【完結】侯爵令嬢は破滅を前に笑う

黒塔真実

文字の大きさ
18 / 67
第二章「勇気ある者は……」

10、黒き破滅の花

しおりを挟む
「脱獄なんて……本気なの、シア?」

 驚きの表情を浮かべるセドリックに、守護剣を差し出しながら私は強く頷きかける。

「もちろん本気よ。これは『天啓』なんだわ。
 ようやく私は今、自分がこの剣に選ばれた理由が分かった。
 セドリック、あなたにも昔話したでしょう? 私の前にこの剣の使い手だった者の運命を――」

 セドリックは少し遠い目をして、重い表情で頷いた。

「ああ、印象深い話だったから憶えているよ。ただ一人、バーン家の敵側に回り、アスティー王国と最後の王とともに滅んだ女剣士の話だよね」

「ええ、裏切り者を許さないバーン家は、当然ながら彼女を全力で追い詰めた――
 しかし一族最強の剣の使い手である彼女は、逆に多くの者を返り打ちにして、血を分けた親兄弟までをもこの剣の血のりに変えた」

「……」

「果たして剣が運命を呼んだのか、運命が剣を呼んだのか分からないけど、私はきっと一族と敵対する定めだったからこそ、この剣に受け入れられたんだわ。
 さっきも言ったけど、私はあの二人が上に立つ王国には死んでも仕える気はない。
 たとえあなたがどう選択しても、私は家族とたもとを分かち、デリアンとエルメティアの敵側に回るわ!」

「……そんな……シア……!?」

「だけどあなたに私と運命を共にしてくれと頼むことはしないわ。
 両親の会話を漏れ聞いたところによると、シュトラス王国のギディオン王は、アスティリア王国に孫であるあなたの身柄引き渡し要求をしているそうよ」

「祖父が?」

 内乱中に亡くなった前王妃であるセドリックの母親は、強国シュトラスの「三つの宝石」と呼ばれる美貌を誇る三人の王女の一人。
 シュトラス王国のギディオン王は二番目の娘をこのアスティリア王国、三番目の娘をレイクッド大公国に嫁がせることで、婚姻によって近隣三国の友好関係を築いていた。
 二年半前この国で反乱が起こった際もギディオン王は鎮圧のために、娘婿のエリオット3世を資金や兵力で強力に支援したのだ。

「私は政治のことはよく分からないけど、内乱後、つねに三国間は緊張状態で、このままいくと近く戦争が起こるのではないかという噂されている。
 父もあなたが殺された時点で、ギディオン王がそれを口実に開戦することを懸念していた」

 セドリックは大きく息を飲み、瞳を揺らして疑問を口にする。

「その各国間が緊張している状態で、なぜ叔父はエティーにイヴァンではなくデリアンを結婚相手に選ぶことを許したのだろう?」

 レイクッド大公の嫡男であるイヴァンは、ギディオン王の孫の一人でもある。
 私も幼い頃にルーン城へ遊びに来ていたイヴァンとは何度か遊んだことがある仲だ。

「さあね。同族嫌悪なのか、エルメティアは我がままで癇癪持ちのイヴァンを子供の頃から毛嫌いしていたもの」

「そんな……もう婚約発表は明後日だ……!?
 一昨日顔を出した時にエティーが楽しそうに、四日後に催される自分の誕生パーティーの席で、デリアンとの婚約を正式に発表する予定だと言っていた……。
 イヴァンは当然呼ばれているだろうし、婚約の知らせはすぐにギディオン王やレイクッド大公の耳にも届くだろう」

 セドリックの台詞で、私は二、三週間前に受け取ったエルメティアの誕生記念パーティーの招待状の存在を思い出した。
 それでデリアンは私との婚約を焦って解消したのかと、今更ながら舌打ちして考えていると、私の心を読んだようにセドリックがつけ足す。

「当初エティーは、その誕生パーティーの席でデリアンに君への婚約解消を告げさせたあと、自分との婚約を発表をするという劇的な流れにしたかったらしい。
 デリアンに断固として断られたと笑って言っていたよ」

 デリアンはバーン家との関係悪化を避けて、私を晒し者にすることを回避したのだろう。

「いかにも悪趣味なエルメティアらしいわね」

「……そうだね……」

 いったん言葉を受けたあと、セドリックは話題を戻す。

「でも、そうか……シアのおかげで、やっと僕がいまだに殺されていない理由が分かった。
 祖父は抜け目のない人だ。僕の身柄を要求するなら当然それに伴って、暗殺や処刑をしないように叔父に釘を刺しているはずだ」

「いずれにしても、脱獄するよりこの牢屋にいたほうが、あなたは長生きできる可能性が高いわ。
 私にしても純粋に友人としてあなたを逃がしてあげたいというより、現在の王権にとって最大の『火種』であるあなたを解き放ち、デリアンやエルメティアの立場を脅かしたい気持ちのほうが強いし――」

「ずいぶん……率直にものを言うんだね」

 先月エルメティアに先んじて、獄中で19歳の誕生日を迎えていたセドリック相手には、よけい皮肉がきいて聞こえただろう。

「たった一人の親友のあなたに嘘偽りや隠しごとなんてしないわ。
 ――だから自分で考えて、選んで、セドリック。
 私と来るか、ここに止まるか――」

「――!?」

 まっすぐセドリックを見据えて返事を待ちながらも、私は心の中で憎き二人に語りかける。

 デリアン――あなたは庭で私のことを『悩みの種でしかない存在』と話していたけど、これまでの悩みといえばせいぜい、エルメティアとの婚約にケチがつくのと、バーン家との関係が悪化する程度のことだったでしょう?。
 だけど、これから私は生涯をかけてあなたを『破滅させる存在』となり、深い悩みの種として死ぬまで苦しめてあげる。

 エルメティア――あなたはたしか私のことを『そんな惨めな姿を晒して生き延びるぐらいなら死んだほうがマシだわ』とあざ笑ってくれたわよね?
 だからそのお礼返しに、これから私は『死んだほうがマシなぐらい』の惨めさと生き地獄をあなたに提供すべく、最大限度の努力を重ねてみせるわ。

 暗い決意を浮かべて笑う私の顔をセドリックが絶句して見返し、お互いの顔をしばし無言で見詰めあっていたとき――
 ズシン、ズシン、と通路側から近づく重たい足音が聞こえてきた。
 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...