42 / 67
第五章「苦しみを終わらせる者」
6、決意の光
「デリアンを倒す……?」
とてもセドリックの口から出たとは思えない強気な台詞だった。
「ああ……! 君の苦しみの元を絶ち切りたい」
豹変ぶりにとまどいながらも私は正直な感想を言う。
「止してよ……セドリック……あなたには無理だわ……」
しかし、セドリックは一歩も引かず、燃えるような瞳を向けてきた。
「いいや、無理じゃない!
牢獄にいる間レイヴンから借りた書物の中に書いてあった。
魂を燃やす魔法剣の力は、使い手の『想い』の強さに比例すると。
僕の決意と、君への愛は、決してデリアンにも誰にも負けやしない!
誰であろうと立ち塞がる敵は打ち倒し、王位を取り戻した暁には君を妻に娶って幸せにする!」
宣言するように言って、セドリックは腰から『聖王の剣』を抜き放った。
――瞬間、強烈な純白の光が起こり、一斉に放射される――
「うっ……!?」
瞳だけではなく、なぜか心臓まで焼くようなまばゆい光に呻きながら、本能的に悟る。
この真白き光は、私の守護剣が纏う黒炎を浄化する性質のものだと。
思わず掴まれていた手を振りほどき、胸を押えて涙目で懇願する。
「……お願い、セド、眩しいから、その剣をしまって……!」
慌てたようにセドリックが謝る。
「ごめん。シア、大丈夫?」
私はといえばろくな返事もできず、肩で呼吸しながら近くの寝台に腰を下ろす。
てっきり今のセドリックは、私のように心の中が恨みの感情でいっぱいだと思ってたのに。
まぎれもなくその瞳と剣に輝くのは「正義」と「愛」の光。
一番心が近かったはずの幼馴染にして親友は、みごと負の感情を乗りこえ、至純の光を抱く遠い存在になったのだ。
ならば寂しくてもその光を濁らせないよう、心の距離を置かねばならない。
素早く思考した私は、光が引いたのを確認してから立ち上がり、セドリックの顔を睨みつけた。
「勘違いしないでセドリック、あなたの想いなんかよりずっと、私のデリアンへの憎しみは深いわ。
直接この手でデリアンに借りを返さない限り、死んでも恨みが晴れないと断言できるほどにね!
それと、王妃なんて重責を負うぐらいなら、私は気楽なカエインの愛人になる道を選ぶわ」
最後の部分は本心ではないが、セドリックにも叶わぬ夢は見せたくない。
私の完全な拒絶の言葉に、セドリックは蒼ざめ息を飲む。
「……そんなっ……シア……!?」
言うべきことを言い終えたあとは、もはや私の慰めなど必要でないぐらい強くなった彼から離れるため、急いで廊下へ飛び出す。
そうして火傷したような胸を抱え、あてがわれた部室へ戻ると、なぜか上機嫌な笑顔を浮かべるカエインが中で待っていた。
「遅かったな、シア」
すでにこの男につきまとわれるのに慣れきっていた私は、無言でベッドまで行って腰を下ろす。
「……ちょうど、いいわ。少し聞きたいことがあったの……」
「何なりと質問してくれ」
カエインも私の横に来て、長い脚を組んでベットに座る。
「魔法剣の強さについてよ」
デリアンの剣もそうだが、今見たセドリックの剣からも私の剣に匹敵するほどの力を感じた。
「……ああ、そういえば諸説伝わっているので仕方がないとはいえ、先ほどレスターが間違った知識を披露していたな」
「間違いなの?」
「まあな、たしかに魔法剣の性能には優劣があるが、狂戦士の剣は神と名がつく剣と同じ、かつて魔法の塔にいた俺の祖先が打った最上級の剣の一つだ。ついでに言うと、セドリックが持つ『聖王の剣』含める、王と名がついた剣もな」
「だったら、なんでレスター王子と戦ったとき、デリアンの剣は力を出し切れなかったの?」
私の疑問にカエインは淀みなく答える。
「それはまだ守護剣が覚醒していなかったからだ。最上位の魔法剣はただ使いこなせるだけでは真の力は開放されない。それぞれ覚醒条件があるのだ」
「覚醒条件?」
「そうだ、まず前提として、神と名のつく剣は、それぞれが冠する神の血を受け継ぐ者しか使い手に選ばない。
