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第一章:奔走する者と、機を待つ者。
第7話 グランの悪知恵(1)
しおりを挟むグリムは、執務机の上へと視線を落とした。
そしてそのまま、5分経ったか、10分経ったか。
そうなってやっと、彼はゆるゆると視線を上げる。
「バエル、改めて確認がしたい。俺の質問に簡潔に答えろ」
「はい」
グランの有無を言わさない命令口調に、バエルが短くそう応じた。
するとグランは「まず、1つ目」と口を開く。
「『クラウンがセシリア嬢のドレスを汚した』という事実は、もう言い逃れ出来そうにないのだな?」
グランがまず思ったのは、「起きた事実をただの言い合いや喧嘩へとすり換える事が出来ないか」という事だった。
しかしそんな主人の願望を、バエルはすぐさま打ち砕く。
「両者のやりとりには目撃者が多くおります。『セシリア様のドレスが汚された』という事実は隠しようがありません」
そもそもセシリアの黄色のドレスに付いたのは、紫色のシミだった。
そのどうしようもなく目立つコントラストが、事実を無かった事にするのを許さない。
そんなバエルの声に、グランは「そうだよな」と独り言ちる。
今回の問題の根幹が、その事実だ。
その事実が噂上で揺らげば、この噂の信憑性も下がるし、問題の『王族案件』にも成り得ない。
(だからこそ「これが成れば」と思ったのだが)
その事実をぼかす事は、どうやら無理そうである。
そう結論づけて「2つ目」と続ける。
「セシリア嬢のドレスに付けられた汚れは、現在『故意にクラウンが起こした結果だ』という噂なのだな?」
次に考えたのは、「ならばせめてこれをクラウン過失にする事はできないか」いう事だった。
欲しいものを手に入れる為に行った、故意。
それだけでも自己中心的な印象なのに、よりにもよってその行動が『令嬢のドレスを汚す事』だ。
淑女に対して、おおよそ紳士が取るべき行動ではない。
そのため故意である以上、弁解の余地がない。
しかしそれは、逆に言うと「『故意である』という前提が崩れれば、まだ弁解の余地は残されている」という事でもある。
そして今大切なのは、実際に故意かどうかではない。
「周りに故意だと思われているかどうか」である。
が。
「はい、そのように噂がされております」
そんな希望の目を、バエルは主人の目の前で容赦無く摘み取った。
「どうやらシミを作った時のやり取りが、周りに『アレはあからさまな故意だ』と思わせるには十分な物だった様です」
当時、両者のやり取りの目撃者た数多く存在した。
その時に各々が抱いた共通認識がソレらしい。
しかも目撃者が多い理由が「クラウンの声が大きかったから注目された」のだという。
それを聞いて、グランは頭を抱えずにはいられない。
「本当に、なんてバカな事をしてくれたのだ」
思わず、そんな本音がポロリと溢れる。
つまりクラウンは、公衆の面前で自ら自白をしたようなものだ。
これでは言い逃れもできそうにない。
グランは、深い深いため息をついた。
そして「……3つ目」と言葉を続ける。
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