牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈

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SS:将軍閣下の朝

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 窓から入る光は強くはなく、日が昇り切る前の早朝だとわかった。
 愛しい妻と出会った頃の夢を見ていたディルクは、ベッドの隣で小さな寝息を立てながら眠っている、穏やかなリーナの顔を安心したように眺めていた。
 徐々に明るくなる室内、夢の中のリーゼよりも短いけれど、二度目の出会った頃より少し伸びたプラチナブロンドの髪が輝いている。ディルクはリーナの髪にそっと手を伸ばす。 
 結婚して半年、ディルクの想いは募るばかりだ。髪の毛一本すら愛おしい。

 リーナの髪を一房手に取って、ディルクは口づけを落とした。
 リーナのほとんど色を持たないまつ毛が揺れて、ゆっくりと目を開ける。

「ごめん、起こしてしまったか」
 慌てて髪から手を離したディルクがリーナに謝った。
「もう朝ですから起きる時間です」
 リーナはにっこりと笑う。その笑顔を嬉しそうにディルクは見ていた。

「リーナは僕が死んだら泣いてくれる?」
 死を嘆くぐらいには妻に愛されたいというのが、ディルクの唯一の願いだった。リーナが望むのならばためらわずに命を差し出すぐらい、ディルクは彼女のことを想っているが、リーナの想いは同等だとは思っていない。
 死にそうだったリーナの境遇につけ込んだ自覚をディルクは持っている。彼女に国を捨てさせて自分のものにした。
 対抗者はリーナを死に追いやろうとした元第二王子。あの男よりは好かれて当然だとは思うが、本当にリーナに愛されているのか自信がないディルクだった。 

 ディルクを見つめていたリーナの大きな目に涙があふれてくる。そして、一筋頬を伝い落ちた。
「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだ」
 驚いたディルクはリーナの目尻に口づけて、流れ出る涙を吸い取った。
「だって、死ぬなんて言うから。そんなこと想像するだけで悲しいもの」
 子どものようにすすり上げながら涙を流しているリーナが愛しくて、ディルクは壊れ物を扱うようにそっと抱きしめた。
「リーナは僕のことが好き?」
「当然よ。私はディルクが大好き。だから、死んだりしないでね。ずっと一緒にいて欲しいもの。私もずっとディルクの側にいるから」
 リーナの細い腕がそっとディルクの背中にまわされた。

 どうしてリーナは欲しい言葉をくれるのだろうかと、あまりの幸せにディルクも泣きそうになる。
「リーナ、大好きだよ。僕もリーナを置いて死んだりしないから」
 見つめ合う二人を強くなってきた朝日の光が照らし出す。
 死の淵を覗くような辛い経験をした二人は、不幸を幸せで上書きするように心を満たしていった。


「旦那様! 奥様! 朝でございます」
 元気なアリーゼの声がドアの外から響き渡った。
 今日も幸せな一日が始まる。
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