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第六章「結びあう魂」
3、迫る決着の刻
「はい……、これはごく近しい者しかあずかり知らぬ話ですが、リューク様は凍らせたセレーナ様のご遺体と毎日共寝して、周りの者が説得しても、しばらく葬儀にも埋葬にも応じませんでした。
しかも、内乱が終わったばかりでシュトラスとの関係がこじれた状態なのに、今度はレイクッド大公国に攻め込むとおっしゃっていて……正気を疑う限りでございました……」
最後に見たときのリューク王はひどく老け込んだ印象だったが、まさか乱心していたとは……。
「これはあくまでも私の邪推であり、この場限りで聞き流して欲しいのですが、レイクッド大公国のマルティナ様はセレーナ様と容姿ばかりか性格まで双子のようにそっくりです」
「まさかウォルシュ卿、リューク王は叔母を手に入れるために戦争を起こすと言いたいのか?」
そんなことは常識なら有り得ないが、完全なる私情でここまできた私には否定しきれないものがあった。
「どのみち近しい者に正気を疑われるような人間は、一国の王として終わっている。
セドリック、このまま王都へ向かって攻め上り、一気に片をつけようじゃないか……」
レスター王子が出された酒を飲みながら言った。
「ああ、レスター。まずはリューク王宛に退位を迫る書状を送り、聞き届けられない場合は、ブリューデ平原での会戦を挑むつもりだ」
ブリューデ平原を越えれば王都なので、会戦に勝てばそのまま凱旋できる。
最高司令官であるセドリックの意見に、逆らう者は誰一人いなかった。
「想像以上に短期決戦で済みそうだな」
レスター王子の呟きに私も同意する。
「そうね」
いずれにしても決着の刻は近い。
せいぜい首を洗って待っているがいいデリアン――今度は死んでも忘れられないよう、とことん身体と心を抉って私を刻みつけてあげる!
ついに目前に迫ったデリアンとの再会を思い、血が騒ぎだした私は、レスター王子が差し出してきた酒がつがれた銀杯を受け取り、一気に飲み干した――
退位を迫る書状は当然のようにリューク王に拒絶された。
先の内乱で直接交渉には懲りていたのか、セドリックは返事を受け取るやいなや、今度は一方的な近い日付での会戦状を叔父に送りつけた。
いくらこちらの陣営にルーン城の管理者のカエインがいるとはいえ、先日レスター王子が言っていたように攻城戦は長引く。
何より、市街戦になれば多くの国民が犠牲になるので、絶対に王都入りする時間も隙も与えないつもりだった。
とはいえ、王都に残る騎士達に背後をつかれてもまずいので、一早く聖王派を表明したセドリックのはとこのサージ公に王都の包囲と監視を委任する。
出軍後のデヴァン城と都市の管理については、寝返ったばかりのウォルシュ卿に任せるのはリスクがあるので、カエインの二番弟子であるレイヴンに任された。
セドリックとしては、地下牢獄時代に世話になった彼への恩義と信頼ゆえの判断だ。
レイヴンは、カエインの話によると全魔法使いで第三位で、実力では第二位の現アスティリアの宮廷魔法使いであるアロイスと比べても遜色ないらしい。
裏切る可能性のある諸侯や、連れてきた配下の一人に任せるより、よほど安心して留守を任せられる相手だろう。
そうしていよいよ決戦を前日に控えた夜。
ブリューデ平原の手前で野営を張った私達は、大きな天幕に集まり、明日の戦いに向けての最後の確認をし合っていた。
いつもの面子に合流した諸侯を加えた席で、諜報担当のギモスがまずは相手の情報を報告する。
「今回は短期間なのもあり、今のところリューク王の召集に応じた諸侯は、ローア侯、ルアード伯、メルリック伯です」
予想通り、私の父であるローア侯も相手側に名を連ねていた。
というのも先の内乱では片側についたが、古くから続く家系のバーン家では、血統断絶を防ぐために両軍に分かれて戦うことが多かった。
だから『お飾り王子』への不信感だけではなく、私がこちら側にいるからこそ、向こう側に留まった面もあるだろう。
セドリックは最高司令官らしい落ち着いた態度で軍議を仕切っていく。
「して、兵数と配置は?」
「はい、私が直接数えましたところ、兵士数はおよそ騎兵が八千で、弓兵含めた歩兵が四千ほどでした。
ただ、残念ながら、私の遠見の術は映像しか見れませんので、軍議の内容は聞こえず、詳しい将や兵の配置までは分かりませんでした」
「そうか、ご苦労様、ギモス。ということは相手側は合わせて一万二千で、対するこちら側の騎兵九千、歩兵がイルス傭兵隊と長弓兵合わせて一万の合計二万か。
兵数では勝っているものの、向こうは傭兵の割合が少なく、王と諸侯に仕える騎士達と、州単位で徴兵された歩兵が大半だ。
単純な数では勝敗は計れない部分があるので、油断はできないな」
セドリックの神妙な言葉に、レスター王子が楽観的に返す。
「とはいえ、こちら側には世界一精強なイルス傭兵隊と、シュトラスが誇る長弓隊がいる。
なにせ我が国は、騎兵よりも長弓兵のめざましい働きによって、近隣の国を統一してきたからな」
いずれにしても、こちらが有利なのは間違いないとして、やはり脅威になるのは相手側にある魔法剣の数だろう。
