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第一章:奔走する者と、機を待つ者。
第5話 忍び寄る『王族案件』の恐怖(1)
しおりを挟む心配顔で彼女を覗き込むと、その視線がゆるりとグランへ向けられた。
そして青い顔のまま、問われる。
「グラン、以前公爵子息が子爵令嬢と婚約した事があったのを覚えていますか……?」
その問いに、グランは「何故今その話を?」と訝し気な表情になった。
しかし彼女の問いには「Yes」だ。
「確か、今から16、7年前だったか」
頷きながら、そう零す。
公爵家と子爵家の婚約、それは爵位的には極めて珍しい。
当時もその件で話題となり、様々な噂が社交界を賑わせた。
結局その婚約は結婚まで行きつかずに終わった。
公爵家の子息は別の家の令嬢と結婚し、子爵家の令嬢はそれを機に自領へと引き篭もった。
確か、未だに結婚はしていない筈である。
そんな風に記憶を芋づる式に引っ張り出し、しかしやはり何故今その様な話を持ち出したのかが分からない。
そんな彼に、エリザベラが言葉を続ける。
「その時の言葉や状況と、今回の2人のやり取りには類似点が多いのです」
その声にグランは首を捻る。
(類似点などと、一体何を言って……)
そこまで考えて、次の瞬間、グランは思わずハッとした。
例の2人には、婚約解消となったきっかけがあった。
そのきっかけが当時の社交界で広く噂され、次第にその時の出来事から『暗黙の了解』が一つ出来上がったのだ。
それが。
「令嬢のドレスを汚して『着替えてこい』と言う事は、『お前にこの場は相応しくないからとっとと此処から立ち去れ』という暗喩……」
思考の一部が、思わず口から零れ落ちた。
すると、エリザベラは青い顔で彼に向かって頷いてみせる。
「その暗喩に従えば、噂の『追い出した』という部分もあながち間違いでは無くなります。そうなれば――」
エリザベラの声は、最後まで言葉を言い終える前に掻き消えた。
しかし、その先は聞かずとも分かる。
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