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第二章:彼は如何にしてワンダーウーマンみたいなマッスルボディに兄としての強さを見せつけたか
英雄への目覚め
しおりを挟む【四】
【志紀のオリジン】
この世界、ジャヒムに来て五年が経った頃。
魔王軍との戦いは終わることなく続き、昨日は笑い合っていた者が、次の瞬間には倒れているのが当たり前だった。
最初は泣き叫び、武器を持つことを断っていた志紀も、戦わなければならないこと、そのためにはさまざまなことを学ばなければならないことを、次第に受け入れていった。
岩肌のギリーは、初めは恭しく頭を垂れて志紀に接していたが、気づけば大人が子供を相手にするのと同じ態度になっていた。
魔王軍との戦いと、そこからの移動を繰り返す毎日。
そのため志紀の故郷は広い草原であり、夜空が彼女の天蓋だった。
「ねえ、いい加減にもっとカッコいいことを教えてよ!」
子供でも扱える大きさの武器を手にし、ぶんぶんと振り回して志紀が叫んだ。
蝶よ花よと育てられたわけではないが、この世界の人々に大切にされてきたのは事実だ。
志紀と同年代の子どもたちは、とっくに前線で戦っているが、選ばれし者としての志紀が戦場に出る機会は限られていた。
それが彼女には酷くもどかしい。
この世界の一員として魔獣たちと戦うことに、彼女は少しの躊躇いもなかった。
そのために呼ばれ、大事に育てられているのだ。
他のみんなが頑張って戦っている中で。
「言っているだろう。まだ早い」
ギリーは志紀の逸る気持ちを見透かし、冷静に対応する。
志紀は養親を言い負かしたことは一度もなかったが、今回だけはと意気込んだ。
「もう何年、同じことやってると思ってんの!? あたし、もう子供じゃないんだから」
「子供だからではない。未熟だから駄目だと言っているんだ」
「またそんなこと言っちゃってさ! ……この間だってワイバーンを倒したでしょ」
空を飛び交う魔獣に剣を突き立て、辺り一帯を体液で汚してしまったが、勝ちは勝ちだ。
みんなも凄いと褒めてくれた。
英雄になるのも遠くはないと、太鼓判を押してくれた人もいる。
「誰が勝手なことを言った」
「内緒。べつにいいじゃん。褒めてくれてるんだし。ギリーだって、英雄になってほしいでしょ? あたしに」
「そういう問題ではない。所詮はそれなりの獲物一匹を裂いただけだ。英雄も何もあるか。あれより危険なのはごまんといる」
腕組みをしたギリーは、取り付く島もない。
志紀の前には、炎の煌めきを光沢とする不思議な金属の魔法人形がある。
ギリーが率いる反乱軍は、命を持った無機物の集まりだった。
肉体も血液も持たず、心だけを持つ珪素生命体らしい。
同様に、無機物を意のままに動かす術に長けていた。
志紀は彼らに囲まれて育ったが、そこには体温も、呼吸も、匂いもなかった。
夜、外で眠るときすら、風と草の冷たさだけが肌に触れていた。
魔法人形は動きこそ単純だが、パワーとスピードに優れ、なおかつ異常に硬い。
数で押さなければ、大人でも破壊できない。
負けても死ぬことはない。
それが、甘やかされている気分にさせた。
加えてこの一年、毎日毎日同じものを相手にしているため、志紀はすっかり飽きていた。
「もうイヤー! 避けるの面倒くさいし、攻撃通らないし!」
「通らないのは、お前がまだ“到達”していないからだ。この人形を両断したら、望むような技を教えてやる」
「だからあ! 最初に必殺技を教えてくれたら、それで倒せるでしょ!?」
「嫌だの何だの、つべこべ言わずにやりなさい」
ピシャリと言い切る師に、弟子が頬を膨らませた。
ギリーが魔法人形を一瞥すると、騎士を模したそれが動き出す。
大盾と突撃槍という重装備が、まだ十歳の志紀へと迫る。
かつては攻撃一つを避けるのにも、擦り傷を幾つもこしらえていたが、慣れた今では足さばきだけで問題なく躱せる。
故に、ひたすら攻撃に意識を注いだ。
力の限り小剣を振りかぶり、魔法人形に刃をぶつける。
いつも通り、斬撃は弾かれた。
これでは何度繰り返しても、有効なダメージは与えられない。
「どうした? 今日も失敗か。そんなことでは成功も遠いな!」
「ああ、もう! うるさーい!」
怒鳴り返し、志紀はがむしゃらに打ちつけた。
頑張っているのに、どうしてギリーは意地悪を言うのか。
金属と金属がぶつかり合う音。
──そして、ついに剣が折れた。
鈍く銀色に光る刃が宙を舞い、手元には柄だけが残る。
「ついに折れたか」
無感情な呟きに、志紀は口をあんぐり開けた。
お守りとして渡され、初陣でも使った剣だった。
それ以上に、手に何もないことが、急に心細くなった。
「ど、どうしろと!?」
「お前が決めろ。お前は何を求める!?」
「必殺技だってば!!」
「それは駄目だ! お前が真に抱えている衝動を吐き出せ!
できないなら、お前はずっと大事に飾られるだけのプリンセスだ!!」
「こ、このクソジジイ!!」
怒りのままに、志紀は魔法人形を殴った。
十歳の少女の素手が、無敵に見えた装甲を凹ませる。
拳の形が、はっきりと残った。
右腕には炎が纏わりつき、身体能力と攻撃力を内側から底上げしていた。
感情が昂るほど力が増すという事実は、志紀にとって希望であり、
同時に、制御しなければならない刃でもあった。
ギリーは拍手しながら駆け寄る。
「よくやったぞ、シキ!
それが選ばれし者の証だ……」
説明は長かったが、志紀の耳にはほとんど入らなかった。
脳裏を占めるのは、殴った瞬間の無限のような力。
「べつにいい! それより今の凄いよ!! もう一回やりたい!!」
ギリーは止めなかった。
複雑な表情で、小さな戦士を見る。
「すまんな。お前はまだ小さいのに、重すぎる使命を負わせてしまった」
「でも、魔王を倒したら帰れるんでしょ?」
「正確には、願いを一つ叶えられる」
その話を信じ切るには、志紀はもう少し賢かった。
それでも疑問は飲み込んだ。
倒れた村、踏み越えられる死体。
倒れた者たちは、その場に残されることも、次の戦いでも野ざらしのままなこともあった。
珪素生命体は肉体が腐らないからだ。屍肉を啄む獣もいない。
誰も立ち止まらず、戦友の名前を記録に刻むこともしなかった。
「じゃあ、それで帰るもん」
本心ではなかった。
この世界こそが、志紀のすべてだった。
「まっかせといて! あたしはみんなを助ける姫戦士様なんだから!」
ギリーが跪き、頭を垂れる。
その姿は敬意に満ちていたが、
志紀にはそれが、人々が必死に命綱に縋るようにも見えた。
「これにて修行の行程は完了いたしました……」
「ちょっと、いつも通りでいいから!」
必殺技は教わらなかった。
だが志紀は、この世界に順応していった。
五歳だった少女が、元の世界への思い入れを失うには、
二十年という時間は十分すぎた。
彼女は、もはや故郷を思い出すこともなかった。
──あの日、魔王を殺すまでは。
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