特に覚醒した魔法剣は強力な兵器と呼ぶべき代物だ。
そう考えた私は、隣に座るカエインのマントを掴んで引く。
しかも、内乱が終わったばかりでシュトラスとの関係がこじれた状態なのに、今度はレイクッド大公国に攻め込むとおっしゃっていて……正気を疑う限りでございました……」
最後に見たときのリューク王はひどく老け込んだ印象だったが、まさか乱心していたとは……。
「これはあくまでも私の邪推であり、この場限りで聞き流して欲しいのですが、レイクッド大公国のマルティナ様はセレーナ様と容姿ばかりか性格まで双子のようにそっくりです」
「まさかウォルシュ卿、リューク王は叔母を手に入れるために戦争を起こすと言いたいのか?」
そんなことは常識なら有り得ないが、完全なる私情でここまできた私には否定しきれないものがあった。
「どのみち近しい者に正気を疑われるような人間は、一国の王として終わっている。
セドリック、このまま王都へ向かって攻め上り、一気に片をつけようじゃないか……」
レスター王子が出された酒を飲みながら言った。
「ああ、レスター。まずはリューク王宛に退位を迫る書状を送り、聞き届けられない場合は、ブリューデ平原での会戦を挑むつもりだ」
ブリューデ平原を越えれば王都なので、会戦に勝てばそのまま凱旋できる。
最高司令官であるセドリックの意見に、逆らう者は誰一人いなかった。
「想像以上に短期決戦で済みそうだな」
レスター王子の呟きに私も同意する。
「そうね」
いずれにしても決着の刻は近い。
せいぜい首を洗って待っているがいいデリアン――今度は死んでも忘れられないよう、とことん身体と心を抉って私を刻みつけてあげる!
ついに目前に迫ったデリアンとの再会を思い、血が騒ぎだした私は、レスター王子が差し出してきた酒がつがれた銀杯を受け取り、一気に飲み干した――
退位を迫る書状は当然のようにリューク王に拒絶された。
先の内乱で直接交渉には懲りていたのか、セドリックは返事を受け取るやいなや、今度は一方的な近い日付での会戦状を叔父に送りつけた。
いくらこちらの陣営にルーン城の管理者のカエインがいるとはいえ、先日レスター王子が言っていたように攻城戦は長引く。
何より、市街戦になれば多くの国民が犠牲になるので、絶対に王都入りする時間も隙も与えないつもりだった。
とはいえ、王都に残る騎士達に背後をつかれてもまずいので、一早く聖王派を表明したセドリックのはとこのサージ公に王都の包囲と監視を委任する。
出軍後のデヴァン城と都市の管理については、寝返ったばかりのウォルシュ卿に任せるのはリスクがあるので、カエインの二番弟子であるレイヴンに任された。
セドリックとしては、地下牢獄時代に世話になった彼への恩義と信頼ゆえの判断だ。
レイヴンは、カエインの話によると全魔法使いで第三位で、実力では第二位の現アスティリアの宮廷魔法使いであるアロイスと比べても遜色ないらしい。
裏切る可能性のある諸侯や、連れてきた配下の一人に任せるより、よほど安心して留守を任せられる相手だろう。
そうしていよいよ決戦を前日に控えた夜。
ブリューデ平原の手前で野営を張った私達は、大きな天幕に集まり、明日の戦いに向けての最後の確認をし合っていた。
いつもの面子に合流した諸侯を加えた席で、諜報担当のギモスがまずは相手の情報を報告する。
「今回は短期間なのもあり、今のところリューク王の召集に応じた諸侯は、ローア侯、ルアード伯、メルリック伯です」
予想通り、私の父であるローア侯も相手側に名を連ねていた。
というのも先の内乱では片側についたが、古くから続く家系のバーン家では、血統断絶を防ぐために両軍に分かれて戦うことが多かった。
だから『お飾り王子』への不信感だけではなく、私がこちら側にいるからこそ、向こう側に留まった面もあるだろう。
セドリックは最高司令官らしい落ち着いた態度で軍議を仕切っていく。
「して、兵数と配置は?」
「はい、私が直接数えましたところ、兵士数はおよそ騎兵が八千で、弓兵含めた歩兵が四千ほどでした。
ただ、残念ながら、私の遠見の術は映像しか見れませんので、軍議の内容は聞こえず、詳しい将や兵の配置までは分かりませんでした」
「そうか、ご苦労様、ギモス。ということは相手側は合わせて一万二千で、対するこちら側の騎兵九千、歩兵がイルス傭兵隊と長弓兵合わせて一万の合計二万か。
兵数では勝っているものの、向こうは傭兵の割合が少なく、王と諸侯に仕える騎士達と、州単位で徴兵された歩兵が大半だ。
単純な数では勝敗は計れない部分があるので、油断はできないな」
セドリックの神妙な言葉に、レスター王子が楽観的に返す。
「とはいえ、こちら側には世界一精強なイルス傭兵隊と、シュトラスが誇る長弓隊がいる。
なにせ我が国は、騎兵よりも長弓兵のめざましい働きによって、近隣の国を統一してきたからな」
いずれにしても、こちらが有利なのは間違いないとして、やはり脅威になるのは相手側にある魔法剣の数だろう。
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そう考えた私は、隣に座るカエインのマントを掴んで引く。
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