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第四話 おばさん冒険者、弟子の依頼を受ける
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エトール王国の南の国境の街ファーラド。
その冒険者ギルドの応接室で、ギルド職員リーナ・オルトはギルドマスターのドム・キャリッジと向かい合っていた。
「コリン・スポットの罪が決まった」
ドムが重々しく口を開き、リーナは息を呑む。
「そう、ですか……」
コリンはリーナと同郷の幼馴染だ。冒険者になるというコリンに誘われてリーナは一緒にファーラドに出てきた。最初は二人で冒険者パーティを組んでいたけれど、体力も戦闘力もなかったリーナはギルド職員になったのだ。しかし、職がわかれたあともリーナとコリンは一緒に暮らしていた。それが、コリンがある依頼を受けたあとから変わってしまい、結局、リーナはコリンと別れることになった。
実は、コリンは犯罪組織の依頼を知らずに受けたことで脅され、何度も組織の依頼を受けさせられていた。
それで三か月ほど前に捕まったのだけれど――。
「リーナはもうコリンとは関わりたくないだろうが、被害者だし、いちおう幼馴染だろ。知っておいたほうがいいかと思ったんだが……」
顔を曇らせたリーナに、ドムが気遣う表情を見せる。
リーナは慌てて首を振った。
「いえ! ありがとうございます。……コリンはどうなったんですか?」
「脅されていたことと、犯罪組織に関しては何も知らなかったことを考慮して、北東のヤオクーフ領の警備団での労役になった。三年だ」
「北東……警備団ですか……?」
どういう刑罰なのかよくわからずに、リーナが繰り返すと、ドムは、
「『リリンの森』には及ばないが、ヤオクーフ領には魔物が多い山があるんだ。その山裾の森も含めて『クィンガの山』って呼ばれててな」
国境の外にある『リリンの森』は城壁で隔てられており、街まで魔物が入り込むことはない。それに冒険者以外は森に入らないから、人と魔物の住み分けができていると言える。
しかし、『クィンガの山』は人里と密接しており、魔物は山から下りてきて畑を荒らしたり人を襲ったりする。逆に、一般人も山裾の森にきのこや山菜を取りに行ったりするのだそうだ。
ドムからそう聞いたリーナは、「私の故郷もそんな感じでした」とうなずく。
「小物は罠で捕まえたり、猟師が討伐したりしてました」
大半は三字名の兎系や鼠系だった。数年に一度、四字名の大きな魔物が出て、一番近い街の冒険者ギルドに緊急依頼を出すのが恒例だった。
リーナがそんなことを話すと、ドムは「ああ、森や山を背にした農村はどこもそんな感じだよなぁ」と顎を撫でる。
「それの規模がでかいのが『クィンガの山』だな。四字名がしょっちゅう人里に出るんだと」
「ええっ! それは大変ですね」
「で、それを討伐するのが警備団ってわけだ。――もちろん冒険者もいるが、領としては毎回ギルドに依頼するより自前の警備団で討伐したほうが早いんだろ。冒険者を警備団に引き抜くくらいだからな」
「その警備団にコリンが……」
「ああ」
話が最初に戻り、ドムは大きくうなずいた。
「南部や西部で罪を犯した者で体力に問題がなさそうなやつは、だいたいその警備団に送られる。冒険者と違って規律があるからなぁ。厳しいんだわ。精神的にも肉体的にも鍛えられる。あいつはもう十分反省してたから、刑期が終わればきっとやり直せるだろ」
「はい。そうですね」
リーナは同意を返しつつ、複雑な思いを抱く。
(三年経ったら、コリンはファーラドに帰ってくるんでしょうか……。待っていてほしいと言われて断りましたけど、三年後もコリンの気持ちが変わっていなかったらまた何か言われるんでしょうか?)
