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第113話僕らの一夜城
「……どうしろって言うんだ」
龍宮院先生はでっかい龍人と城を見上げて呆然としていたが、城の主は堂々としていてくれればそれでいいと思います。
それでは今回の攻略はあらかた終了だった。
「ええっと……先生、念願のテイマーですけど、どんな感じです?」
「なんかでっかい……思ってたのと違う」
ボスをテイムした龍宮院先生はすでに習得済みの陣地作成を実行してくれたが、完全に納得のいく結果ではなかったようである。
ちょっと気の毒になった僕は、耳寄り情報を龍宮院先生に渡すことにした。
「ええっと、先生? 実は龍人って半分精霊みたいなもので……テイムすると少しは姿に影響を与えられるみたいですよ?」
「え? 精霊って言うと……さっきの炎の虎みたいな?」
「そうです。あいつも炎の塊みたいだったでしょう? 名前を付ける時に理想の姿を強く思い浮かべるのがコツです。やってみては?」
「そんな大事なことはもっと早く教えなさい。……わかった。やってみる」
僕の悪魔のささやきで、龍宮院先生は力を取り戻した。
強い意志が目で見えそうなほどに妙に気合の入った龍宮院先生は祈る様に手を組んで瞳を閉じ、その名を命名するべく精神を集中した。
そして―――。
「ショタショタショタショタショタショタ…………」
「……先生? 出てます出てます」
「少年編少年編少年編少年編………」
「せん……せい? 落ち着いてください? 口に出さなくてもいいんですよ?」
「ツンツン黒髪、ツンデレ、クール美少年……!」
「せんせい!? お気を確かに!? ほんとにいいんですか!?」
「よぉし来た! 君の名前は……オウギだ!」
チカリと巨大な龍人は、光り輝いて縮んでゆく。
そして龍としての特徴である、鱗や角、尻尾などの名残は残っていたが、どこに出しても恥ずかしくない、黒髪美少年へと姿を変えていたのである。
「なんというすさまじい精神力……そしてイメージ力だ……」
さすが桃乙姫先生だ、クオリティが違う。
純粋な不定形モンスターでない分、イメージを反映させるのは難しいはずなのだが……先生はそれをねじ伏せたようだった。
「よっしゃ! 勝った!」
「……おめでとうございます?」
何かに勝利を収めたらしい龍宮院先生は非常に満足そうで、いささか混乱からも復活したようだった。
そして僕はと言えば、逆に混乱していたがあまりグズグズしてもいられない。
ここからが僕の本番である。スキルを総動員してやるべきことはあまりにも多い。
「ええっと……じゃあ、僕は今から施工入りますんで、買い出しとかお願いしてもいいですか? 転移宝玉は持ってますよね?」
「それは構わないけど……施工か……本気でこの城を改造するのか」
「あったり前じゃないですか! そのためにここまで来たんですから!」
「まぁそうだよね」
さすがに大変すぎるんじゃないかとそんなニュアンスを感じたが、伊達に僕だって新作トイレやら売店やらを作ってスキルを磨いていたわけじゃない。
「まず入り口に先日手に入れた、天使の門をくっつけます」
こうするだけであら不思議。門を通った先は時空に揺らぎが生じます。
ここで魔法文字を駆使して、時間を調節すれば完成である。
ただ完成図を思い浮かべて僕は思った。
「……精神と〇の部屋を作ろうと思いましたが、これって竜宮城ですね」
「あっはっはっ。私の名前にピッタリだー……ねっ? とでも言って欲しいのかな?」
「意識しなかったと言えば噓ですよね。やはり―――桃乙姫先生には龍宮城がないと」
「……やはり聞いていたか。速やかに忘れてくれないか?」
「……すみません。忘れますからそんなに殺気立った目をしないで」
ペンネームの件は禁句であったか。顔が先生がしちゃいけない感じになってた。
