【完結】侯爵令嬢は破滅を前に笑う

黒塔真実

文字の大きさ
49 / 67
第六章「結びあう魂」

4、それぞれの決意

しおりを挟む
「ねぇ、カエイン、リューク王が持つ『武王の剣』は覚醒しているの?
 それとあなたの祖先が打った最上級の魔法剣で、現在使い手がいるのは何本?」

 見上げて問うと、カエインは金色の瞳を細め、少し嬉しそうな顔で答える。

「まずリューク王はとっくの昔に覚醒している。
 そして神の名がつくのはシアとエティーとレスター、王の名を冠する剣はセドとリューク王が持つもののみ。 
 他に俺の祖先が打った剣で国内にあって使い手がいるのは、デリアンの狂戦士の剣だけだ」

 ということは覚醒した魔法剣は、向こうもこちら側も三本ずつか……。
 先の内乱で兵数がまさっていたのにエリオット3世が敗北続きだったのは、王弟派に三つの最上級の剣が揃っていたせいだろう。

 つまりこちらの軍の被害を減らすためには、相手の軍の覚醒剣持ちを優先して殺さねばならない。
 セドリックも私と似たような考えに至ったらしく、はっきりとした声で明言する。

「僕はまっすぐリューク王を倒しに行くつもりだ」

 レスター王子がそれに続く。

「じゃあ、俺はデリアンの元へ直行して首級をあげ、アレイシアへの求婚の捧げものにしよう」

 セドリックはレスター王子をはっとしたように眺めたあと、急に表情を引き締めて一堂を見渡した。

「レスターとカエイン、他の方々も聞いて欲しい。
 僕は王位を奪還しだい、ここにいるアレイシア・バーンを王妃に迎えるつもりだ。
 そして二人で力を合わせてアスティリアを治め、平和を守ってゆこうと思う」

 思いやり深いセドリックらしくない、完全に私の気持ちを無視したその公言は、これまでとは違う確固たる意志の表れのようだった。
 皆が驚いたように言葉を失うなか、バーモント公が最初に賛意を示す。

「戦女神の申し子たる伝説の剣の持ち主ならば、聖王セドリック様の妻に相応しいかと」

「王の結婚祝いムードで、内乱後の暗い空気も一気に払拭されましょう」

 サックス伯が追従したところで、どうにもいたたまれなくなった私は、退席するために立ち上がり挨拶する。

「申し訳ありませんが、お先に失礼させて頂きます」




 テントに戻って中に入ると同時に横から腕を掴まれた。

「まさか本気で王妃の座を受け入れる気ではないよな?」

 首だけ回してカエインの顔を見ると、ばっと腕を振りほどく。

「単に大事な会戦前に、人前でセドリックに恥をかかせて最高司令官としての威信に傷をつけたくなかっただけよ。
 私は誰の求婚も受けないし、復讐を果たしたあとはアスティリアを出ようと思ってるわ」

 離れがたい思いはあっても、セドリックに私は相応しくない。
 その純粋な輝きが曇らないよう、戦いが終わったあとは速やかに離れなくては――

 切ない溜め息をつき、敷物の上に腰を下ろすと、カエインも私に並んで長い脚を崩して座りこむ。

「もしも復讐を達成できなかった場合は?」

 私は愚問だとばかりに鼻で笑う。

「どうもこうも、そうなったら死ぬだけだわ。
 討ち死にできれば本望。もしもデリアンが他の者に殺された場合は急いで後追いするまでよ。
 どちらにしてもカエイン、私が死ぬのをもう絶対に邪魔しないでね?」

 語尾を強めて言うと、カエインはまるで針を飲み込んだような表情になった。

「分かっている。冥府で俺は、愛にかけてシアの意志を尊重すると誓ったからな。
 でもくれぐれも忘れないでくれ。それはあくまでも『傍にいたいなら』という条件つきだったことを。
 代わりに俺はこの先も永遠にシアと一緒にいるからな」

「死んでもってこと?」

「そうだ。また生まれ変わってもだ」

 悪夢のようにうんざりする話だが、カエインの真顔から判断して、頷かないと死ぬことは許されないらしい。

「仕方ないわね。ただし、何度生まれ変わろうとも、永遠にあなたを愛することはないわよ?
 自分を愛さない相手と一緒に居ても虚しいだけだし、だいいち賢者の珠を継承させることができないんじゃないの?」

 カエインは静かにかぶりを振った。

「虚しくなどない。俺がシアを愛していれば充分だ。
 愛する者の傍にいられるなら、賢者の珠のことなどどうでもいい。
 ――その境地に至るのに、300年以上もかかってしまったがな」

 そう言って苦笑したカエインの金色の瞳には、滲むような温かな光が浮かんでいた――

しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

処理中です...