会いたくない、ととっさに考えてしまう自分は薄情だろうか。
(いえ、まだ先のことですし。今から心配してもしかないですよね)
「コリンの実家にはファーラドの警備団から知らせが行くから、リーナは何も気にしなくていいからな」
「え? あ! はい」
全く別の心配をしていたリーナは、ドムに言われて少し慌てる。
「警備団はコリンの実家にしか知らせないが、彼らがお前の家族に伝える可能性はある。リーナは自分の実家に連絡しろ。ギルドの寮にいることも知らせてねぇんじゃねぇか?」
「あ……」
確かにその通りだった。
コリンと別れて、誘拐されて。そのあとはアリスと依頼をこなすので忙しくて、実家への連絡をすっかり忘れていた。
ドムは「あんまり親御さんを心配させんなよ」と笑って、話を終わらせた。
応接室から出たリーナは、ギルドの受付業務に戻る。
(コリンが逮捕されたってスポットさんから聞いたら、うちの両親は驚きますよね。誘拐されたことも話してないですし……。うぅぅぅ……、怒られる未来しか見えませんー)
ファーラド行きに最後まで反対していた父親はなんて言うだろう。
(こうなったら、さりげなく伝えましょう! アリスおばさんのことや領主夫妻との冒険なんかを話題の中心にして、コリンのことはさりげなく!)
それでいきましょう、とリーナは開き直ってカウンターに座ると、目の前を知っている顔が通った。
リーナと別れたコリンがそのまますぐに付き合った相手、ノーラ・ラグランだ。
思わず『受付休止』の札を片づける手が止まる。
ちらっとこちらを見たノーラは腕を組んでいた男を促して、別の受付に行った。
コリンが逮捕されたあと、ノーラは別の恋人を見つけたらしい。新しい相手も冒険者で、彼とパーティを組みなおしていた。
彼女はリーナに話しかけないし、リーナも同じだ。
(元々、仲良くないですし……)
誘拐されていたときは共闘したけれど、あれは状況が特殊すぎた。
(ノーラも被害者ですから、きっとコリンのことを教えてもらったでしょうね……)
彼女がどう感じたのか、少し聞いてみたい気もするけれど、それよりも気まずさが勝る。話しかける勇気もない。
リーナは「今は仕事です!」と気持ちを入れ替えて、受付を開いた。
その冒険者ギルドの応接室で、ギルド職員リーナ・オルトはギルドマスターのドム・キャリッジと向かい合っていた。
「コリン・スポットの罪が決まった」
ドムが重々しく口を開き、リーナは息を呑む。
「そう、ですか……」
コリンはリーナと同郷の幼馴染だ。冒険者になるというコリンに誘われてリーナは一緒にファーラドに出てきた。最初は二人で冒険者パーティを組んでいたけれど、体力も戦闘力もなかったリーナはギルド職員になったのだ。しかし、職がわかれたあともリーナとコリンは一緒に暮らしていた。それが、コリンがある依頼を受けたあとから変わってしまい、結局、リーナはコリンと別れることになった。
実は、コリンは犯罪組織の依頼を知らずに受けたことで脅され、何度も組織の依頼を受けさせられていた。
それで三か月ほど前に捕まったのだけれど――。
「リーナはもうコリンとは関わりたくないだろうが、被害者だし、いちおう幼馴染だろ。知っておいたほうがいいかと思ったんだが……」
顔を曇らせたリーナに、ドムが気遣う表情を見せる。
リーナは慌てて首を振った。
「いえ! ありがとうございます。……コリンはどうなったんですか?」
「脅されていたことと、犯罪組織に関しては何も知らなかったことを考慮して、北東のヤオクーフ領の警備団での労役になった。三年だ」
「北東……警備団ですか……?」
どういう刑罰なのかよくわからずに、リーナが繰り返すと、ドムは、
「『リリンの森』には及ばないが、ヤオクーフ領には魔物が多い山があるんだ。その山裾の森も含めて『クィンガの山』って呼ばれててな」
国境の外にある『リリンの森』は城壁で隔てられており、街まで魔物が入り込むことはない。それに冒険者以外は森に入らないから、人と魔物の住み分けができていると言える。
