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第8話弁当バトル
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周囲の視線に密度を感じる。
その密度をここまで引っ張ってきているのは目の前の女子だった。
「……」
「……」
僕の向かい側の空席に座った神木さんは一体何を思ってそこにいるのだろうか?
こんなところで妖怪の話をしろと?
僕は彼女の出方をうかがった。
「神木さんは、楠くんの知り合いなの?」
「……あの楠と? マジか……」
「クラスの中で断トツで何を考えてるのかわからない楠君と……」
「なんでうな重なんだ?……めっちゃうまそうだな」
そうだろう? うな重うまそうだろ? でも、あれぇ? その評価、待ってくれない? なんてちょっと思ったが、聞こえてくるクラスメイトの声は、大まかに聞かなかったことにしておこう。
今気にするべきは神木さんの動向である。
妙に緊張感があった気がしていたのだが、僕の気のせいだったのか。
神木さんはニッコリ笑って僕の弁当箱に反応を示した。
「すごく……豪華なお弁当だね。ウナギ?」
ほほう、君もそこが気になるかね? 中々目の付け所が良い。
思わぬ会話の種を提供してしまったが、そう言うことなら仕方がなかった。
「そう、うな重。朝自分で作ったんだ」
僕がそう言った瞬間、またもやザワリと周囲が沸いた。
「うな重を……自分で、だと?」
「焼くところからなのかしら? 蒸すところなのかしら?」
「そこ気になるとこ?」
「……ちょっと面白い」
ややウケか。なんか僕もちょっと楽しくなってきた。
ちなみにウナギは近所の池で河童に貰った天然ものである。
さて僕としてはこの会話を更に広げてもいいものかと悩むところだが、神木さんは驚いた顔で完璧な焼き具合のウナギを見ていた。
「す、すごいね。というかお弁当でウナギってありなんだ」
「ありだと思うね。コツさえわかれば捌くのも割と大丈夫」
捌くところからかよ! とクラス中からツッコミが聞こえた気がした。
捌くところからだよ? ちなみに背開きだとも。
思わぬところでこだわりの技を披露してしまったかな。
そもそも注目を集める気などなかったのだが、あのまま沈黙が続くよりも遥かにましだ。
僕は様々な思いの入り混じる周囲の視線を感じて、背中に冷たい汗を流す。
神木さんはたいして気にせず、自分の持って来たピンクの包みをハラリと開けて小さめの弁当箱を披露した。
中には、温野菜のサラダと小さなハンバーグ。
更には彩の考えられた野菜サンドとフルーツの二段構え!
ヘルシーだが飾りも鮮やかで、その完成度は作り手のスキルの高さを、見た目からもうかがい知ることができた。
だが、その真の価値は別の部分に隠されていたのだ。
「私も手作りなんだ」
手作り。
そんな言葉を聞いた、女子達は唸り、周囲の男子生徒の何割かの喉が鳴る。
自分で弁当を用意しているというだけでも、女子力の数値が爆上がりしたようだ。
僕はと言えば、若干の敗北感を感じているあたりなんかずれてる感じもしたが、それも仕方がないことだろう。
「へ、へー。神木さんも料理するんだね」
僕の弁当は弁当の色彩としては物足りない。
対して神木さんの弁当はかわいく纏まり、色鮮やかだ。
弁当というカテゴリーとしてみれば、どちらが上か、誰の目にも明らかだろう。
つい興味深く眺めていると神木さんは照れ臭そうに笑った。
「楠君と比べたら、ちょっと手抜きな感じがして恥ずかしいな」
「……」
こいつはどう反応するのが正しいのか?
この娘は、ちょいちょい僕に選択を迫ってくる。
まずこの状況、塩対応はまずかろう。
ならば褒める。これしかあるまい。
「いや……大したもんだよ。普段から作り慣れてないとこうはいかない。僕なんかどうしてもおかずまで考えが回らなくって一品で済ませちゃうし。作ってもらいたいくらいだよ」
距離感が分からないが、出来る限りの賛辞をぶつけてみた。
すると神木さんはちょっとだけ嬉しそうにして、壮絶なカウンターを繰り出した。
「そう? じゃあ私が、楠君の分も作ってこようか?」
「……!」
だがそのカウンターは僕には鋭すぎである。
「昨日の今日で……そんなの有りなのか?」
「おいおい……やっちまったな。奴はとんだ食わせ物だぜ」
「同族だと思っていたのに。サバトを……サバトを開かねば」
「しかし……解せんな。彼女と楠の接点が見えん」
なんか……うちのクラスメイトって面白いな。
ただ言わせていただきたいのは肝心の僕だってこの状況はいまいちわかってないということだ。
出来る事なら、遠巻きに聞き耳を立てていないで、さりげなく会話に入ってきてくれないだろうか?
そう思うが援軍は期待できそうにない。日頃のコミュ力不足が露呈した形である。
僕に出来たことと言えば、しどろもどろにお茶を濁すことだけだった。
「い、いや。それは……さすがに悪いかなーと思うんだけど?」
「……そう? お礼にいい機会だと思ったんだけど、なるべく早く言っとかなきゃって」
「……どういうことだろうか?」
もうどうとでもしてくれ。
冷や汗と共に優しい笑顔を浮かべた僕に、神木さんは深々と頭を下げる。
「昨日は助けてくれてありがとう。本当に助かりました」
お礼というとアレか、昨日のストーカーについてとかか。
それはまぁ受け取ろう。
でもそんなお礼なんて、教室でしなくてもいいのではないんだろうか?
本日最大のどよめきが教室を震わせた。
「な、なんてイベントを起こしてやがるんだあいつ……」
「あの辺からラブコメの波動を感じる……ギリッ」
「……いや、むしろドラマの類では? 何から助けた楠 太平」
「おいおいそんなことってあるのかよ? 神様はみんなに平等じゃないのけ?」
いやいやそう言うんじゃないからね?
普通に礼を言われる機会位、神様は平等にくれているさ。
そしてまさか遭遇したのが妖怪案件だとは思うまい。
「うん……まぁ気にしなくていいよ。たまたまだから」
無難な返答をしつつ僕は残ったうな重をしゃべれないと端から見てもわかるくらいまで口の中に詰め込んだが、残念ながら手間をかけた割には味が全然しなかった。
その密度をここまで引っ張ってきているのは目の前の女子だった。
「……」
「……」
僕の向かい側の空席に座った神木さんは一体何を思ってそこにいるのだろうか?
こんなところで妖怪の話をしろと?
僕は彼女の出方をうかがった。
「神木さんは、楠くんの知り合いなの?」
「……あの楠と? マジか……」
「クラスの中で断トツで何を考えてるのかわからない楠君と……」
「なんでうな重なんだ?……めっちゃうまそうだな」
そうだろう? うな重うまそうだろ? でも、あれぇ? その評価、待ってくれない? なんてちょっと思ったが、聞こえてくるクラスメイトの声は、大まかに聞かなかったことにしておこう。
今気にするべきは神木さんの動向である。
妙に緊張感があった気がしていたのだが、僕の気のせいだったのか。
神木さんはニッコリ笑って僕の弁当箱に反応を示した。
「すごく……豪華なお弁当だね。ウナギ?」
ほほう、君もそこが気になるかね? 中々目の付け所が良い。
思わぬ会話の種を提供してしまったが、そう言うことなら仕方がなかった。
「そう、うな重。朝自分で作ったんだ」
僕がそう言った瞬間、またもやザワリと周囲が沸いた。
「うな重を……自分で、だと?」
「焼くところからなのかしら? 蒸すところなのかしら?」
「そこ気になるとこ?」
「……ちょっと面白い」
ややウケか。なんか僕もちょっと楽しくなってきた。
ちなみにウナギは近所の池で河童に貰った天然ものである。
さて僕としてはこの会話を更に広げてもいいものかと悩むところだが、神木さんは驚いた顔で完璧な焼き具合のウナギを見ていた。
「す、すごいね。というかお弁当でウナギってありなんだ」
「ありだと思うね。コツさえわかれば捌くのも割と大丈夫」
捌くところからかよ! とクラス中からツッコミが聞こえた気がした。
捌くところからだよ? ちなみに背開きだとも。
思わぬところでこだわりの技を披露してしまったかな。
そもそも注目を集める気などなかったのだが、あのまま沈黙が続くよりも遥かにましだ。
僕は様々な思いの入り混じる周囲の視線を感じて、背中に冷たい汗を流す。
神木さんはたいして気にせず、自分の持って来たピンクの包みをハラリと開けて小さめの弁当箱を披露した。
中には、温野菜のサラダと小さなハンバーグ。
更には彩の考えられた野菜サンドとフルーツの二段構え!