神剣が特別強いとされているのも、単に扱う者の霊力が純粋な人より高いから。ようは魂の資質の問題で、神の加護や剣の性能差は関係ない」
すると一族に伝えられている、バーン家が戦女神の末裔だという話は真実だったということか。
「その上で本題に入るが、剣を覚醒させるために必要な条件は二つある。一つ目は剣の持ち主として相応しい能力と人格を備えていること。そして二つ目が守護剣の問いに答えることだ」
私はすぐに思い当たる。
「……それって、剣に書いてあった文句のこと?」
「ああ、そうだ。あの文言が書かれているのは、覚醒することができる魔法剣のみ。お前の戦女神の剣なら『戦う意志と覚悟』を問うものだったはずだ」
それが守護剣の柄に最初あった『勇気ある者はこの剣を取れ』という言葉の意味か……。
守護剣に刻まれている文字は使い手本人のみにしか見えないが、セドリックもその問いに答えたからこそ覚醒させることができたのだろう。
そこまで理解したところで、また新たな疑問が複数起こる。
「じゃあ、レスター王子の剣が私の剣より弱かったのも、覚醒していないから?」
「いや、軍神の剣は覚醒しているし、レスターもお前が思っている以上に強い。
ただし戦いの双子神は兄が妹を溺愛していた関係で、軍神の剣は戦女神の剣と戦うときのみ力が加減される特性がある」
意外な真実に私は驚く。
「じゃあ、レスター王子は私が相手だと弱いってこと?」
「そうだ。さらにつけ足すと、剣の性質は持ち主の精神状態にも影響を及ぼす。軍神は妹神に#__懸想__けそう__#していたので、レスター王子も自然にお前に惹かれてしまうのだ」
むしろレスター王子には嫌われていた気がしたが、それが事実なら物凄く迷惑な話だ。
「同様にお前がデリアンに惹かれるのも神話にある通り、戦女神が狂戦士の剣の元となった英雄に惚れていたせいだ」
すると前世だけではなく二重の因縁にとらわれていた? ――ということは――
「まさか、戦女神の剣は狂戦士の剣にたいして弱いってこと?」
とてもセドリックの口から出たとは思えない強気な台詞だった。
「ああ……! 君の苦しみの元を絶ち切りたい」
豹変ぶりにとまどいながらも私は正直な感想を言う。
「止してよ……セドリック……あなたには無理だわ……」
しかし、セドリックは一歩も引かず、燃えるような瞳を向けてきた。
「いいや、無理じゃない!
牢獄にいる間レイヴンから借りた書物の中に書いてあった。
魂を燃やす魔法剣の力は、使い手の『想い』の強さに比例すると。
僕の決意と、君への愛は、決してデリアンにも誰にも負けやしない!
誰であろうと立ち塞がる敵は打ち倒し、王位を取り戻した暁には君を妻に娶って幸せにする!」
宣言するように言って、セドリックは腰から『聖王の剣』を抜き放った。
――瞬間、強烈な純白の光が起こり、一斉に放射される――
「うっ……!?」
瞳だけではなく、なぜか心臓まで焼くようなまばゆい光に呻きながら、本能的に悟る。
この真白き光は、私の守護剣が纏う黒炎を浄化する性質のものだと。
思わず掴まれていた手を振りほどき、胸を押えて涙目で懇願する。
「……お願い、セド、眩しいから、その剣をしまって……!」
慌てたようにセドリックが謝る。
「ごめん。シア、大丈夫?」
私はといえばろくな返事もできず、肩で呼吸しながら近くの寝台に腰を下ろす。
てっきり今のセドリックは、私のように心の中が恨みの感情でいっぱいだと思ってたのに。
まぎれもなくその瞳と剣に輝くのは「正義」と「愛」の光。
一番心が近かったはずの幼馴染にして親友は、みごと負の感情を乗りこえ、至純の光を抱く遠い存在になったのだ。
ならば寂しくてもその光を濁らせないよう、心の距離を置かねばならない。
素早く思考した私は、光が引いたのを確認してから立ち上がり、セドリックの顔を睨みつけた。
「勘違いしないでセドリック、あなたの想いなんかよりずっと、私のデリアンへの憎しみは深いわ。
直接この手でデリアンに借りを返さない限り、死んでも恨みが晴れないと断言できるほどにね!