せっかくだから先生にも作業部屋として使って欲しかったのだが……それは別で問題になりそうだった。
しかし見学してみると城の中は思った以上にしっかりとしていて、城というよりも巨大な旅館といった風にも見える。
手を加えるなら素材を生かすのが今回のコンセプトだし、せっかくなので本格的な旅館に仕上げて、浦島先輩にも快適に作業をしてもらうつもりだった。
建物の中は水もなく普通の空間で、窓の外には海がそのまま見えたが水漏れは無し。これなら執筆作業にも使えそうである。
僕は龍宮院先生と城の中を見て回り、細かい部分をチェックしてゆく。
すると住人が僕らだけではないという事もわかった。
「モンスターっぽいけど、角の生えた仲居さんみたいなのいますね」
「いた……危険はないようだけど……」
「あれ、頼んだら飲み物持って来てくれましたよ?」
「……なんでだよ」
「知りませんよ」
「そこは知らないのかい」
「そりゃあ知らないから聞いてみたんですよ」
言葉が通じるモンスターというのも新鮮ではあるが、これもテイムが成功した恩恵なのかもしれない。
そう言えば天使達もテイムしたらこちらの言語をあっさり使って来た前例はあった。
ただ一通り見て回った後、龍宮院先生はそういえばと僕に確認した。
「でも君、浦島君の原稿のために作業場を用意しようっていうんだよね?」
「そうですね」
「実際にここでそんなことが可能なのか? だって今時原稿ってデジタルだろう? さすがにダンジョンの中でパソコンを使うのは無理だと思うんだけど」
言われて、僕はハッとした。
そう言えば最近はドローンなんかを普通に使っていたから忘れかけていたが、そもそも精密機器がうまく働かないのがダンジョンという場所だった。
「あ……やばいですねそれ」
浦島先輩にアナログでお願いしますと言ってみるか?
いや、高確率で無理と言われそうだし、そう言われた瞬間すべての苦労が水の泡になった挙句に、大ポカを咎められるのは火を見るより明らかだ。
だが攻略君は待っていましたと、すかさず語り掛けて来た。
『大丈夫だよ。それがここを選んだ理由でもあるんだから』
どういうことだろう? そう攻略君に訊ねると、攻略君はここは厳密にはダンジョンではないと答えた。
『ここは周囲の海を見てもわかるように、ダンジョンと少しルールが異なるんだ。まぁ君が最初に触った台座、アレが作ったチョットずれた空間なのさ。まぁアイテムボックスの中みたいな感じだね』
それでどうなるの?
『台座をいじったら、ルールを調整出来る。もちろんやり方は教えるよ』
ちなみにネットは?
『それは無理だね』
そっかぁ……
そいつは残念だが、規格外であることには変わりない。
改造は出来れば簡単であってくれたら嬉しいが、攻略君の自信を見るに、そう手間もかからないという事か。
僕はなるほどと頷き、ひとまず龍宮院先生に大丈夫だと頷いて見せた。
「あっ……先生。どうにかなりそうです」
「世界の常識を覆すような安請け合いはやめてくれないか?」
「まぁまぁ。試してみない手はないですよ」
まぁ失敗したら。謝ろう。
とりあえず入り口と、ボス部屋の台座に少しだけ手を入れるだけで目的は達成できそうだし、ダンジョン大工の底力を見せつけてやるとしよう。
突貫工事で一通り作業が終わり、地上に戻った僕は携帯で先輩に連絡を取ると、それなりに長い時間を置いて通話になった。
しかし浦島先輩に掛けたはずの電話の向こうにはゾンビがいた。
「ワタヌキくーーーーーんんんんんおたすけぇぇぇ」
「浦島先輩!? 全然大丈夫じゃないんですね……」
「やってみたけど全然無理ぃ……」
「なるほど。こいつは中々重症っぽい」
声だけで想像できるのは中々である。
しかし浦島先輩は完全に絶望していたわけではなかった。
むしろすでに声色には希望の光すら垣間見えていた。
「でも―――連絡してきたってことは、出来たんでしょう?」
浦島先輩の言葉に僕は万感の思いを込めて答えた。
「……はい。出来ましたよ」
「マジか!? ……さすがに今回ばかりは話半分に聞いていたというのに……ちなみに重力は?」
「普通です。気温も快適ですよ?」
「……えぇ~何言ってんの? 最高かよ?」
「ただし。海の中ですけど」
「……何言ってんの?」
ゾンビでもすかさず入るツッコミは、さすがだった。
そして当然の疑問に、僕はうんうんと電話の前で何度も頷いていた。
「んんー……まぁ何言ってるのかわかんないですよね? じゃあ―――行ってみますか?」
「行く!」
「じゃあ必要なものを持って、ダンジョンの拠点の方に集合ってことで」
「……ダンジョン? パソコンは?」
「持ってきていいですよ」
「?」
この場所のすごさを口で先にすべて説明してしまうなんてあまりにももったいない。
興味津々のようだし、僕は頑張って用意した力作を存分にもったいぶって披露することにした。
出現ポイントは城の玄関に設定してある。
90階。例の転移アイテムに触れば、まず目に入るのは広いエントランス部分である。
案内したみんなはそれを目にした瞬間、驚きすぎて息を呑んでいた。
「……おおお、なんじゃこりゃ!」
そして一番リアクションがいいのはもちろん追い詰められてテンションが壊れ気味の浦島先輩だった。
「おいでませ龍宮城ですよ。浦島先輩」
「亀は助けてないけどね? で? 乙姫様はどこ?」
「桃乙姫先生なら……」
「あ、先生来てるんだ。おおう……思い切ったね。ガッツリ深層まで案内しちゃって」
「ふふふふふ、もう一蓮托生ですよ。ヒミツやらなにやらはエキスポをやり遂げた今、ある程度妥協はしますよね」
「だねぇ」
「まぁいよいよ90階です。みんなで深みにはまりましょう」
「え! 90? あ! また抜け駆けしましたね!」
レイナさんが新階層に反応したが、こればかりは仕方がなかったんだと言わせていただきたかった。
「いやいや、毎度制限時間が付きすぎなんだ。最善は尽くしたんじゃないかなって思ってる」
「ワタシもトーン張りじゃなくて、90階攻略が良かったです!」
「えぇ~そりゃないよレイナちゃん? こっちはこっちで貴重な経験よ?」
「それはそうですけど……」
「まぁまぁ。でもここ凄いでござる。窓の外を見たら全部海でござるよ」
色々言いたいことはあるだろうが、今は先に中を案内しよう。
中に入った瞬間から、もうすでに時間の流れは変わっている。
僕らにはその時間はゆったりあった。
「中にある部屋は好きに使ってもらっていいですよ。それになんとこの城、仲居さん付です。食べ物も出てきますよ?」
「えぇーなにそれ、至れり尽くせりか?」
僕も思ったが、さすがわざわざ攻略君がおすすめするだけのことはある。
この空間のコンセプトは龍人様の城の様で、だとしたらテイムしなければ角の生えた人魚とかが無数に襲い掛かって来たのかもしれない。
もしそうならおっかない話だがすでにそこはクリアして、今はこの城の主に雇われた仲居さんといった風だった。
「今のところボスをテイムしているのが龍宮院先生なんで、自動的に建物の主導権は先生に移ってるんだけど……」
「そうなんだ。先生今何してんの?」
「パソコンとかゲームとか動くかテストしてもらってる」
「……マジで動くのか。すごいな」
先輩達を迎えに行って帰って来ただけだが、時間アイテムのせいで結構な時間が経過しているはず。
そうなると、すでに先生もこの城の勝手が分かってきているはずだった。
僕は先生に割り当てた一番いい部屋にみんなを案内した。
そして部屋の前までやってくると、少し大きめに声を掛けた。
「せんせー。入りますよー」
僕は襖を開ける。
「……」
だけど僕はなんとなくすぐにそっと閉じた。
「どうしたの?」
「……ダメな大人がいた」
「「……お邪魔しますっ!」」
ああっ! そんな!
勢いよく入った浦島先輩とレイナさんに躊躇いはなかった。
同性同士の気安い仲って怖い。僕と桃山君はキャッと一歩後ろに下がった。
「ん? ああ、来たのか」
「あ、はい」
「どうも先生」
高級旅館に匹敵しそうなスイートな畳の部屋にはラフな部屋着に着替えた龍宮院先生と、その横にいる龍人が一緒になって格闘ゲームに興じていた。
テーブルの上の大量のビールとイカのあたりめが、なんとも独特の味を醸し出していたが、問題はなさそうである。
「どこに驚いたらいいのか形容しがたいですね先生!」
「格ゲーワタシもやらせてください!」
だが、この妙に落ち着いた空気感が高級感を中和したのか、全員の肩の力がいい感じに抜けたのは間違いないようだった。
龍宮院先生はでっかい龍人と城を見上げて呆然としていたが、城の主は堂々としていてくれればそれでいいと思います。
それでは今回の攻略はあらかた終了だった。
「ええっと……先生、念願のテイマーですけど、どんな感じです?」
「なんかでっかい……思ってたのと違う」
ボスをテイムした龍宮院先生はすでに習得済みの陣地作成を実行してくれたが、完全に納得のいく結果ではなかったようである。
ちょっと気の毒になった僕は、耳寄り情報を龍宮院先生に渡すことにした。
「ええっと、先生? 実は龍人って半分精霊みたいなもので……テイムすると少しは姿に影響を与えられるみたいですよ?」
「え? 精霊って言うと……さっきの炎の虎みたいな?」
「そうです。あいつも炎の塊みたいだったでしょう? 名前を付ける時に理想の姿を強く思い浮かべるのがコツです。やってみては?」
「そんな大事なことはもっと早く教えなさい。……わかった。やってみる」
僕の悪魔のささやきで、龍宮院先生は力を取り戻した。
強い意志が目で見えそうなほどに妙に気合の入った龍宮院先生は祈る様に手を組んで瞳を閉じ、その名を命名するべく精神を集中した。
そして―――。
「ショタショタショタショタショタショタ…………」
「……先生? 出てます出てます」
「少年編少年編少年編少年編………」
「せん……せい? 落ち着いてください? 口に出さなくてもいいんですよ?」
「ツンツン黒髪、ツンデレ、クール美少年……!」
「せんせい!? お気を確かに!? ほんとにいいんですか!?」
「よぉし来た! 君の名前は……オウギだ!」
チカリと巨大な龍人は、光り輝いて縮んでゆく。
そして龍としての特徴である、鱗や角、尻尾などの名残は残っていたが、どこに出しても恥ずかしくない、黒髪美少年へと姿を変えていたのである。
「なんというすさまじい精神力……そしてイメージ力だ……」
さすが桃乙姫先生だ、クオリティが違う。
純粋な不定形モンスターでない分、イメージを反映させるのは難しいはずなのだが……先生はそれをねじ伏せたようだった。
「よっしゃ! 勝った!」
「……おめでとうございます?」
何かに勝利を収めたらしい龍宮院先生は非常に満足そうで、いささか混乱からも復活したようだった。
そして僕はと言えば、逆に混乱していたがあまりグズグズしてもいられない。
ここからが僕の本番である。スキルを総動員してやるべきことはあまりにも多い。
「ええっと……じゃあ、僕は今から施工入りますんで、買い出しとかお願いしてもいいですか? 転移宝玉は持ってますよね?」
「それは構わないけど……施工か……本気でこの城を改造するのか」
「あったり前じゃないですか! そのためにここまで来たんですから!」
「まぁそうだよね」
さすがに大変すぎるんじゃないかとそんなニュアンスを感じたが、伊達に僕だって新作トイレやら売店やらを作ってスキルを磨いていたわけじゃない。
「まず入り口に先日手に入れた、天使の門をくっつけます」
こうするだけであら不思議。門を通った先は時空に揺らぎが生じます。
ここで魔法文字を駆使して、時間を調節すれば完成である。
ただ完成図を思い浮かべて僕は思った。
「……精神と〇の部屋を作ろうと思いましたが、これって竜宮城ですね」
「あっはっはっ。私の名前にピッタリだー……ねっ? とでも言って欲しいのかな?」
「意識しなかったと言えば噓ですよね。やはり―――桃乙姫先生には龍宮城がないと」
「……やはり聞いていたか。速やかに忘れてくれないか?」
「……すみません。忘れますからそんなに殺気立った目をしないで」
ペンネームの件は禁句であったか。顔が先生がしちゃいけない感じになってた。
せっかくだから先生にも作業部屋として使って欲しかったのだが……それは別で問題になりそうだった。
しかし見学してみると城の中は思った以上にしっかりとしていて、城というよりも巨大な旅館といった風にも見える。
手を加えるなら素材を生かすのが今回のコンセプトだし、せっかくなので本格的な旅館に仕上げて、浦島先輩にも快適に作業をしてもらうつもりだった。
建物の中は水もなく普通の空間で、窓の外には海がそのまま見えたが水漏れは無し。これなら執筆作業にも使えそうである。
僕は龍宮院先生と城の中を見て回り、細かい部分をチェックしてゆく。
すると住人が僕らだけではないという事もわかった。
「モンスターっぽいけど、角の生えた仲居さんみたいなのいますね」
「いた……危険はないようだけど……」
「あれ、頼んだら飲み物持って来てくれましたよ?」
「……なんでだよ」
「知りませんよ」
「そこは知らないのかい」
「そりゃあ知らないから聞いてみたんですよ」
言葉が通じるモンスターというのも新鮮ではあるが、これもテイムが成功した恩恵なのかもしれない。
そう言えば天使達もテイムしたらこちらの言語をあっさり使って来た前例はあった。
ただ一通り見て回った後、龍宮院先生はそういえばと僕に確認した。
「でも君、浦島君の原稿のために作業場を用意しようっていうんだよね?」
「そうですね」
「実際にここでそんなことが可能なのか? だって今時原稿ってデジタルだろう? さすがにダンジョンの中でパソコンを使うのは無理だと思うんだけど」
言われて、僕はハッとした。
そう言えば最近はドローンなんかを普通に使っていたから忘れかけていたが、そもそも精密機器がうまく働かないのがダンジョンという場所だった。
「あ……やばいですねそれ」
浦島先輩にアナログでお願いしますと言ってみるか?
いや、高確率で無理と言われそうだし、そう言われた瞬間すべての苦労が水の泡になった挙句に、大ポカを咎められるのは火を見るより明らかだ。
だが攻略君は待っていましたと、すかさず語り掛けて来た。
『大丈夫だよ。それがここを選んだ理由でもあるんだから』
どういうことだろう? そう攻略君に訊ねると、攻略君はここは厳密にはダンジョンではないと答えた。
『ここは周囲の海を見てもわかるように、ダンジョンと少しルールが異なるんだ。まぁ君が最初に触った台座、アレが作ったチョットずれた空間なのさ。まぁアイテムボックスの中みたいな感じだね』
それでどうなるの?
『台座をいじったら、ルールを調整出来る。もちろんやり方は教えるよ』
ちなみにネットは?
『それは無理だね』
そっかぁ……
そいつは残念だが、規格外であることには変わりない。
改造は出来れば簡単であってくれたら嬉しいが、攻略君の自信を見るに、そう手間もかからないという事か。
僕はなるほどと頷き、ひとまず龍宮院先生に大丈夫だと頷いて見せた。
「あっ……先生。どうにかなりそうです」
「世界の常識を覆すような安請け合いはやめてくれないか?」
「まぁまぁ。試してみない手はないですよ」
まぁ失敗したら。謝ろう。
とりあえず入り口と、ボス部屋の台座に少しだけ手を入れるだけで目的は達成できそうだし、ダンジョン大工の底力を見せつけてやるとしよう。
突貫工事で一通り作業が終わり、地上に戻った僕は携帯で先輩に連絡を取ると、それなりに長い時間を置いて通話になった。
しかし浦島先輩に掛けたはずの電話の向こうにはゾンビがいた。
「ワタヌキくーーーーーんんんんんおたすけぇぇぇ」
「浦島先輩!? 全然大丈夫じゃないんですね……」
「やってみたけど全然無理ぃ……」
「なるほど。こいつは中々重症っぽい」
声だけで想像できるのは中々である。
しかし浦島先輩は完全に絶望していたわけではなかった。
むしろすでに声色には希望の光すら垣間見えていた。
「でも―――連絡してきたってことは、出来たんでしょう?」
浦島先輩の言葉に僕は万感の思いを込めて答えた。
「……はい。出来ましたよ」
「マジか!? ……さすがに今回ばかりは話半分に聞いていたというのに……ちなみに重力は?」
「普通です。気温も快適ですよ?」
「……えぇ~何言ってんの? 最高かよ?」
「ただし。海の中ですけど」
「……何言ってんの?」
ゾンビでもすかさず入るツッコミは、さすがだった。
そして当然の疑問に、僕はうんうんと電話の前で何度も頷いていた。
「んんー……まぁ何言ってるのかわかんないですよね? じゃあ―――行ってみますか?」
「行く!」
「じゃあ必要なものを持って、ダンジョンの拠点の方に集合ってことで」
「……ダンジョン? パソコンは?」
「持ってきていいですよ」
「?」
この場所のすごさを口で先にすべて説明してしまうなんてあまりにももったいない。
興味津々のようだし、僕は頑張って用意した力作を存分にもったいぶって披露することにした。
出現ポイントは城の玄関に設定してある。
90階。例の転移アイテムに触れば、まず目に入るのは広いエントランス部分である。
案内したみんなはそれを目にした瞬間、驚きすぎて息を呑んでいた。
「……おおお、なんじゃこりゃ!」
そして一番リアクションがいいのはもちろん追い詰められてテンションが壊れ気味の浦島先輩だった。
「おいでませ龍宮城ですよ。浦島先輩」
「亀は助けてないけどね? で? 乙姫様はどこ?」
「桃乙姫先生なら……」
「あ、先生来てるんだ。おおう……思い切ったね。ガッツリ深層まで案内しちゃって」
「ふふふふふ、もう一蓮托生ですよ。ヒミツやらなにやらはエキスポをやり遂げた今、ある程度妥協はしますよね」
「だねぇ」
「まぁいよいよ90階です。みんなで深みにはまりましょう」
「え! 90? あ! また抜け駆けしましたね!」
レイナさんが新階層に反応したが、こればかりは仕方がなかったんだと言わせていただきたかった。
「いやいや、毎度制限時間が付きすぎなんだ。最善は尽くしたんじゃないかなって思ってる」
「ワタシもトーン張りじゃなくて、90階攻略が良かったです!」
「えぇ~そりゃないよレイナちゃん? こっちはこっちで貴重な経験よ?」
「それはそうですけど……」
「まぁまぁ。でもここ凄いでござる。窓の外を見たら全部海でござるよ」
色々言いたいことはあるだろうが、今は先に中を案内しよう。
中に入った瞬間から、もうすでに時間の流れは変わっている。
僕らにはその時間はゆったりあった。
「中にある部屋は好きに使ってもらっていいですよ。それになんとこの城、仲居さん付です。食べ物も出てきますよ?」
「えぇーなにそれ、至れり尽くせりか?」
僕も思ったが、さすがわざわざ攻略君がおすすめするだけのことはある。
この空間のコンセプトは龍人様の城の様で、だとしたらテイムしなければ角の生えた人魚とかが無数に襲い掛かって来たのかもしれない。
もしそうならおっかない話だがすでにそこはクリアして、今はこの城の主に雇われた仲居さんといった風だった。
「今のところボスをテイムしているのが龍宮院先生なんで、自動的に建物の主導権は先生に移ってるんだけど……」
「そうなんだ。先生今何してんの?」
「パソコンとかゲームとか動くかテストしてもらってる」
「……マジで動くのか。すごいな」
先輩達を迎えに行って帰って来ただけだが、時間アイテムのせいで結構な時間が経過しているはず。
そうなると、すでに先生もこの城の勝手が分かってきているはずだった。
僕は先生に割り当てた一番いい部屋にみんなを案内した。
そして部屋の前までやってくると、少し大きめに声を掛けた。
「せんせー。入りますよー」
僕は襖を開ける。
「……」
だけど僕はなんとなくすぐにそっと閉じた。
「どうしたの?」
「……ダメな大人がいた」
「「……お邪魔しますっ!」」
ああっ! そんな!
勢いよく入った浦島先輩とレイナさんに躊躇いはなかった。
同性同士の気安い仲って怖い。僕と桃山君はキャッと一歩後ろに下がった。
「ん? ああ、来たのか」
「あ、はい」
「どうも先生」
高級旅館に匹敵しそうなスイートな畳の部屋にはラフな部屋着に着替えた龍宮院先生と、その横にいる龍人が一緒になって格闘ゲームに興じていた。
テーブルの上の大量のビールとイカのあたりめが、なんとも独特の味を醸し出していたが、問題はなさそうである。
「どこに驚いたらいいのか形容しがたいですね先生!」
「格ゲーワタシもやらせてください!」
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そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。