2 / 8
⑵
しおりを挟む「三日だよ!!もう三日も来てないよ!!やっぱり何かあったんじゃ…」
机に項垂れシュロがブツブツとボヤいている。
「体調でも崩したんじゃないか?あいつは元気が取り柄の様だったが」
交換される事のないバスケットに目をやる。中身は空っぽのままだ。
「オーランドだって心配なくせに!!事ある毎にバスケット眺めちゃって!!早くルイちゃんの安否を確かめてきて!!俺、気になって仕事が手につかないよ」
「お前が仕事をサボるのは元からだ。しかし…」
一人で食堂を切り盛りしてると聞く、体調が悪いと何かと不便だろう。それに、バスケットがあると目に入り気になる。仕事に身が入らないのも確かだ…。はぁー。これも騎士団としての勤めだと内心言い訳をして席を立つ。
「ルイに返してくる」
ルイが営む食堂に行く道中、果物を買い、空のバスケットに入れる。体調が悪くても果物ぐらい食べられるだろう。段々と食堂が近づくにつれて、周りの店の店主や住民からの視線を感じるようになった。見られている…。確かにこの地区は俺の巡回地区ではないが…俺が来るのが珍しいのか?だが、目に入る住民は、不安、戸惑い、恐怖といった感情を纏っている。なんだ?何なんだ?居心地が悪く、少し足を早めた時、パン屋の店主に呼び止められた。
「あのッ!!すっ、すみません、オーランド様。もっもしや…ルイちゃんに御用ですか…?」
やけに黒目がうろうろと忙しなく動いている。やましい事でもあるのか?しかし、それなら何故俺に話しかけてくる…。
「あぁ。バスケットを返しに来た」
「あの…それなんですが…お預かりする様にルイちゃんから頼まれてまして…」
店主が申し訳なさそうに手を差し伸べでくる。疑問が頭の中に渦巻く。食堂までは目と鼻の先なのに何故だ?何故、店主がバスケットを引き受けるのだ?
「?ルイはそんなに体調が良くないのか?」
「いっ、いえ!良くないといいますか…なんといいますか…」
「どういう事だ?はっきり言え」
店主の煮え切らない態度に内心イラつき、つい早口で捲し立て、威圧してしまう。
「ひっ!いっ居ないんです!!ルイちゃんはもう…この街には居ないんです…」
居ない…?どういう事だ?目で次の言葉を急かす。
「連れて行かれちまって…」
店主の話はこうだ。ルイは狸の老夫婦から店を譲り受けた。しばらくすると、金貸しがやって来て、この店は借金がある、早く返済しろと迫った。到底信じられない、だが、借用書がある。後には貴族がついてると脅されれば、一般市民は従うしかない。莫大な借金に対しての無理な返済期限。そして、支払えない時は、ルイの体で金を返せと…。
「ルイちゃんは頑張ったんですがね…全然足りなくて…ぐっ…酷いやり方ですよ。代替わりした店を狙って嵌めるんです。ルイちゃんの前にも目をつけられた店がありましてね…奴隷落ちしたと聞きました…」
悔しそうな店主の言葉を最後まで聞くことなく、急いで騎士団の詰所に帰る。歩く速度は段々と早くなり、そして巨体を揺らし、息を切らすほど早く駆ける。
ドォン!!
扉が壊れても気にしない。それどころではない。心臓が激しく波打ち、上手く言葉が出てこない。
「はぁはぁ、シュロ…!!」
いつも通り、机に突っ伏し寝ているシュロに向かい必死に言葉を紡ぐ。
「シュロッ…。頼みが…頼みがある」
それから一週間後、シュロから一枚の紙を手渡された。
┈┈┈┈ 蜜月の館
馬車で3日程かかる街にある高級娼館の名だった。
63
あなたにおすすめの小説
愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?
失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた
胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。
失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……?
「俺たち付き合ってたないだろ」
「……本気で言ってるのか?」
不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け
※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします
βでいるから、そばにいさせて
こうらい ゆあ
BL
幼馴染でαの蓮也が、10年ぶりに帰国。βの執事・陽彩は彼に仕えながら、自身の秘密を隠す。蓮也の番候補として集められたΩたちと、陽彩の複雑な想いが交錯する中、夜の部屋での再会が二人の関係を揺さぶる。過去の約束と秘めた想いが絡み合い、陽彩は蓮也のそばにいるため決意を新たにするが…。心揺れる再会と禁断の秘密が、切なくも惹きつけ合うふたりのお話です。
世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)
かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。
ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。
王子様の愛が重たくて頭が痛い。
しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」
前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー
距離感がバグってる男の子たちのお話。
【短編】売られていくウサギさんを横取りしたのは誰ですか?<オメガバース>
cyan
BL
ウサギの獣人でΩであることから閉じ込められて育ったラフィー。
隣国の豚殿下と呼ばれる男に売られることが決まったが、その移送中にヒートを起こしてしまう。
単騎で駆けてきた正体不明のαにすれ違い様に攫われ、訳が分からないまま首筋を噛まれ番になってしまった。
口数は少ないけど優しいαに過保護に愛でられるお話。
お前だけが俺の運命の番
水無瀬雨音
BL
孤児の俺ヴェルトリーはオメガだが、ベータのふりをして、宿屋で働かせてもらっている。それなりに充実した毎日を過ごしていたとき、狼の獣人のアルファ、リュカが現れた。いきなりキスしてきたリュカは、俺に「お前は俺の運命の番だ」と言ってきた。
オメガの集められる施設に行くか、リュカの屋敷に行くかの選択を迫られ、抜け出せる可能性の高いリュカの屋敷に行くことにした俺。新しい暮らしになれ、意外と優しいリュカにだんだんと惹かれて行く。
それなのにリュカが一向に番にしてくれないことに不満を抱いていたとき、彼に婚約者がいることを知り……?
『ロマンチックな恋ならば』とリンクしていますが、読まなくても支障ありません。頭を空っぽにして読んでください。
ふじょっしーのコンテストに応募しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる