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第五章「苦しみを終わらせる者」
5、苦しみを終わらせる者
しおりを挟む「お前も神剣の持ち主なら分かるだろう。剣の性能に差があるからだ」
「剣の……性能……差?」
「ああ、狂戦士の剣は強さのために全てを捨てた英雄の魂がこもった強力な魔法剣ではあるが、神の加護を受けた神剣は別格だ。
なにしろ剣の能力差は実力や腕力差を補っても余りある。そもそも戦いが互角ではないのだ」
つまり軍神の剣より狂戦士の剣が劣っていると?
馬鹿な。そんなわけがない。
間違いなく、デリアンと剣をぶつけあった時に感じた威力は、私の守護剣に匹敵するものだった。
――まさか、デリアンの剣の性能も上がっている?
「しかし数百年ぶりに現れた戦女神の剣の使い手が、よりによってお前のようなイカレた女だとはな……虫も殺さぬ顔をして、つくづく恐ろしい……」
レスター王子は苦虫を潰したような顔をして酒を一気に飲み干した。
そこでカエインが初めて会話に口を挟める。
「レスター、お前は何も分かっていない。その微塵も虚飾のないところがシアのたまらない魅力なのに」
毎度ながら、言われているこっちが恥ずかしい。
「つくろうほうがまだ女として可愛げがある!」
ふん、と鼻を鳴らしたレスター王子を、カエインはあざ笑うような表情で眺める。
「まあ、理解できないのも無理もない。なにせシアはお前ごときの手に負える女ではないからな。
ちょうどお前には、そこの綺麗なだけで中身のない人形みたいな姫君がお似合いだ」
「なっ、貴様……!」
顔を真っ赤にしてレスター王子が立ち上がる。
私は溜め息をついてカエインを注意し、向かいの席から王や王太女もレスター王子をいさめた。
これ以上揉めるのも面倒だし、セドリックのことが気になって仕方がなかった私は、さっさと食事を終えて席を立つ。
「疲れたので、おいとまさせて頂きます」
退席の挨拶を済ませると、すかさず続こうとするカエインを制止する。
「悪いけど、一人でセドリックの様子を見に行きたいの」
「……そうか。仕方がないな……。あまり遅くなるなよ……」
「ええ」
生返事した私は、去り際、忘れずギモスに声をかけ、セドリックの部屋の位置を確認しておく。
そうして、迷うことなく目的の部屋へと到着したのはいいものの、中から響いてくる吠え声のような号泣に、しばし扉を開くのがためらわれた。
入るに入れず扉を見つめていると、急に泣き声が止んで静かになる。
「セドリック、私だけど、入ってもいい?」
声かけしながら扉を開いてみたところ、部屋の隅の暗がりでセドリックが床にうずくまっていた。
「……シアか……ああ、いいよ……」
俯いていて顔は見えないが、声は枯れてガラガラで、銀髪はぐちゃぐちゃに乱れていた。
近づいていく私に、セドリックが語りかけてくる。
「……ねぇ、シア。……両親は……仇を取ろうとしない僕を……さぞや不甲斐なく思っていただろうね……」
まだ泣いているのか、ぶるぶるとセドリックの身体も声も震えていた。
私は急いで歩み寄ると、力づけるように肩に手を置く。
「そんなことないわセドリック。本当の意味で心が強いあなたをご両親は誇りに思っているはずよ。
現に憎悪ですっかり心が歪んで濁りきった私と違い、あなたの心はどんな境遇に遭っても、まっすぐで澄みきったままだった。これまで一度だって自分を虐げた者にたいする恨み言を口にしなかった」
セドリックは私の手の上に、指の長い手を重ねてぎゅっと握った。
「……昔から、そんな風に僕のことを言ってくれるのは、両親以外はシアだけだ……。
どうしてそんな君を、愛さずにいられる?」
あるいは私もデリアンさえいなければ、とっくにセドリックを好きになっていたかもしれない。
だけど今も呪いのように前世の誓いが心を縛り続けている。
「私のほうこそ。幼い頃からお互いを理解し合えるのは、たった一人、あなただけだった……でも、ごめんなさい、私は……」
「分かっている!」
遮るように言って立ち上がったセドリックは、予想に反してもう泣いてはいなかった。
私の手をきつく握り直してまっすぐ見下す緑色の瞳には、涙のかわりに、今まで見たこともないような強い光が浮かんでいる。
「君の心がデリアンにとらわれている限り、決して僕の想いが受け入れられることがないことは分かっている。
だからこそ僕は今ここに誓う。
伯母が言うように、獣以下のリューク王を絶対に許しはしない。
父の、母の無念を、必ずこの手で晴らしてみせる。
そしてもちろんあの男に組する者も僕の敵だ。
――デリアンもこの僕が倒し――シア、君の心の闇を解いて苦しみを終わらせてみせる!」
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