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第二章:初めての社交お茶会に出向く。
第11話 仕掛けてきたレレナ(1)
しおりを挟むヴォルド公爵のせいで突如として発生したそんな人知れずの奮闘劇に、クレアリンゼはすぐさま気づいてくれた様だった。
優しく握り込んでくれる右手が、ふわりと温かい。
その温かさに安心して、思わずホッと小さく息をつく。
母を見遣れば、そこにあるのは慈愛の瞳。
つい今まで巣食っていた怒りは、既に暖かな色に上書かれている。
そんな母の状態に今度は別の種類の安堵を覚えていると、今度は女性の方が話しかけてきた。
「初めまして、セシリアさん。私はヴォルド公爵夫人・レレナといいます」
そう言って、彼女はスッと片手を前に出してくる。
先程と同じ柔らかい声で、朗らかな笑顔を浮かべて。
「今後は社交でお会いする事も多くなりそうだし、夫のジンディアルト共々よろしくお願いしますね」
そうして告げられた言葉は、しかし全くもって柔らかくも朗らかでもなかった。
社交で会う事が増える。
それは「うちの派閥に取り込む気満々よ」と宣言しているも同じ、否、脅迫しているも同じ言葉だった。
オルトガン伯爵家は、派閥というものが初めてこの王国に誕生した時から、たったの一瞬もどちらか一方に所属したことが無い。
そんな家の令嬢がどちらかの派閥に取り込まれるなど、『面倒』以外の何物でもない。
しかしまさか「面倒そうなので遠慮しておきます」などと言える筈も無く。
「――こちらこそ、よろしくお願い致します」
一瞬の逡巡の後、セシリアは相手の仕掛けに『罠』を設置し返した。
大人が、大人気なくも子供に「派閥に入れる言質を取ろう」としてきた。
その事実に、セシリアが応戦した形だ。
(そちらがその気なら、こちらはそれを利用するだけ)
これを機会に、逆に彼女の判断力と観察眼の程度を計る。
つまりは、そういう事だ。
レレナに告げられた、その言葉は、セシリアが敢えて『相手の見解次第でどうとでも取れるもの』を選んだ結果である。
例えばそこに明らかな喜色が灯っていれば、夫人の『貴方はこちらの派閥に入りなさい』宣言に、セシリアが喜んで応じたと判断出来ただろう。
しかし実際には、そんな反応は見せなかった。
声には感情を乗せず、その微笑みも社交の場では決して珍しくは無い『少し低めの温度の微笑』。
それを心掛け、そしてセシリアは実際にそれを忠実に成せてもいた。
そして。
そういう状況下で彼女はコレを一体どう解釈するのか、それがセシリアが設置した『罠』の正体である。
こういう状況下でなら、相手はおそらく次の可能性をセシリアの中に見るだろう。
まず、彼女の言葉に対して『本当は喜んでいるが冷静に対処した』という可能性。
もしそれが真実ならば、セシリアを『大人顔負けの節度と自制心のある子供だ』と評価する事が出来る。
次に、彼女の言葉に対して『ただの社交辞令でその言葉に応じる気はない』と答えた可能性。
この場合、セシリアには公爵家に対する反抗の意志があるとも取れる。
そうなれば、彼女にとってのセシリアは潜在的な敵だ。
そして『罠』の成果は、セシリアの言葉に対する返答で十分に判断できる。
最後に。
(もしも彼女がセシリアの張った『罠』の存在さえも見破り、これに上手く対処して見せたのなら)
それは、彼女がセシリアにとっての『警戒すべき人物』である事の証明にもなる。
勿論その場合、『罠』自体は失敗に終わるが。
(その事実を早い内に身を持って実感できるんなら、それはそれで僥倖だ)
それは必ず、今後の糧になる。
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