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第一章:奔走する者と、機を待つ者。
第13話 愚痴る令嬢、漏れる苦笑(2)
しおりを挟む慣れた手つきで紅茶をティーカップへと注ぎ込み、今度は横に置かれていた小瓶を手に取って蓋を開ける。
その中に入っている液体を一滴だけ紅茶に垂らせば、湯気に混じって花の香りがふわりと辺りに広がった。
主人の前にティーカップを置けば、彼女はすぐさまそれ手に取り、一口飲んだ。
そしてフゥと、安堵にも似た息を吐く。
それは、まるできつく縛られた結び目が自然と緩んだかのようだった。
顕著だった疲れの色が少し和らいだその様子に、ゼルゼンも少しホッとする。
そしてリラックスしたセシリアの口は、さらに軽くなった。
「私だって『招待状にはきちんと返信をすべきだ』とは思うし、『しんどいから嫌』だなんて駄々が通じる訳ないって分かってる」
彼女は何も、答えを求めてこんな事を言っているのではない。
言ったところで何も変わりはしない。
しかし、そうと分かっていても言わずにはいられない。
そんな愚痴も中にはあるのだ。
だから「これは私にとっての『しなければならない事』だし」と口を尖らせて言うセシリアの言葉を、ゼルゼンはただ静かに聞いている。
「でも招待が増えた理由が理由なんだから、こんな事言っちゃうのも仕方がないと思うの」
そう言ってティーカップへと視線を落とせば、小さく揺らめく水面の向こうに、心なしか疲れの取れた自分を見つける。
そんな自分の何の気無しに眺めていると、ゼルゼンがここでやっと口を開いた。
「なぁセシリア、やっぱり増えた手紙はモンテガーノ侯爵が関係してるのか?」
その声に視線を上げ、彼を見る。
「十中八九、そうでしょうね。だって増えた招待状はどれも見事に『革新派』、中でもモンテガーノ侯爵に近い人達からの物ばかりだもん」
セシリアがさらりとそう言えば、ゼルゼンは思わず顔を顰めた。
「それはまた……この状況じゃ疑わない方が難しいな」
あからさますぎると、ゼルゼンが苦笑いする。
「きっと、侯爵は私を社交の場に引っ張り出したいのよ」
私、あれがからずっと社交に出てないから。
そう言って、セシリアは微笑む。
「でも、すぐにソレと分かってしまう様な工作をして、一体どんな成果が出ると思っているのか」
その笑顔には、母譲りで姉似の『氷点下』が覗いていた。
それを見て「これはいかん」と、ゼルゼンはここで『奥の手』を召喚する。
「厨房で作ってもらったんだ」
それはセシリアが大好きなオレンジピール入りのカヌレだった。
それを見つけたセシリアの目が、キラリと喜色に煌めく。
もうどこにも『氷点下』は無い。
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