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第2話 虐めていた、犯人は(2)
しおりを挟むすると殿下が「嘘をつくな!」と声を荒げた。
殿下は顔をカッと赤らめて、座っている椅子の肘置きを力任せに拳で叩いてこちらを威嚇してきた。
しかし『悪役』は、それに一ミリだって怯まない。
「嘘ではありません。それどころか私、その方の顔もお名前も未だにうろ覚えですし」
そもそも彼女と私の間に、接点は何一つとして存在しない。
殿下の近くに女性の影がある事には気付いていたが、それも「殿下が自らそばに置いている令嬢だ」と思えば、その意思に逆らう気には微塵もなれなかった。
もし私がほんの少しでも殿下に恋情を抱いていたのなら、もしかすると嫉妬の一つでもしたのかもしれない。
しかし彼に対してそんな類の感情は一度たりとも抱いた事がない。
私が殿下の婚約者であったのは、あくまでも「周りにそう望まれたから」。
それ以上でも以下でもないのである。
「そんな状態で、一体どうやってその令嬢1人だけをピンポイントで虐める事などできましょう」
そう告げて彼へと首を傾げてみせれば、彼は一層顔を怒りで染めて声を荒げた。
「覚えていないだとっ! 無礼だぞ!」
叫ぶような声に私は、今度は演出でもなんでもなくただ素直に首を傾げる。
無礼?
おかしな事を言う、と。
虐められていたというその令嬢の事を知ったのは、私にあらぬ容疑が掛けられた後だった。
不躾に交わされる、私に関する噂。
その声達が、皮肉にも私に様々な情報を与えてくれたのだ。
――王子の婚約者である侯爵令嬢が、まさかつい先日男爵家の養子に入ったばかりの平民上がりに嫉妬して、あまつさえ虐めるだなんて。
そんな囁気を、私は今でも一言一句違えずに覚えている。
そしてその情報の信憑性は、後に為された多くの人達の囁きによって私の中で確かなもへと引き上げられた。
そして、だからこそおかしいのだ。
「公爵令嬢である私が、先日平民から上がったばかりの男爵令嬢の顔を覚えていない事に、一体どんな無礼があるというのです?」
貴族社会に照らし合わせれば、それは必ずしも無礼ではあり得ない。
それに、こういう時だけ自分の事を棚に上げてもらっては困る。
「もしそれを無礼と断じるのであれば、殿下はこの国に住む全ての貴族と名前を覚えていないといけない事になりますが――」
そこまで言うと、私は口の端を釣り上げながら。
「男爵どころか伯爵位の貴族でさえ、パーティーの折に逐一私に『あれは誰か』と尋ねられる殿下は、一体どの程度までご存知なのでしょうね……?」
こんな言葉を彼に放った。
彼はきっと、ほとんど覚えてなどいない。
そう、確信した上で。
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