それと、王妃なんて重責を負うぐらいなら、私は気楽なカエインの愛人になる道を選ぶわ」
最後の部分は本心ではないが、セドリックにも叶わぬ夢は見せたくない。
私の完全な拒絶の言葉に、セドリックは蒼ざめ息を飲む。
「……そんなっ……シア……!?」
言うべきことを言い終えたあとは、もはや私の慰めなど必要でないぐらい強くなった彼から離れるため、急いで廊下へ飛び出す。
そうして火傷したような胸を抱え、あてがわれた部室へ戻ると、なぜか上機嫌な笑顔を浮かべるカエインが中で待っていた。
「遅かったな、シア」
すでにこの男につきまとわれるのに慣れきっていた私は、無言でベッドまで行って腰を下ろす。
「……ちょうど、いいわ。少し聞きたいことがあったの……」
「何なりと質問してくれ」
カエインも私の横に来て、長い脚を組んでベットに座る。
「魔法剣の強さについてよ」
デリアンの剣もそうだが、今見たセドリックの剣からも私の剣に匹敵するほどの力を感じた。
「……ああ、そういえば諸説伝わっているので仕方がないとはいえ、先ほどレスターが間違った知識を披露していたな」
「間違いなの?」
「まあな、たしかに魔法剣の性能には優劣があるが、狂戦士の剣は神と名がつく剣と同じ、かつて魔法の塔にいた俺の祖先が打った最上級の剣の一つだ。ついでに言うと、セドリックが持つ『聖王の剣』含める、王と名がついた剣もな」
「だったら、なんでレスター王子と戦ったとき、デリアンの剣は力を出し切れなかったの?」
私の疑問にカエインは淀みなく答える。
「それはまだ守護剣が覚醒していなかったからだ。最上位の魔法剣はただ使いこなせるだけでは真の力は開放されない。それぞれ覚醒条件があるのだ」
「覚醒条件?」
「そうだ、まず前提として、神と名のつく剣は、それぞれが冠する神の血を受け継ぐ者しか使い手に選ばない。
神剣が特別強いとされているのも、単に扱う者の霊力が純粋な人より高いから。ようは魂の資質の問題で、神の加護や剣の性能差は関係ない」
すると一族に伝えられている、バーン家が戦女神の末裔だという話は真実だったということか。
「その上で本題に入るが、剣を覚醒させるために必要な条件は二つある。一つ目は剣の持ち主として相応しい能力と人格を備えていること。そして二つ目が守護剣の問いに答えることだ」
私はすぐに思い当たる。
「……それって、剣に書いてあった文句のこと?」
「ああ、そうだ。あの文言が書かれているのは、覚醒することができる魔法剣のみ。お前の戦女神の剣なら『戦う意志と覚悟』を問うものだったはずだ」
それが守護剣の柄に最初あった『勇気ある者はこの剣を取れ』という言葉の意味か……。
守護剣に刻まれている文字は使い手本人のみにしか見えないが、セドリックもその問いに答えたからこそ覚醒させることができたのだろう。
そこまで理解したところで、また新たな疑問が複数起こる。
「じゃあ、レスター王子の剣が私の剣より弱かったのも、覚醒していないから?」
「いや、軍神の剣は覚醒しているし、レスターもお前が思っている以上に強い。
ただし戦いの双子神は兄が妹を溺愛していた関係で、軍神の剣は戦女神の剣と戦うときのみ力が加減される特性がある」
意外な真実に私は驚く。
「じゃあ、レスター王子は私が相手だと弱いってこと?」
「そうだ。さらにつけ足すと、剣の性質は持ち主の精神状態にも影響を及ぼす。軍神は妹神に#__懸想__けそう__#していたので、レスター王子も自然にお前に惹かれてしまうのだ」
むしろレスター王子には嫌われていた気がしたが、それが事実なら物凄く迷惑な話だ。
「同様にお前がデリアンに惹かれるのも神話にある通り、戦女神が狂戦士の剣の元となった英雄に惚れていたせいだ」
すると前世だけではなく二重の因縁にとらわれていた? ――ということは――
「まさか、戦女神の剣は狂戦士の剣にたいして弱いってこと?」
あなたにおすすめの小説
【完結】愛とは呼ばせない
野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。
二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。
しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。
サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。
二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、
まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。
サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。
しかし、そうはならなかった。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
【完結】試される愛の果て
野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。
スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、
8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。
8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。
その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、
それは喜ぶべき縁談ではなかった。
断ることなったはずが、相手と関わることによって、
知りたくもない思惑が明らかになっていく。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています