【完結】侯爵令嬢は破滅を前に笑う

黒塔真実

文字の大きさ
16 / 67
第二章「勇気ある者は……」

8、白百合の乙女

しおりを挟む
 セドリックの疑問に私は瞬間的に叫んで答える。

「好意? 止してよ!
 デリアンは口先だけで、内心ではずっと私の愛を重たいと疎ましく思い、愛するどころか嫌っていたのよ」

 今度はセドリックが長い銀髪を揺らして大きくかぶりを振る。

「いいやそんなことは有り得ない!   君を見る彼の瞳はつねに愛情がこもっていた。
 いつだか、エティーの華やかな容姿を周囲が誉めていた時にも、デリアンがこっそり君に、自分は白く清楚な花のほうが好きだと言っていたのを、この僕はたしかに耳にした……!
 数年前、新しいドレスを着ていた君をエティーが水たまりに突き飛ばした時だって、彼は酷く怒っただろう?
 なぜか幼い頃から君を目の仇にするエティーの攻撃から、彼はいつだって君を庇って守ろうとしていたのに…… 今では一緒になって君を傷つけているだなんて、僕にはとうてい信じられない!」

 セドリックが言うように、デリアンは寡黙で禁欲的でありながら、いつも大事な場面ではきっちり私を庇い優しい言葉をかけてくれた。

『俺は赤い薔薇より白百合のほうが好きだ』

 しかしそんなかつては思いだすたびに胸の中で甘く響いたデリアンの言葉も、今となっては心の憎しみの炎にさらに怒りの燃料をくべるだけ。

「私だって同じように、デリアンの口から直接本音を聞くまで信じられなかったわ!!
 死んだほうがスッキリすると言われるまでに、自分が邪魔な存在だと思われていただなんて!!」

 私は大声で叫ぶと、怒りに激しく身を震わせ、セドリックの肩口に顔を埋める。

「……シア、ごめん、泣かないで……」

「泣いてなどいないわ!」

 あんな男のためにもう泣くものですか。
 だいいち、すでに涙など枯れ果てた。
 私は気を静めるように大きく深呼吸する。

「……今は私のことなんかより……あなたのことよ……セドリック……身体はどこもなんともないの?」

「大丈夫、怪我一つしていないから安心して――と、そうだ、ちょっと待ってて!」

 そこでセドリックは思いついたように私から身を離し、部屋の端に行って、大量の毛布を抱えて戻って来ると、絨毯のように床の上へと何層も丁寧に敷き重ねた。

「――立ち話もなんだから、さあシア、ここに座って。
 凍死防止のためだと思うけど、毛布だけはたくさんあるんだ」

 促されるままに私が腰を下ろすと、合わせてセドリックも隣にぴったりとくっついて座り、二人一緒に入るように上から毛布をかぶる。

「ありがとう、温かいわ」

「うん、温かいね」

 深く溜め息をつくと、私は改めて薄暗く底冷えする牢屋内を見回す。

「セドリック……情けないどころか、ずっとこの何もない空間に半年も一人でいて、正気を保ち続けていられるあなたは凄いと思うわ」

「そうでもないよ……たまにレイヴンが本を持ってきてくれるから。
 今も毛布の下に5冊ぐらい隠してあるんだ」

「レイヴンが?」

「うん、それも貴重な古代語と魔法書の本をね……!
 おかげでこの半年間で簡単な魔法なら使えるようになったよ」

 魔法の呪文は神語とも呼ばれる古代語で詠唱する必要があるのだ。

「簡単であっても魔法を使えるようになるなんて凄いわ。あなたは昔から物覚えが良く賢かったものね!」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...