【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜面倒な侯爵子息に絡まれたので、どうにかしようと思います〜

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第一章:奔走する者と、機を待つ者。

第17話 暗黙の了解(2)

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 勿論、彼女には第三、第四の選択肢も一応存在はした。
 しかしそれは全く現実的では無い。


 第三の選択肢は、自分で新しいドレスをすぐに用立てる事。
 しかしこんな事態を予測もしていなかった彼女に、そんな準備がある筈もない。

 それに、所詮は子爵家の令嬢だ。
 すぐさま新しいドレスを用立てる様な金の余裕も無い。


 第四の選択肢は、姉に対して「貴方が汚したのでしょう」と正論を突きつける事。

 しかしもしそんな事をしてしまえば、十中八九相手の権力によって子爵家は存亡の危機を迎えるだろう。


 結局、選べない選択肢など、無いも同然なのだ。



 令嬢が選べるのは、2つ。
 一つ目は、自由を棄てでも『公爵家の嫁』という立場を取る事。
 そして二つ目は、『愛する者の隣』を棄てて自分の自由を取る事。


 与えられた短い時間の中で、令嬢は考えた。

 そして、選んだ。


 令嬢は、婚約者を深く愛していた。

 しかしこの先いつまでも彼女の仕打ちに耐え、彼女の言いなりで居続ける事は、残念ながら出来そうに無かった。

 そしてその気持ちが姉にバレた瞬間、彼女はほくそ笑んで子爵家を追い落とすだろう。
 そう、確信していた。


 ――彼女が選んだのは、その場を立ち去る道だった。

 婚約者の姉にドレスを用立ててもらう事を、彼女は拒んだのである。


 そうして婚約者の姉の差し伸べた手を拒んだ令嬢は、その後案の定な理由で愛する人との婚約を、半ば一方的に解消させられた。

 婚約破棄というのは、貴族にとっては大きな汚点である。
 そしてそんな物を背負った貴族の人生は、いばらの道だ。
 
 婚約破棄の相手が公爵家という権力持ちならば尚更、おそらくもう縁談は望めないだろう。

 
 そして彼女の婚約者は、結局ただの一度だって彼女の事を表立っては庇う事はしなかったらしい。



 ――こうして一連の騒動は非常に後味の悪い形で幕を閉じた。


 しかしこういった話は、社交場では格好の餌である。

 他人の不幸は、甘い蜜の香りなのだ。

 その甘い香りに誘われた働き蜂達が噂を運び、真実を要約して簡略化したその『一文』は、この時期の社交界での流行となる。


『令嬢のドレスを汚して「着替えてこい」と言う事は、即ち「お前にこの場は相応しくないからとっとと此処から立ち去れ」という意味である』

 そしてあまりに囁かれすぎたが故に、その噂はやがて貴族の中での常識と化した。
 そしてその常識は、彼らの心に『暗黙の了解』として刻みつけられたのだった。

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