【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜面倒な侯爵子息に絡まれたので、どうにかしようと思います〜

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第一章:奔走する者と、機を待つ者。

第19話 貴方ならば、どうするか(1)

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「マルクさん」

 マルクの仕事の合間を縫って、ゼルゼンは彼の元を訪れていた。
 彼の声に振り返ったマルクはゼルゼンを視界に収めると「おや珍しい」という表情を浮かべる。

「どうしましたか?ゼルゼン」
「少しお伺いしたい事がありまして、今お時間宜しいでしょうか」

 そう問いかけてくる彼の目を、マルクは数秒間観察する。

(ふむ、どうやら敢えて私の手が空きやすい時間帯を狙って来様ですね。それほどまでに重要な事、ですか)

 真剣なその瞳からそんな風に察して、マルクはニコリと微笑む。

「良いですよ」

 そう言って、一旦仕事の手を一旦止めて彼と向き合った。



 マルクにとってのゼルゼンは、所謂『教え子』にあたる。

 オルトガン伯爵家の筆頭執事として得た知識やスキル、そして心構え。
 それらをゼルゼンに叩き込んだのが、彼だ。


 彼が今までに教鞭を振るったのは、キリル付きの執事・ロマナを入れたたったの2人だけである。

 そもそも筆頭執事という仕事が多忙なのだ。
 その合間に教えるのだから、多くの者に指導する時間はない。
 そしてそれ以上に、「その手前を割いてでも」と彼に思わせる事ができる若者は早々居ない。


 そのハードルを超えたのが、今までに2人だけだった。

 そういう事である。



 マルクがゼルゼンに教鞭を振るっていたのは、この秋までである。

 セシリアの社交界デビューに追従すると決まって以降は、ゼルゼンに対して指導と呼べる事は何もしていない。
 ゼルゼンの実力は既に合格ラインに届いていたし、彼自身、主人に追従するという事で通常業務以外にも色々と忙しくしていた。

 そしてそれに比例して、二人が会う頻度は減っていった。
 最近ではもう、仕事途中にたまたま姿を見る程度のものだったのだが。

(それがわざわざ足を運んだという事は、何か教えを乞いたい事でもあったのか)

 そんな風に予想を立てる。
 すると案の定、彼はこんな話を切り出した。

「先日の、セシリア様の社交界デビュー時の事についてなのですが」
「――あぁ、なるほど。聞きたいのは『どう対処すれば正解だったのか』という事でしょうか」

 話のさわりを聞いた。
 たったそれだけで、彼が何を気にしているのかが手にとる様に分かった。

 というのは、もしも自分が彼の立場だったなら、その部分が気になっただろうからである。


 そしてそれは図星だったようだ。
 「思わず」といった感じの苦笑が、マルクへと返される。

「……セシリア様のドレスが汚された、あの時。私はあの場所に、セシリア様のすぐ傍に居ました」

 それは報告を受けて、マルクも知っている。
 無言のまま目だけで頷くと、彼は少し悔しそうに顔を歪めた。

「しかし、セシリア様のドレスが汚されるのを回避する事が出来ませんでした」

 彼はそこまで言うと、ゆっくりと目を伏せる。


 その件については、勿論ゼルゼンからも報告があったが、ポーラからも報告を受けていた。

 だから知っている。
 その子息が汚した側は、使用人の控え位置からは丁度死角になっていた事を。

 
 
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