金、私は怖くて持っていられませんよ!」
(これ、一体いくらになるんですか!)
まさかのお宝の押し付け合いだ。
「うーん、でも、これ、宝箱を取らないと時間切れで強制退去になるんじゃないか?」
「そうですわね。せっかく踏破したのに、記録に残らないのはもったいないですわ」
アーサーとディアが言う。
「そうね。分配は持って帰ってから考えましょう」
「砂金なんて、私はいらないですよ」
「はいはい。わかったわよ」
依頼主の希望で、宝箱はアリスが取り上げた。――もちろん、その様子もアーサーが撮影していた。
その瞬間、転移魔法が発動し、リーナたちはダンジョンの入り口に戻ってきた。
リーナは明るさに、ぱちぱちと瞬きする。
風や木々の匂いが、地上に戻ってきたと実感させてくれる。
ダンジョンの前には順番待ちのパーティが三組ほどいた。
ささっと宝箱をポーチにしまったアリスが、リーナの背を叩く。
「リーナ。せっかくだから、ギルドの受付でやるあれ、やりなさいよ」
「あれってあれですか?」
ファーラドの冒険者ギルドには、ダンジョン初踏破や高難度の魔物を討伐したときなどに、――秘密にしたい場合もあるだろうから希望者だけだが――、ギルドの受付係がロビー全体に聞こえるように発表する伝統がある。
アーサーとディアを見ると、二人とも笑顔でうなずく。
リーナは、よしっと気合いを入れて姿勢を正すと、声を張り上げた。
「皆様にファーラド冒険者ギルドの仲間の偉業をお伝えいたします! D級パーティ『アーサーとディア』が、103番ダンジョンの裏ルートの踏破に成功しました! おめでとうございます!!」
リーナの言葉に、その場にいた冒険者たちから拍手が上がった。
こうして、ソシレ伯爵夫妻の護衛依頼は完了した。
――宝箱の砂金を固辞したリーナだったが、後日、あの金で買ったというマジックバッグをアーサーたちから贈られて、ひっくり返るのだった。
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