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第1話 『悪役』らしく、私は笑う
しおりを挟む謁見の間。
その真ん中に、私は1人立たされている。
王族達が皆揃って座し、貴族達が控える。
そんな部屋の真ん中でみんなからの視線を一心に浴びて、私は王に懇願していた。
「私はその様なこと、決してしてはおりません! もう一度調査をし直していただければ――」
「うるさい黙れ! 言い訳をするなど、あまりに見苦しいぞ!」
私が勇気を振り絞って行った反論混じりの進言は、全てを言い終わる前に途中で遮られた。
その声のあまりの激しさに、思わずビクリと肩を震わせる。
「お前は私の婚約者としてあるまじき行いをした! 裏で国庫を荒らし、他貴族達には次期王妃としての権力を振りかざし、あまつさえ1人の令嬢に陰湿なイジメまでもを行った! 幾ら言い訳をしたところで、その事実は決して揺るがないぞ!」
王子から並べ立てられたそれらの罪状は、全て身に覚えの無いものだった。
しかし私は、それを奥歯を噛み締めながら聞いている事しかできない。
彼らに逆らう事は決して許さない。
お前は国のためではなく、王族の為に生きるのだ。
私は親に、そう言われて育てられた。
今やそれは、私の中では不文律。
そんな私にとって、彼の言葉は絶対だった。
聞き分けのいい子として存在し、決して逆らわず、時には目を瞑る。
そうやって、今まで私は自分の心に蓋をしてきた。
しかし、神からの祝福か、それとも悪魔の悪戯か。
そんな私に一つの転機が訪れる。
「お前は私の婚約者として、あるまじき言動をした。お前は今や『悪』でしかない!」
「せっかく目をかけてあげたというのに……」
「王太子との婚約を今ここで破棄し、明日の朝、公開斬首の刑に処する。それまでの短い時間、牢の中で精々自身の行いを省みるのだな」
王子、王妃に続いて、最後に王の声で沙汰が下された。
正式に下された沙汰に、周りがざわめいた。
しかしそんな事、正直今はどうでもいい。
(先ほど、なんと言いました……?)
私にとって今大切なのは、そっちじゃない。
――お前は『悪』だ。
王子の言ったその言葉が、頭の中をリフレインする。
今周りから与えられているのは、嫌悪や嘲笑。
突き刺さるそれらの悪意が言っている。
私たちは王子の言葉に賛同する、と。
その瞬間、私の中で何かのスイッチが切り替わった。
(私は今、この場の全員に『悪』である事を望まれている……?)
自分の中にあった感情枷が、大きな音を立てて弾け飛んだ気がした。
これまでの私は、彼らの言葉に、態度に、やりように、ずっとずっと我慢をしてきた。
しかし、もう耐える必要はない。
そう誰かに背中を押してもらったような気持ちになって。
(私は『悪』を、望まれている)
彼らにとっての『悪』とは、すなわち彼らへの反抗だ。
少なくとも今の私にはそう思えた。
そしてそれは、まるで夢の切符を得た様にも思えた。
「――なるほど」
か細く懇願する、そんな声を出す必要はもう無い。
だって周りが望む『悪役』は、きっと堂々と胸を張って『悪』を行う筈だから。
だからお腹に力を入れて、微笑を湛えて、まるで演説でもするかのようにハッキリと言葉を紡ぐ。
「貴方方が私に『悪役』を望むのなら、私はそれに答えましょう」
そう、いつもそうしてきた様に。
そうして浮かべられた笑みは、『悪役』におあつらえ向きの実に強い笑みだった。
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