しかし、『クィンガの山』は人里と密接しており、魔物は山から下りてきて畑を荒らしたり人を襲ったりする。逆に、一般人も山裾の森にきのこや山菜を取りに行ったりするのだそうだ。
ドムからそう聞いたリーナは、「私の故郷もそんな感じでした」とうなずく。
「小物は罠で捕まえたり、猟師が討伐したりしてました」
大半は三字名の兎系や鼠系だった。数年に一度、四字名の大きな魔物が出て、一番近い街の冒険者ギルドに緊急依頼を出すのが恒例だった。
リーナがそんなことを話すと、ドムは「ああ、森や山を背にした農村はどこもそんな感じだよなぁ」と顎を撫でる。
「それの規模がでかいのが『クィンガの山』だな。四字名がしょっちゅう人里に出るんだと」
「ええっ! それは大変ですね」
「で、それを討伐するのが警備団ってわけだ。――もちろん冒険者もいるが、領としては毎回ギルドに依頼するより自前の警備団で討伐したほうが早いんだろ。冒険者を警備団に引き抜くくらいだからな」
「その警備団にコリンが……」
「ああ」
話が最初に戻り、ドムは大きくうなずいた。
「南部や西部で罪を犯した者で体力に問題がなさそうなやつは、だいたいその警備団に送られる。冒険者と違って規律があるからなぁ。厳しいんだわ。精神的にも肉体的にも鍛えられる。あいつはもう十分反省してたから、刑期が終わればきっとやり直せるだろ」
「はい。そうですね」
リーナは同意を返しつつ、複雑な思いを抱く。
(三年経ったら、コリンはファーラドに帰ってくるんでしょうか……。待っていてほしいと言われて断りましたけど、三年後もコリンの気持ちが変わっていなかったらまた何か言われるんでしょうか?)
会いたくない、ととっさに考えてしまう自分は薄情だろうか。
(いえ、まだ先のことですし。今から心配してもしかないですよね)
「コリンの実家にはファーラドの警備団から知らせが行くから、リーナは何も気にしなくていいからな」
「え? あ! はい」
全く別の心配をしていたリーナは、ドムに言われて少し慌てる。
「警備団はコリンの実家にしか知らせないが、彼らがお前の家族に伝える可能性はある。リーナは自分の実家に連絡しろ。ギルドの寮にいることも知らせてねぇんじゃねぇか?」
「あ……」
確かにその通りだった。
コリンと別れて、誘拐されて。そのあとはアリスと依頼をこなすので忙しくて、実家への連絡をすっかり忘れていた。
ドムは「あんまり親御さんを心配させんなよ」と笑って、話を終わらせた。
応接室から出たリーナは、ギルドの受付業務に戻る。
(コリンが逮捕されたってスポットさんから聞いたら、うちの両親は驚きますよね。誘拐されたことも話してないですし……。うぅぅぅ……、怒られる未来しか見えませんー)
ファーラド行きに最後まで反対していた父親はなんて言うだろう。
(こうなったら、さりげなく伝えましょう! アリスおばさんのことや領主夫妻との冒険なんかを話題の中心にして、コリンのことはさりげなく!)
それでいきましょう、とリーナは開き直ってカウンターに座ると、目の前を知っている顔が通った。
リーナと別れたコリンがそのまますぐに付き合った相手、ノーラ・ラグランだ。
思わず『受付休止』の札を片づける手が止まる。
ちらっとこちらを見たノーラは腕を組んでいた男を促して、別の受付に行った。
コリンが逮捕されたあと、ノーラは別の恋人を見つけたらしい。新しい相手も冒険者で、彼とパーティを組みなおしていた。
彼女はリーナに話しかけないし、リーナも同じだ。
(元々、仲良くないですし……)
誘拐されていたときは共闘したけれど、あれは状況が特殊すぎた。
(ノーラも被害者ですから、きっとコリンのことを教えてもらったでしょうね……)
彼女がどう感じたのか、少し聞いてみたい気もするけれど、それよりも気まずさが勝る。話しかける勇気もない。
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