ヘルシーだが飾りも鮮やかで、その完成度は作り手のスキルの高さを、見た目からもうかがい知ることができた。
だが、その真の価値は別の部分に隠されていたのだ。
「私も手作りなんだ」
手作り。
そんな言葉を聞いた、女子達は唸り、周囲の男子生徒の何割かの喉が鳴る。
自分で弁当を用意しているというだけでも、女子力の数値が爆上がりしたようだ。
僕はと言えば、若干の敗北感を感じているあたりなんかずれてる感じもしたが、それも仕方がないことだろう。
「へ、へー。神木さんも料理するんだね」
僕の弁当は弁当の色彩としては物足りない。
対して神木さんの弁当はかわいく纏まり、色鮮やかだ。
弁当というカテゴリーとしてみれば、どちらが上か、誰の目にも明らかだろう。
つい興味深く眺めていると神木さんは照れ臭そうに笑った。
「楠君と比べたら、ちょっと手抜きな感じがして恥ずかしいな」
「……」
こいつはどう反応するのが正しいのか?
この娘は、ちょいちょい僕に選択を迫ってくる。
まずこの状況、塩対応はまずかろう。
ならば褒める。これしかあるまい。
「いや……大したもんだよ。普段から作り慣れてないとこうはいかない。僕なんかどうしてもおかずまで考えが回らなくって一品で済ませちゃうし。作ってもらいたいくらいだよ」
距離感が分からないが、出来る限りの賛辞をぶつけてみた。
すると神木さんはちょっとだけ嬉しそうにして、壮絶なカウンターを繰り出した。
「そう? じゃあ私が、楠君の分も作ってこようか?」
「……!」
だがそのカウンターは僕には鋭すぎである。
「昨日の今日で……そんなの有りなのか?」
「おいおい……やっちまったな。奴はとんだ食わせ物だぜ」
「同族だと思っていたのに。サバトを……サバトを開かねば」
「しかし……解せんな。彼女と楠の接点が見えん」
なんか……うちのクラスメイトって面白いな。
ただ言わせていただきたいのは肝心の僕だってこの状況はいまいちわかってないということだ。
出来る事なら、遠巻きに聞き耳を立てていないで、さりげなく会話に入ってきてくれないだろうか?
そう思うが援軍は期待できそうにない。日頃のコミュ力不足が露呈した形である。
僕に出来たことと言えば、しどろもどろにお茶を濁すことだけだった。
「い、いや。それは……さすがに悪いかなーと思うんだけど?」
「……そう? お礼にいい機会だと思ったんだけど、なるべく早く言っとかなきゃって」
「……どういうことだろうか?」
もうどうとでもしてくれ。
冷や汗と共に優しい笑顔を浮かべた僕に、神木さんは深々と頭を下げる。
「昨日は助けてくれてありがとう。本当に助かりました」
お礼というとアレか、昨日のストーカーについてとかか。
それはまぁ受け取ろう。
でもそんなお礼なんて、教室でしなくてもいいのではないんだろうか?
本日最大のどよめきが教室を震わせた。
「な、なんてイベントを起こしてやがるんだあいつ……」
「あの辺からラブコメの波動を感じる……ギリッ」
「……いや、むしろドラマの類では? 何から助けた楠 太平」
「おいおいそんなことってあるのかよ? 神様はみんなに平等じゃないのけ?」
いやいやそう言うんじゃないからね?
普通に礼を言われる機会位、神様は平等にくれているさ。
そしてまさか遭遇したのが妖怪案件だとは思うまい。
「うん……まぁ気にしなくていいよ。たまたまだから」
無難な返答をしつつ僕は残ったうな重をしゃべれないと端から見てもわかるくらいまで口の中に詰め込んだが、残念ながら手間をかけた割には味が全然しなかった。
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