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第二章:彼は如何にしてワンダーウーマンみたいなマッスルボディに兄としての強さを見せつけたか
公園
しおりを挟む【第二章】
【一】
公園に来たのは、本当に久しぶりだった。
昔は友達と遊ぶために、ボールやゲーム機を持って走ってきた。
今はそういう場所じゃない。
というより、そういう気分にならない。
葉の落ちた木の下。
ベンチに座るのではなく、芝生に腰を下ろしている。
理由は特にない。なんとなくだ。
進藤志紀は、少年の膝を枕にして眠っていた。
寝息は静かで、規則正しい。
直射日光が褐色の肌を照らしているが、起きる気配はない。
このくらいの環境は、彼女にとっては普通なのだろう。
しばらくして、まぶたがわずかに動いた。
「……」
「起きたか」
返事はなかったが、目は開いた。
それで十分だった。
志紀は少しだけ目を細め、空を見てから、ゆっくりと蓮を見る。
「……ここ、どこ?」
まだ寝ぼけているような話し方だ。
「公園」
「そう……」
それだけ言って、また少し黙る。
眠ろうかどうしようか、迷っているような。
夢と現の境目にずっといるような、そんな話し方だった。
少年からは特に話しかけなかった。
急ぐ理由も、話すべきことも、思いつかなかった。
「……アカネさんは?」
「帰った」
「そう」
それ以上、話は続かない。
さっきまでは活発、溌剌な妹は、公園の静かな空気と、自分の眠気に意識を任せていた。
沈黙が気まずいかと言われると、そうでもなかった。
風が吹いて、枯れ草が少し音を立てる。
「ねえ」
「ん?」
「ここ、いつも静かなの?」
「昼はこんなもんだ」
「ふうん……」
納得したのかどうかはわからないが、それで終わった。
しばらくして、志紀がぽつりと聞く。
「……どうして、わたしをここに連れてきたの?」
少し考える。
「近いから」
「それだけ?」
「悪いか? 家にはまだ入りたくなさそうだったし、外から見せようと思ったんだよ」
「ふふ」
小さく笑った。
「変な遠慮の仕方かもしれないわ」
否定はしなかった。
家に運ばなかった理由、公園に連れてきた理由、それらを探せば、いくらでも適当な言葉は出せる。
でも、今はそれを口にする気にならなかった。
とにかく、この空気と時間に浸りたかった。
志紀は体勢を変え、横になったまま、蓮の腹のあたりに額を寄せる。
「……ねえ」
「どうした?」
「わたしが、本当に妹じゃなかったら、どうするの?」
答えは、すぐには出なかった。
「……さあな」
「考えてない?」
「考えてない……というか、今は考えることをオフにしている」
「どうして?」
姫戦士の頭を掴み、ぐるりと公園全部を見れるようにした。
「思い出がほしいと言ったのは、お前だろ。少し、殺風景かもしれないけど」
「いえ、そんなことはない……よ」
か細い声で呟き、
それきり、何も言わない。
ただ、腕だけは離さなかった。
「……でも」
しばらくしてから、志紀が言う。
「彼女とは、仲直りしてね」
「なんで?」
「そのほうが、いいから。戦って、さよならは悲しすぎるもの」
実感のこもった言い方だった。
「毒、流されたけど」
「それでも」
理由はそれだけだった。
「優しいんだな」
「普通よ、こういう気遣いは」
どこか、年上であることを意識した言い方だった。
蓮は空を見上げる。
「春になると、ここに花が咲くんだ」
「花?」
「桜というやつだ」
「……知らない」
「だろうな。花見には来たはずなんだが」
昔はどうでもよかった花の話を、今はしている。
でも、昔と違って、妹と桜を見るのが楽しみになった。
褐色の肌に桃色の桜の花びら。きっと凄く綺麗になる。
「次に来たときにでも、な」
「……うん」
その返事は、眠そうだった。
志紀が両手で蓮の顔を挟む。
距離が近い。
まるで、兄の肌と顔を少しでも目に焼き付けようとしているかのようだ。
何か言おうとした瞬間、スマホが鳴った。
「……電話?」
「たぶん」
画面を見る。
「幼馴染だ。ミモーだ!」
「へえ、よかったじゃない」
本当に良かった……と、淑女は安堵に胸を撫で下ろした。
電話に出る。
『魔獣を取り逃した。見逃す報酬として、狩ってほしい』
「了解!」
短いやり取りだった。
あまり会話を長引かせると微妙な空気になりそうだったからだ。
名残惜しい。本当は、もっと三森の心を聞きたかった。
切ったあと、志紀がじっと見てくる。
「……嬉しそう」
「そうか?」
「うん。変な顔」
「失礼だな」
「変態みたい」
「おい、ひどいな」
否定はできなかった。
幼馴染との殺し合い直前のせめぎあい。
それを乗り越えた公園での妹(たぶん)とのゆっくりとした一時。
しかし、幼馴染からの連絡が来た。
さらには、異世界からの魔獣と戦うチャンスがようやく巡ってきた。
心に、心の奥底から土台ごと盛り上がるような、言葉にもできない歓喜。
鼻歌どころか、大声で合唱したい気分だった。
これはもう歌ってしまおう。
「あーるーあーさ、めーざめたらーーーー!!! とおおおくにいいいキャーーーーーーーラバンのーーーー!!!」
「え、なに? どうしたの?」
しまった、妹にはわからない歌だった。
小学校で歌った曲で、どうしてか心に残っていたから歌ったのだ。
「いや……歌の選択じゃなくて歌った理由がわからないの」
そう言われると、言葉にできない。
公園でリラックスしすぎたからか、さっきから“わからない”と“なんとなく”が多すぎる。
なので、一言でこれだというパワーある言葉を選んでみた。
「ウルトラハッピーなんだよ、今の俺」
志紀は、信じられないものを見る目で兄を見つめていた。
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