ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第114話思わぬ副作用

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「そうだね、色々と感想はあるけれど……ひとつ忠告しておく」

 龍宮院先生は、到着早々自分の前に僕らを座らせた。

「な、何かありましたか?」

 龍宮院先生の真剣な表情に僕はゴクリと生唾を飲み込んで質問すると、先生は大きく、そして深く頷いて言った。

「ああ……ここはヤバい。本当にヤバい」

「そんなに……ですか?」

「そんなにだよ。なんたって…………なんにもしなくてもご飯もお酒も飲み放題なんだ」

「え?」

 一瞬何を言われたかわからなかったが、他のメンバーはすんなり受け入れ、深刻な表情で頷いていた。

「ヤバイですね。それはヤバイ……」

「ヤバイです……」

「うむむ、ヤバイでござる」

 そして更に龍宮院先生は、悩ましく頭を振って絞り出すように語り始めた。

「その上。ここで数日過ごしたって、現実じゃほとんど時間が経っていないっていうのがまたヤバい。土日が2年になるとか……もうすべてを捨て去りたくなってくる」

「……ヤバすぎますね」

「……とんでもないヤバさです」

「……想像を絶するヤバさでござる」

「いやいやいや、確かにそうだけど! もっと他に注目すべきことがありそうじゃない?」

 言わんとしていることは理解し始めたが、頑張って作ったので出来れば有効に使ってもらいたい。

 だけど龍宮院先生はあくまで切なげな表情のままだった。

「いや、ワタヌキ君? ……地味なことほど根本的にヤバいんだよ。この安定感を見たまえ。中々帰ってこないなーと思っていたら、ああそうだ、時間の流れが違うんだーとなってマッタリやっていたわけなんだけど、あっという間にこのありさまさ……。もはや実家のような安心感だよ」

 ほとんど寝間着に近い格好の龍宮院先生を見ると、強力な説得力があった。

「ううむ……確かに、作家が旅館に泊まるみたいな使い方が出来ればなって思ってましたけど」

「ああ、探索中に温泉も発見した。海の中なのにね。かけ流しだよ」

「……やばいなぁ」

 この特性を理解しつつ次にここに来る時があったら、僕ならジャージやらマイ枕でも持ち込むかもしれない。

 そうなったらもう抜け出せる気はしなかった。

 しかも、まぁみんなある意味メリットとも言える部分に注目しているみたいだけれど、もっと根本的にまずいところもある。

 僕は念のためそこの所にも言及しておいた。

「でも使い過ぎたらシンプルにまずいですからねここ? 締め切りある人には便利ですけど……結局すごい勢いで歳をとる部屋ですから」

「うぐぅ! ……確かにそれは……そう言われるとゾッとするなぁ」

 そこのところ取り扱い注意だと念を押しておくと、龍宮院先生が一番動揺していた。

 だけど浦島先輩とレイナさんは首をかしげていたが。

「そんなに問題? 別に毎回フルでいるわけじゃないんだから大したことないでしょ?」

「そうですよ。ちょっとくらいいいんじゃないですか?」

 その発言に再びショックを受けたのは龍宮院先生で、先生は今までで一番切ないとても渋い顔をしていた。

「ぐぅ……さすがティーンエイジャー……これが若さかぁ」

「何言ってるんです。先生も若いじゃないですか」

「いや……言っても20代も後半だからなぁ」

 色々と、考えちゃうことはあるんだと遠い目をする龍宮院先生の認識の方がたぶん正しい。

 1年の変化というのは目に見えなくても大きいものだろうと思う。

 だが当初の予定通り、効果に嘘偽りは微塵もない物を作ったつもりだった。

 そしてここには締め切りに追われて絶望している女子がいた。

「とはいえ……時間さえあればどうにかなります。まぁやり遂げて見せますよ!」

 ドヤ顔の浦島先輩は、もうすでに勝利を確信しているみたいである。

 経緯を知っている龍宮院先生も、使用を止めるつもりはないようだった。

「……まぁわかった。でも……まずは1週間くらいで様子を見る事をお勧めするよ」

「了解です! まぁそれだけあれば相当進んでしまうと思いますけどね!」

「……そうだといいけどね」

 ただ最後に呟くように言った龍宮院先生の言葉は、僕の耳に妙に残った。



 この城さえあれば手伝いすら必要ないと主張する浦島先輩を残して、いったん撤退した僕らは当然すぐに浦島先輩と再会することになった。

 浦島先輩は中の時間で一週間ほど漫画の作業に没頭したはずなのだが……クマを作った先輩は僕を見るなり泣きついてきた。

 そして―――先輩はなぜか懐かしい体型に戻っていたのである。

 タックルの威力も体重も2倍増だったが、僕はプライドをかけて踏ん張った。

「ふんぬ! えぇ!? どうしました先輩! 懐かしいフォルムに戻ってますけど!?」

「ああ……私ストレスで太っちゃう系なので」

「……それで済むんですか?」

「そんなことよりワタヌキくぅぅぅぅぅん! あれはダメだよぉぉぉぉ! 反則だぁぁぁぁぁ!」

「そ、そんなにダメでした?」

 てっきりご満悦で出てきてくれるものだとばかり思っていたのに、体型の激変に加えてこの取り乱しようとはどういうことだ?

 狼狽えて僕が尋ねると、先輩は盛大に視線をさ迷わせたが、結局白状した。

「快適過ぎるんだぁ! あんな中で原稿なんてできるわけねぇよぉぉぉぉ」

「……」

 龍宮院先生もまたそうだろう? と頷いていた。

 まぁ助言を聞いた時にうっすらとした懸念はあったが、やっぱりダメだったか。

 人間、時間があればなんとかなるなんて単純なことではないのかもしれない。

 良かれと思ってやったことが必ずうまく噛み合うとは限らないなぁとしみじみしている僕に、攻略君も新たな提案を出してきた。

『うーむ……それじゃあ。一日が一年になる龍宮城はいったん閉鎖かな? 建物全体じゃなくて、専用の部屋だけとかにしておこうか?』

え? それが出来るなら、50階層のカフェの2階にでも作ればもっと楽だったじゃん?

『え? 何を言っているんだい? 竜宮城の方が絶対面白いだろう?』

「……」

 おいおい、攻略君? それはないだろう?

 しかし、ロマンという名の変な労力の掛け方を至上と教えたのは他でもない僕だった。

 こいつは教育がダメな方向で芽吹いたかな? とそんなことを考えると、ドッと疲れが精神に圧し掛かる。

 何事も……急いではダメなのかもしれない。

 見切り発車はすれ違いや失敗を招くもんなんだなって、僕は反省しながら一週間くらい龍宮城で寝ていたい衝動に駆られていた。
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