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第一章:奔走する者と、機を待つ者。
第6話 筆頭執事・バエルの調査結果(3)
しおりを挟むオルトガン伯爵夫人といえば、社交会では有名な人物である。
主に、社交の熟練度において。
まるで最初から「相手がどうしてほしいのか」「どうしてもらったら嬉しいのか」が分かっているかの様に立ち回る。
結果としてそれは、相手を不快にさせることなく必要な情報を取る事に繋がり、時にはその先に両者にとっての『有益』を生む。
そんな彼女だから貴族達に好印象を与え、そのお陰で顔も広い。
そして顔が広いという事は、社交界における影響力の大きさにも直結する。
もしも本当に、そんな彼女の逆鱗に触れたのならば。
(噂の広がりは、今頃大変な事になっているだろう)
それは容易に予想できた事だった。
だから次の言葉を聞いた時、グランは驚きはしたものの、一方で納得もした。
「『クラウン様の不利になるような噂話』の及んだ範囲は、貴族達の約80%に上ります」
「80%……そんなにか」
その圧倒的な数値に、グランは思わずため息を禁じ得ない。
確かに「他人の失敗や不幸話」は、貴族達の大好物だ。
だからそういう話は大抵、通常よりも噂の広まりが早いのだ。
しかしそれにしたって、この期間で全体の約8割というのは高すぎる。
(これは、明らかに伯爵夫人が絡んでいるな)
しかも、そこには相手の本気度合いが窺える。
そしてそれについてはバエルも同意見だった。
「念のため複数の情報網を使って確認しましたので、この数値にはほぼ間違いありません」
告げられたその声は、苦々しさを隠せていない。
でも、すこし苦味の取れた声で「しかし」と言葉が続けられる。
「幸いにも、この件はまだ王族の方々の耳には入っていない様です」
「……それは今日聞いた報告の中で、唯一の僥倖だな」
そう応じたグランは、しかしその言葉とは裏腹にため息をつかずにいられない。
それは、バエルの言葉の中に「まだ」という言葉が付いてしまっているからだろう。
そしてグラン自身、その「まだ」に同意せざるを得ない。
早急にどうにかしなければ、その「まだ」という名の猶予期間が終わり『裁判』の場に引き摺り出されてしまうかもしれない。
これでは安堵など、出来るはずがない。
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